著者
菅原 憲一 鶴見 隆正 笠井 達哉
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.48-56, 2000-03-31

経頭蓋磁気刺激による運動誘発電位(Motor Evoked Potential:MEP)の変化を指標にして, 遠隔筋随意収縮および関節肢位変化により生じる促通動態を, 橈側主手伸筋(ECR)と橈側主根屈筋(FCR)を対象筋として検討した。被検者は健常男性8名であった。運動課題は咬筋の一過性の随意筋収縮で, 収縮開始から100, 200, 300, 600msecの各時間遅れ(delay)で磁気刺激を与え, それぞれの筋からMEPを誘発した。また, この条件下で前腕肢位変化を回内位と回外位の2つで行った。咬筋の収縮のないRESTの状態でのMEP記録を基準に, 各条件下で誘発されたMEPの振幅および潜時の変化を調べた。その結果, 咬筋の収縮開始からの時間経過に伴う効果は, REST時のMEPと比較して, 振幅においてはECRで回内位・回外位ともにdelay100, 200, 300にて有意(各p<0.05)に増大した。また, FCRでは回内位ですべてのdelayにおいて有意(p<0.05)な増大を示したが, 回外位ではdelay100, 200のみで有意(p<0.05)に増大した。潜時については, ECR, FCRともに回内位と回外位の両肢位delay100, 200で有意(p<0.05)に短縮した。肢位変化による特異的な変化として, FCRにおいて各delayとも回内位でより大きな促通を示した(p<0.05)。また, ECRでは, 回外位でより大きな促通傾向を示したが有意な増大ではなかった。これらの結果から, ある筋に促通効果を及ぼすこの2つの方法は, 脊髄の運動細胞のみならず, 錐体路細胞にも促通効果を生じさせることが明らかになった。特に, 遠隔筋促通に関しては, その中枢性ファシリテーションにおけるタイミングの重要性が再確認され, 肢位変化に関しては, 神経細胞の興奮性に対する肢位特異性があることが示唆された。
著者
菅原 憲一 田辺 茂雄 東 登志夫 鶴見 隆正 笠井 達哉
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2008, pp.A3P2129, 2009

【目的】運動学習過程で大脳皮質運動野は極めて柔軟な可塑性を示すことはよく知られている.しかし、運動学習効率と各筋の特異性に関わる運動野の詳細な知見は得られていない.今回、トラッキング課題による運動学習過程が皮質運動野の興奮性に及ぼす影響を学習経過と筋機能特異性を中心に経頭蓋磁気刺激(TMS)による運動誘発電位(MEP)を指標に検討した.<BR>【方法】対象は健常成人13名(年齢21-30歳)とした.被験者に実験の目的を十分に説明し,書面による同意を得て行った.なお、所属大学の倫理委員会の承認を得て行った.<BR>被検者は安楽な椅子座位で正面のコンピュータモニター上に提示指標が示される.提示波形は3秒間のrest、4秒間に渡る1つの正弦波形、3秒間の一つの三角波形から構成される(全10秒).運動課題はこの提示指標に対して机上のフォーストランスデューサーを母指と示指でピンチし、モニター上に同期して表れるフォースと連動したドット(ドット)を提示指標にできるだけ正確にあわせることとした.提示指標の最大出力は最大ピンチ力の30%程度とし、ドットはモニターの左から右へ10秒間でsweepするものとした.練習課題は全部で7セッションを行った.1セッションは10回の試行から成る.練習課題の前にcontrol課題としてテスト試行(test)を5回行い、各練習セッション後5回のテスト試行を行うものとした.練習課題は提示指標とドットをリアルタイムに見ることができる.しかし、testではsweep開始から3秒後に提示指標とドットが消失し遂行状況は視覚では捕えられなくなる.TMSはこの指標が消失する時点に同期して行われた.MEPは、第1背側骨間筋(FDI)、母指球筋(thenar)、橈側手根屈筋(FCR),そして橈側手根伸筋(ECR)の4筋からTMS(Magstim社製;Magstim-200)によるMEPを同時に導出した.MEP記録は刺激強度をMEP閾値の1.1~1.3倍,各testでMEPを5回記録した.また、各4筋の5%最大ピンチ時の筋活動量(RMS)、提示指標と実施軌道の誤差面積を測定した.データ処理はいずれもcontrolに対する比を算出し分析検討(ANOVA, post hoc test: 5%水準)を行った.<BR>【結果と考察】誤差面積と各筋RMSは、controlと比較すると、各訓練セッションで有意に減少した(P<0.05).FCRとECRは練習後、MEPの変化は認められないものの、7セッション後ではFDIの有意な増加が示された(P<0.05).しかし、thenarでは7セッション後に有意な減少を示した(P<0.05).以上の結果、パフォーマンスの向上に併せて大脳皮質運動野の運動学習による変化は全般の一様な変化ではなく、その学習課題に用いられる各筋の特異性に依存していることが示唆された.