著者
笹尾 俊明
出版者
一般社団法人 廃棄物資源循環学会
雑誌
廃棄物資源循環学会論文誌 (ISSN:18835856)
巻号頁・発行日
vol.31, pp.75-87, 2020 (Released:2020-11-07)
参考文献数
20
被引用文献数
1

持続可能な廃棄物処理を行う上で,廃棄物の収集運搬や処理の方法が費用に与える影響を把握することは重要である。廃棄物処理費用に関する既存の計量経済分析では,収集運搬・中間処理・最終処分の部門ごとの分析や,単独で事業を行う市町村と一部事務組合等との比較検討は不充分であった。本研究では,収集運搬・中間処理・最終処分の部門ごとに,単独で廃棄物処理事業を行う市町村と一部事務組合等の違いも考慮して,一般廃棄物の収集運搬・処理費用に関する計量経済分析を行った。分析の結果,収集運搬・中間処理・最終処分の全部門で規模の経済が確認され,特に中間処理と最終処分でそれが顕著であることがわかった。単独で収集・処理を行う市町村と比べ,組合等では収集運搬に係る平均費用が低く,また全部門で規模の経済の効果がより大きいことを明らかにした。組合等における費用削減要因として,委託費抑制による可能性を指摘した。
著者
大床 太郎 笹尾 俊明 柘植 隆宏 OHDOKO Taro SASAO Toshiaki TSUGE Takahiro
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
アルテスリベラレス (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.82, pp.79-91, 2008-06

近年,適切な管理対策が講じられなかった結果として,長大な河川において,局所的な環境被害が発生している。本研究で対象とする,東北地方最大の河川である北上川では,その下流域において「濁流問題」と呼ばれる環境被害が生じている(塚本(2004))。1979年の北上大堰の設置以降,流域で大雨が降った際に,大量のゴミや流木,砂の混じった「濁水」が,上・中流域から下流域に流入し,河口域に広がるヨシ原や地域の特産品であるシジミなどの自然生態系に少なからぬ影響を与えている。 北上川で行うべき対策としては,1)ヨシを定期的に刈り入れ,あるいは火入れすることによって適切に管理し,2)河口域の塩分濃度の調整によってシジミを保護し,3)流木などのゴミを引き上げることが挙げられる。 塚本(2004)によれば,北上川河口域周辺地域の住民にアンケートを行った結果,7割以上の住民が,自然生態系や景観の保全に関心を抱いていることが確認されている。河川管理法が1997年に改正され,行政が住民の意図を適切に汲み取って河川を管理すべきであるという体制になっている現在では,北上川においても,住民の意図を反映した河川管理を行うべきである。そのためには,行政が住民の意図を把握する必要があり,社会科学的な研究が希求されてきた。 以上のような課題を踏まえて,笹尾(2003)と笹尾(2004)では,仮想評価法(ContingentValuation Method:CVM)と選択型実験を用いて,北上川河口域の自然環境とレクリエーション設置の対策に関する住民の選好分析を行っている。笹尾(2003)では,ヨシ原の保全やシジミの漁獲量については,河口域の住民よりも上流域の住民の方が高く評価し,流木などゴミの量やレクリエーション整備については,上流域の住民よりも河口域の住民の方が高く評価していることを明らかにしている。加えて,対策に関する住民の評価として,対策案への支払意志額(Willingness to Pay:WTP)を算出している。一方で,選択型実験において,河口域住民のヨシ原保全とシジミ漁獲量に関する評価について統計的に有意な結果が示されなかったこと,費用負担のあり方に関して選好構造の分析をすべきことなどの課題が残された。また,笹尾(2004)では,居住地域・職業・所得などの個人属性によって,対策への選好が分かれたことを確認している。それによって,多様な選好の存在可能性が示され,選好の多様性をより明確かつ適切に表現できる定式化をすべきことが課題として残された。 本研究では,それを拡張し,明示的に選好の多様性を表現できる混合ロジットモデル(Mixed Logit Model:ML)によって分析を試みる。本研究の基となっているデータは笹尾(2003)と笹尾(2004)のアンケート調査で得られたデータであり,そのうちの選択型実験のデータのみを用いる。得られたデータセットは,1)対策費用は上流と下流の双方が負担するという設定で上流の住民を対象に実施した調査(以下,上流),2) 対策費用は上流と下流の双方が負担するという設定で下流の住民を対象に実施した調査(以下,下流A)1) ,3) 対策費用は下流のみが負担するという設定で下流の住民を対象に実施した調査(以下,下流B)2) の3つに分かれている。それらを適切に組み合わせて分析することで,1)上流域と下流域とで,河口域環境対策はそれぞれどのように評価されるのか,2)費用負担に関する設定の違いによって,河口域環境対策に対する評価はどのように異なるのか,という課題を明らかにすることができる。 河川環境に関して,本研究と同様の環境評価手法を用いた近年の研究として,国内では田口ほか(2000)・山根ほか(2003)が挙げられる。しかし,それらにおいては,住民の多様性を考慮した選好構造分析や,費用負担制度に関する詳細な検討は行われていない。また,国外の近年の研究としては,Hanley et al.(2005,2006a, 2006b)・Colombo et al. (2007)が挙げられる。そこでは,河川環境の整備に対する選好構造分析において,本研究と同様にMLが用いられている。選好の多様性を考慮できるMLでの研究が,現在の研究の潮流となっていると言えよう。