著者
藤森 新 大山 恵子 諸見里 仁 田淵 大貴 大山 博司
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.46, no.1, pp.23-28, 2022-07-25 (Released:2022-07-25)

新型コロナウイルスワクチンは新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の発症と重症化予防に大きく貢献しているが,種々の副反応に悩まされる接種者も多い.2021年10月に外来通院中の痛風患者にアンケート調査することで,COVID-19ワクチン接種と痛風発作の関連を検討した.無記名回答,重複回答,無症候性高尿酸血症患者を除外した痛風患者1,720例のうちワクチン接種を済ませた1,480例の中で,20例(1.35%)がワクチン接種3日以内に痛風発作を起こしたと回答していた.ワクチンの種類による差はみられなかった.13例は尿酸降下薬による治療中で,そのうちの10例については血清尿酸値のコントロールは概ね良好であった.また,アンケート調査の回答に加えて診療録の記録も考慮すると57例(3.58%)の患者がワクチン接種後に痛風発作が起こりやすくなっていたと判定された.ワクチン接種が痛風発作のリスクを高めるとの報告があり,ワクチン製剤に含まれるアルミニウムアジュバントが自然免疫機構におけるNLRP3インフラマソームを活性化して痛風発作をきたす機序が推察されているが,COVID-19ワクチンにはアルミニウムアジュバントは含まれていない.COVID-19ワクチン接種による痛風発作の発症機序については不明と言わざるをえないが,痛風発作はCOVID-19ワクチンの副反応の一つである可能性が示唆された.
著者
森脇 優司
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.43, no.2, pp.129-134, 2019-12-20 (Released:2019-12-20)

アルコールはアセトアルデヒドを経て,酢酸からアセチルCoAへと代謝されるが,その際ATP の過剰消費が起こり,アデニンヌクレオチドの分解が亢進して,尿酸が上昇すると考えられている.またNADの消費によって解糖系が抑制される結果,ATP の産生障害が起こることもその一因となることが示唆されている.一方,アルコールの消費によってNADH が産生され,乳酸からピルビン酸への酸化が抑制される結果,蓄積した乳酸が,近位尿細管管腔側に発現している尿酸トランスポーター(URAT1)を介して排泄される際に,尿酸の吸収が起こり,尿酸値は上昇する.さらにビールに多く含まれるプリン体も尿酸上昇の一因となる.アルコール摂取量の増加に伴って高尿酸血症の頻度は増加する.20歳以上の男女1万5000人を対象とした米国国民健康栄養調査研究や,本邦での6年間の前向き研究によると,アルコールの消費量と血清尿酸値との間には相関が認められる.また同じアルコール量ではビールの摂取が尿酸値に対する影響が最も強いことが明らかにされているが,ワインはビールや蒸留酒と比べて血清尿酸値への関与は低いようである.この原因としてワインに多く含まれるポリフェノールによるキサンチンオキシダーゼの抑制作用,尿酸排泄促進作用などが推定される.しかしアルコール飲料はプリン体の有無にかかわらず,それ自体の代謝に関連して血清尿酸値を上昇させる.
著者
西山 真純 皆越 奈津子 石山 裕子 嶋田 英敬
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.187-193, 2020

<p>痛風発作が春から夏にかけて多くみられることはよく知られており,原因としては高温による脱水や季節による食生活の変化などが挙げられているが定かではない.当地においては2019年5月〜9月の気温変動が例年よりも激しく,この短期間であれば食生活変化の影響を除き,気温変化と痛風発作の関連性が観察できるのではないかと考え調査を行った.2019年5月1日〜9月30日の間に痛風発作で当院外来を受診した初診患者105名(平均年齢48.2歳±12.5,中央値47歳,全て男性患者)の発症時期を聴取し,気象庁の熊本における気温データ(最高気温,最低気温,気温差)と照合してみたところ,5月は他月に比べ最高気温は低かったが,平均気温差は11.4℃と期間中最も大きく,患者数が最も多かった.また,一旦気温が低下した後,再上昇する際に患者数が増えている傾向が見られた.5月は気温の上昇や気温差が大きく,この気温変化に体が順応できていなかったことが発作を引き起こした理由の一つではないかと考えられた.また,尿比重を5月と8月に発作を起こした患者において比較したところ,5月の患者の方が尿比重が高めであるという傾向がみられた.このため,8月という気温の高い時期では気にかけて飲水をする者が多いが,まだ気温の低い5月では積極的に飲水をする者の割合が低いのではないかと考えられた.しかし,今回の調査は限定された期間内の結果であり,標本数も限られており,毎年同様の傾向が表れるのかどうかについては更なる検討が必要であると考えられる.</p><p>今回の結果を踏まえ,今までは痛風発作は夏季に多いと指導を行っていたが,初夏といった季節の変わり目から痛風発作が多く出現するということ,その頃から飲水を心がけること等を考慮し患者指導を行っていくことで,よりきめ細やかな患者指導に繋げていきたいと考える.</p>
著者
髙栁 ふくえ 福内 友子 山岡 法子 安田 誠 馬渡 健一 奥 直人 金子 希代子
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.44, no.2, pp.177-185, 2020-12-20 (Released:2020-12-20)

本邦における「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」では,患者が食事から摂取するプリン体摂取目標値が400mg/日以下とされている.著者らは,これまで,発酵食品に着目し,酒粕に魚を浸漬すると,魚のプリン体が減少することを報告した.本研究では異なる発酵食品で,和食の定番である西京味噌漬けを検討した.めかじきを同量の西京味噌に1日間と3日間浸漬した.食品中のプリン体は,当研究室で開発された高速液体クロマトグラフィー(HPLC)を用いた2つの方法で測定した.方法1では,試料を酸加水分解し,プリン塩基にまで分解したものを測定し,総プリン体量を求めた.方法2では,酸加水分解は行わず,遊離プリン体を分子種別に一斉分析する方法を用いて測定した.方法1で測定した総プリン体の結果は,めかじき(1日)は149.7mg/100gで,プリン塩基別ではヒポキサンチン(HX)類の割合が最も多かった.めかじき(漬け3日)では,めかじき(3日)と比較してHXが有意に減少した.一方,西京味噌(1日)では,総プリン体量は40.9mg/100gで,西京味噌(漬け1日)のHXが有意に増加していた.方法2で測定した,めかじき(1日)および(3日)には,遊離プリン体として存在するイノシン酸(IMP),イノシン(Ino),HXが多く見られた.めかじき(漬け3日)のInoが減少し,西京味噌(漬け3日)のInoが増加した.さらに,西京味噌(1日)および(3日)と,西京味噌(漬け1日)および(漬け3日)を固液分離した結果,西京味噌(漬け1日)および西京味噌(漬け3日)の液体側にInoが存在していた.これらの結果より,西京漬けは,めかじきに多く含まれるHX類であるInoを減少させたこと,その多くが西京味噌の液体側に移行したことが示された.西京漬けは魚の調理法として,高尿酸血症・痛風患者の食事療法に提案したい献立の一つと考えた.
著者
箱田 雅之 笠置 文善
出版者
一般社団法人 日本痛風・尿酸核酸学会
雑誌
痛風と尿酸・核酸 (ISSN:24350095)
巻号頁・発行日
vol.44, no.1, pp.33-39, 2020-07-25 (Released:2020-07-25)

国民生活基礎調査によれば,1986年以降の30年間において我が国の痛風患者数は約4倍,男性に限れば約5倍の増加を見ている.国民生活基礎調査は住民の自己回答に基づいていることから,他の指標として医師の診断に基づく診療報酬明細書(レセプト)データベースとの比較を行った.2013年と2016年の国民生活基礎調査で示された通院者率は,レセプトデータベース(2010年~2014年)による痛風有病率と同等の結果であった.したがって,国民生活基礎調査の結果は痛風患者の動向をほぼ正確に反映していると考えられた.痛風が急激に増加した要因であるが,痛風の有病率が国民生活基礎調査においてもレセプトデータベースによる解析結果においても60歳代から70歳代においてピークを示したことから,近年の高齢者数の増加がその背景にあると考えられた.さらに,高齢者の中においても,男性では痛風有病率は経年的に上昇傾向であり,痛風患者数の増加に寄与したと考えられた.今後も高齢者数は増加し続け,2042年にピークを迎えると推定されていることから,痛風患者数の更なる増加が予想された.