著者
瀨山 一正 野村 希代子 下岡 里英 高川(神原) 彩 箱田 雅之
出版者
一般社団法人 日本痛風・核酸代謝学会
雑誌
痛風と核酸代謝 (ISSN:13449796)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.115-122, 2016-12-20 (Released:2016-12-20)

進化医学によると,190万年前に始まったヒト種としての進化の過程で,約1万年前の農業導入前までほとんど99%の時間を,ヒトは運動量の多い狩猟採集生活をしていたと考えられる.食は,自生している植物性食品を主体に動物性食品も加えた雑食性で,この間の身体活動も含めた生活環境に適応していたと考えられる.従って,ヒトの遺伝子にこの時代までの生活環境の情報が分子的記憶として書き込まれていると言える.旧石器時代までの植物性食を主体とした食物の代謝後には体内でアルカリ成分が酸性成分より多く生成され生理的代謝性アルカローシスが生じていたと推測される.これに対して,現代食は構成食品の特色から必ず酸生成量がアルカリ生成量を超えるので,生理的代謝性アシドーシスを惹起する.この総説では,酸‐塩基平衡に関する遺伝子上の適応条件と現代食の代謝後の生理的条件が合致しない事が高尿酸血症・痛風発症の一要因になりうることを議論する.これを基に,従来からのこの疾患に対する食の介入に新たに酸-塩基平衡の視点から下記の条件を提案する.1 )食の代謝により生成される酸負荷を70 mEq/day以下とする.2 )食材の準備段階で,たんぱく質含量(P)(g表示)とK+含量(K+)(mEq表示)から求めたP/K+比を1.5 以下とする.3 )尿pHは6.0以上にする.
著者
箱田 雅之 笠置 文善
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.33-39, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)

国民生活基礎調査によれば,1986年以降の30年間において我が国の痛風患者数は約4倍,男性に限れば約5倍の増加を見ている.国民生活基礎調査は住民の自己回答に基づいていることから,他の指標として医師の診断に基づく診療報酬明細書(レセプト)データベースとの比較を行った.2013年と2016年の国民生活基礎調査で示された通院者率は,レセプトデータベース(2010年~2014年)による痛風有病率と同等の結果であった.したがって,国民生活基礎調査の結果は痛風患者の動向をほぼ正確に反映していると考えられた.痛風が急激に増加した要因であるが,痛風の有病率が国民生活基礎調査においてもレセプトデータベースによる解析結果においても60歳代から70歳代においてピークを示したことから,近年の高齢者数の増加がその背景にあると考えられた.さらに,高齢者の中においても,男性では痛風有病率は経年的に上昇傾向であり,痛風患者数の増加に寄与したと考えられた.今後も高齢者数は増加し続け,2042年にピークを迎えると推定されていることから,痛風患者数の更なる増加が予想された.