著者
笠原 忠 横田 恵理子 園田 よし子
出版者
共立薬科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2000

アボートシスに至るシグナル伝達機構の解析は細胞生物学の重要な課題であり,我々はこれまで単球と内皮細胞や腫瘍細胞と接着によるアボートシス誘導を見い出し,その関与分子を明らかにしてきた.また,酸化ストレスならびに抗がん剤によるアボートシスの誘導の際,接着斑キナーゼp125FAKがチロシンリン酸化され,この分子が抗アポートシス作用に重要な役割を持つことを示してきた.平成12年度は,(1)FAKの抗アポトシース経路には,Akt/PKB→NF-kB活性化→アポトーシス誘導阻止因子(IAP)ファミリー誘導の経路が関与することをヒト白血病細胞株HL-60,ならびにグリオーマ細胞株T98Gにおいて見い出した.さらに,(2)FAKの抗アボートシスにおける役割を明らかにするために,HL-60でFAK関漣遺伝子の過剰発現系を樹立を試みた.また,T98GではFAK遺伝子の安定導入株を得ると共に,アデノウイルスベクターを構築して,T98G細胞での高発現系を作成した.さらに,平成13年度は,(3)前年度の系を発展させ,FAK高発現系では酸化ストレスや抗がん剤によるアボートシスに高度耐性を示すことがわかり,そのアポトーシス耐性の機序を検討した.一方,Y397F変異FAK遺伝子を導入することにより,逆にアポトーシスを誘導することを見い出し,その機序の解析を行った.(4)酸化ストレスや抗がん剤,放射線によるアボートシス誘導時のカスパーゼファミリー(とくにカスパーゼ-1,3,6,8,9)の関与の解析を行った.このようなアポトーシス耐性機序の解析は,がん化学療法で問題となる薬剤耐性機構を明らかにする上でも極めて重要であると考える.なお,研究の成果の一部は,すでにJBC2000,BBRC2001,ARS2002などに発表または印刷中である.