著者
皆上 伸 柴崎 茂光 愛甲 哲也 柘植 隆宏 庄子 康 八巻 一成 山本 清龍
出版者
林業経済学会
雑誌
林業経済研究 (ISSN:02851598)
巻号頁・発行日
vol.59, no.3, pp.10-20, 2013 (Released:2017-08-28)
被引用文献数
2

本論文では,十和田八幡平国立公園の奥入瀬渓流を対象として,リスクマネジメントの現状と問題点を明らかにした。2009年10月にアンケート調査を行い,渓流内の事故について,責任の所在に対する利用者の意向や個人属性を明らかにした上で,利用者を4群に分類した。9割弱の利用者が,歩道の安全性向上を目途とした整備を望んでいる一方で,渓流内の事故を自己責任と考える利用者も少数存在した。次に公的機関に聞き取り調査を実施し,リスクマネジメントの現状を整理した。歩道については,2003年の渓流落枝事故以降,倒木や落枝などのリスクを把握するための点検の強化や,施設賠償責任保険への加入などの改善策が実施されていた。しかし,歩道の未設置区間の存在や,曖昧な管理域などのリスクが依然残っている。組織横断的な機関を設置し,協働型の解決策をはかることも考慮する時期にきている。
著者
栗山 浩一 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.129, 2018

<p>近年,複数の地域で国立公園指定や世界遺産登録が続いている。国立公園指定については,2014年3月慶良間諸島,2016年9月やんばる,そして2017年3月奄美群島国立公園が新たに指定された。一方,世界遺産については2013年に富士山が世界文化遺産に登録され,現在は奄美・沖縄が世界自然遺産への登録を目指している。こうした国立公園指定や世界遺産登録により観光地としての魅力度が高まり,観光客数が増加することが期待されている。本研究では,国立公園指定の前後の観光客の変化を分析し,国立公園指定が観光価値にどのように影響するのかを分析する。全国の一般市民を対象に国立公園の利用についてアンケート調査を2013年から継続して実施し,国立公園指定の前後における公園利用の変化をトラベルコスト法により分析した。その結果,国立公園の指定直後には影響は少ないものの,翌年から観光価値が上昇することが示され,国立公園指定が観光価値に大きな影響をもたらすことが分かった。また国立公園指定は指定された地域だけではなく,周辺の国立公園にも影響することが示された。この分析結果をもとに国立公園の魅力度を改善するための今後の課題について議論する。</p>
著者
栗山 浩一 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.127, 2016

2013年6月,富士山が世界文化遺産に登録されたが,富士山の世界遺産登録は富士山のある富士箱根伊豆国立公園の観光利用に影響を及ぼす可能性がある。そこで,富士山が世界遺産に登録される前後の2012年から2014年の全国の国立公園の訪問行動を分析し,世界遺産登録が各国立公園の訪問行動にもたらした影響を評価することで,世界遺産登録の経済価値を分析する。過去1年間の国立公園の利用回数をたずねるアンケート調査をWeb調査により3年間実施した。3年間累計で7373人から有効回答が得られた。この訪問データをもとにクーンタッカーモデルを用いて分析したところ,富士箱根伊豆国立公園の訪問価値は2012年では一人あたり平均3736円,2013年では7326円,2014年では8218円と上昇傾向にあった。この訪問価値のうち世界遺産登録による影響をDifference-in-Difference推定量を用いて計測したところ,世界遺産登録価値は2013年では2621円に対して2014年では4281円と上昇し,2014年の訪問価値のうち約半分が世界遺産登録の効果であることが示された。
著者
栗山 浩一 竹内 憲司 庄子 康 柘植 隆宏
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2009

本研究では,世界自然遺産知床を対象として,環境政策が自然環境の保全と観光利用とのバランスを取るために有効に機能しているのか,経済学的な視点から分析を行った。2011年から知床五湖で運用が開始された利用調整地区制度が利用動態に及ぼした影響を分析するため,導入前後の利用動向を比較した。これを実験経済学におけるフィールド実験(自然実験)と位置付けることで,利用動態の変化から本制度の経済学的な評価を行った。
著者
大床 太郎 笹尾 俊明 柘植 隆宏 OHDOKO Taro SASAO Toshiaki TSUGE Takahiro
出版者
岩手大学人文社会科学部
雑誌
アルテスリベラレス (ISSN:03854183)
巻号頁・発行日
no.82, pp.79-91, 2008-06

近年,適切な管理対策が講じられなかった結果として,長大な河川において,局所的な環境被害が発生している。本研究で対象とする,東北地方最大の河川である北上川では,その下流域において「濁流問題」と呼ばれる環境被害が生じている(塚本(2004))。1979年の北上大堰の設置以降,流域で大雨が降った際に,大量のゴミや流木,砂の混じった「濁水」が,上・中流域から下流域に流入し,河口域に広がるヨシ原や地域の特産品であるシジミなどの自然生態系に少なからぬ影響を与えている。 北上川で行うべき対策としては,1)ヨシを定期的に刈り入れ,あるいは火入れすることによって適切に管理し,2)河口域の塩分濃度の調整によってシジミを保護し,3)流木などのゴミを引き上げることが挙げられる。 塚本(2004)によれば,北上川河口域周辺地域の住民にアンケートを行った結果,7割以上の住民が,自然生態系や景観の保全に関心を抱いていることが確認されている。河川管理法が1997年に改正され,行政が住民の意図を適切に汲み取って河川を管理すべきであるという体制になっている現在では,北上川においても,住民の意図を反映した河川管理を行うべきである。そのためには,行政が住民の意図を把握する必要があり,社会科学的な研究が希求されてきた。 以上のような課題を踏まえて,笹尾(2003)と笹尾(2004)では,仮想評価法(ContingentValuation Method:CVM)と選択型実験を用いて,北上川河口域の自然環境とレクリエーション設置の対策に関する住民の選好分析を行っている。笹尾(2003)では,ヨシ原の保全やシジミの漁獲量については,河口域の住民よりも上流域の住民の方が高く評価し,流木などゴミの量やレクリエーション整備については,上流域の住民よりも河口域の住民の方が高く評価していることを明らかにしている。加えて,対策に関する住民の評価として,対策案への支払意志額(Willingness to Pay:WTP)を算出している。一方で,選択型実験において,河口域住民のヨシ原保全とシジミ漁獲量に関する評価について統計的に有意な結果が示されなかったこと,費用負担のあり方に関して選好構造の分析をすべきことなどの課題が残された。また,笹尾(2004)では,居住地域・職業・所得などの個人属性によって,対策への選好が分かれたことを確認している。それによって,多様な選好の存在可能性が示され,選好の多様性をより明確かつ適切に表現できる定式化をすべきことが課題として残された。 本研究では,それを拡張し,明示的に選好の多様性を表現できる混合ロジットモデル(Mixed Logit Model:ML)によって分析を試みる。本研究の基となっているデータは笹尾(2003)と笹尾(2004)のアンケート調査で得られたデータであり,そのうちの選択型実験のデータのみを用いる。得られたデータセットは,1)対策費用は上流と下流の双方が負担するという設定で上流の住民を対象に実施した調査(以下,上流),2) 対策費用は上流と下流の双方が負担するという設定で下流の住民を対象に実施した調査(以下,下流A)1) ,3) 対策費用は下流のみが負担するという設定で下流の住民を対象に実施した調査(以下,下流B)2) の3つに分かれている。それらを適切に組み合わせて分析することで,1)上流域と下流域とで,河口域環境対策はそれぞれどのように評価されるのか,2)費用負担に関する設定の違いによって,河口域環境対策に対する評価はどのように異なるのか,という課題を明らかにすることができる。 河川環境に関して,本研究と同様の環境評価手法を用いた近年の研究として,国内では田口ほか(2000)・山根ほか(2003)が挙げられる。しかし,それらにおいては,住民の多様性を考慮した選好構造分析や,費用負担制度に関する詳細な検討は行われていない。また,国外の近年の研究としては,Hanley et al.(2005,2006a, 2006b)・Colombo et al. (2007)が挙げられる。そこでは,河川環境の整備に対する選好構造分析において,本研究と同様にMLが用いられている。選好の多様性を考慮できるMLでの研究が,現在の研究の潮流となっていると言えよう。