著者
篠原 直登 山道 真人
出版者
一般社団法人 日本生態学会
雑誌
日本生態学会誌 (ISSN:00215007)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.35-65, 2021 (Released:2021-08-17)
参考文献数
116

単一の資源をめぐって競争する種は共存できない、という競争排除則に反して、野外の生態系では少数の資源を共有する多数の種が共存しているように見える。このパラドックスは、古くから群集生態学の中心的な問いであり続けてきた。近年になって、複数の多種共存メカニズムの効果を統一的に説明する考え方として、Peter Chessonが提唱した共存理論が注目を浴びている。この理論的枠組みでは、安定化効果(負の頻度依存性)と均一化効果(競争能力の差の減少)のバランスによって多種が共存するか決まるとされる。さらに侵入増殖率を分解することで、定常環境下で働くプロセス(資源分割や種ごとに異なる捕食者等)と、時空間的に変動する環境で働くプロセス(相対的非線形性・ストレージ効果)を統一的に捉え、それらの相対的な重要性を調べることができる。その数学的な複雑さにもかかわらず、Chessonの共存理論は大きな広がりを見せ、実証的な知見も蓄積されてきた。さらに近年では、他の群集生態学理論との関連性が明らかにされつつあり、群集生態学という研究分野を統合する理論として発展していく可能性がある。本稿では、なるべく多くの図を用いて変動環境における多種共存メカニズムを整理し、Chessonの共存理論の解説を試みるとともに、今後の群集生態学研究の方向性について議論する。