著者
前田 修平 竹村 和人 小林 ちあき
出版者
Meteorological Society of Japan
雑誌
気象集誌. 第2輯 (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.99, no.2, pp.449-458, 2021 (Released:2021-04-14)
参考文献数
17
被引用文献数
3

本研究では、ユーラシアパターン―ユーラシア北部において冬季に卓越するテレコネクションパターン―に関連する惑星波の変調を、JRA-55を使用した合成図分析により解析し、波―平均流相互作用を含むユーラシアパターンの力学的メカニズムを明らかにする。 平年偏差の点からは、ユーラシアパターンは、北ヨーロッパ、中西部シベリア、および日本に作用中心を持つ、等価順圧な鉛直構造をした定常ロスビー波型のテレコネクションとして知られている。一方、帯状平均からのずれの観点では、ユーラシアパターンは、東アジアの冬季モンスーンに関連する惑星波の活動度を変調する。 強化された東アジア冬季モンスーンに対応するユーラシアパターンの正位相では、対流圏のユーラシア中部から北太平洋において東方・上方に伝播する惑星波が平年より強まる。この惑星波の強化には、東アジアにおける帯状平均から擾乱への傾圧エネルギー変換が寄与する。強化され東方・上方に伝播した惑星波は、上部対流圏で収束し、それにより中高緯度の直接循環偏差と、中緯度下部対流圏への寒気流出を引き起こす。これらの結果は、ユーラシアパターンは主に惑星波の活動に関係する全球的な力学モードの1つであることを示す。
著者
二宮 洸三 小林 ちあき
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.77, no.1, pp.77-99, 1999-02-25
被引用文献数
9

本報告では、全球数値予報モデルの24時間予想値を使用して1991年アジア夏季モンスーンにおける降水と水蒸気収支の特徴を調べる。第I部では、アジア夏季モンスーン域の主要の循環系を定義し、その変動との関連において降水分布の時間的変化を調べた。第II部では、それらの循環系の変化に注目して水蒸気輸送と水蒸気収支の特徴を調べる。春季からモンスーン期への主要な変化は、水蒸気シンクを伴う降雨域のインド洋・西太平洋赤道域からアジア大陸亜熱帯域への移動、及び、熱帯・亜熱帯海洋域におけるに水蒸気ソース域の形成によって特徴づけられる。南半球及び低緯度帯からこのモンスーン雨域への大きな水蒸気輸送は主として東西に並んだ三つの時計回りの循環系(CS-3, インド洋 ; CS-4, インドネシア域 ; CS-5, 太平洋亜熱帝域)による。モンスーン雨域を含む大領域(10°S-40°N, 35-140°E)に出入りする水蒸気流束の春季からモンスーン期への変化は、その内部における水蒸気流束・降水量の変化に比して、はるかに小さい。この事実は、領域内変動の重要性を示している。この大領域を細分した各小領域についての水蒸気収支解析の結果も、相隣る水蒸気ソース域とシンク域の形成がモンスーン降雨に重要である事を示した。更に、10×10^6km^2程度の領域の水蒸気収支状態を示すパラメーターとして「流入水蒸気流束比」、「流出水蒸気流束比」、「降水生成比」、などを定義し、各領域の特徴を対比した。西部インド洋・アラビア海に代表される水蒸気ソース域では強い下降流と安定成層が降水による水蒸気消費を抑制し、その結果として域外への大きな水蒸気流束を生じる。その風下に位置する水蒸気シンク域は上昇流と不安定成層が見られ、ソース域から流入する水蒸気の多くが降水として消費され、従って、シンク域からの流出水蒸気流束は相対的に小さい。
著者
二宮 洸三 小林 ちあき
出版者
社団法人日本気象学会
雑誌
Journal of the Meteorological Society of Japan. Ser. II (ISSN:00261165)
巻号頁・発行日
vol.76, no.6, pp.855-877, 1998-12-25
被引用文献数
4

1991年アジア全域に於ける夏季モンスーンの降水の季節変動を全球予報モデルの24時間予報データに基づいて調べた。まず、モンスーン循環を構成する主要な循環系を850hPa10日平均場によって定義し、それらの変動と降水の季節及び季節内変動との関係を示した。インドモンスーン域の降水と最も密接に関係するのはチベット高原上の低気圧性循環系(CS-6)、インド洋赤道付近に中心を持つ時計回りの循環系(CS-3)及び地中海高気圧の循環系(CS-7)であり、東アジア域の降水と最も密接に関係するのはインド西風モンスーン(CS-3の西風)、オーストラリア高気圧から流れ出る赤道を横切る循環系(CS-4)及び太平洋亜熱帯高気圧の循環系(CS-5)である。これらの循環系はそれぞれの変動と相互作用を通じて降雨の変動をもたらす。春から夏への大きな変化は降雨極大域と対流圏中層の相当温位極大域の赤道からアジア大陸南部への移動である。即ち、6月初めCS-7の西方への変位、CS-6とCS-3の発達と共に、降水域・湿潤域は赤道域からアジア大陸南部に移動し、インドモンスーン西風と降雨の極大が出現する(1st onset)。それ以後インド洋西部は乾気・寒気移流域及び下降流域となり水蒸気量は減少し成層は安定化する。6月中旬、インド洋上の西風とインド近辺の降雨は弱まり(monsoon break)、7月中旬に再び極大となる(2nd onset)。東アジアの5月の降水はCS-4とCS-5の南西風によってもたらされ, 降水域・湿潤域は赤道からモンスーントラフ〜インドネシア・インドシナ半島に移行する。梅雨前線の降水帯は5月末〜6月初旬に明瞭となる。インドモンスーン1st onsetの西風は6月中旬太平洋の〜140°Eに達し擾乱を発生させ、太平洋高気圧の東方への変位をもたらす。この後(6月末〜7月初旬)西風域は西に後退し、同時的に太平洋高気圧の西方への変位が起こる。上記の太平洋高気圧の変位は、その南西縁及び北西縁のモンスーントラフ(南シナ海)及び梅雨前線帯の位置と降水量の変化をもたらす。2nd onsetのインドモンスーン西風は7月中旬に太平洋に達し擾乱を発生させる。同時に太平洋高気圧と梅雨前線帯は北東へ変位する。