著者
小泉 修一 篠崎 陽一
出版者
日本毒性学会
雑誌
日本毒性学会学術年会 第43回日本毒性学会学術年会
巻号頁・発行日
pp.S8-3, 2016 (Released:2016-08-08)

グリア細胞は、多彩な脳機能を制御している。従って、その破綻は脳機能に大きな影響を与える。種々の脳疾患、外傷、精神疾患、さらに各種神経変性疾患等では、先ずグリア細胞の性質が変化し、これがこれら疾患の直接の病因になり得ること、さらに疾患の慢性化、難治化に関与していることが報告され、注目を集めている。このように、脳の生理・病態生理機能と密接に関係するグリア細胞であるが、中枢に移行する種々の医薬品、化学物質、環境汚染物質等がグリア細胞に与える影響についてはほとんど知られていない。本研究では、ミクログリアが、メチル水銀(MeHg)誘発神経毒性を二方向性に制御していることを報告する。ミクログリアは、脳内環境の高感度センサーとして機能しており、低濃度MeHg(~0.1 µM)に曝露された際に、先ずミクログリアが感知・応答して様々なシグナルカスケードを活性化した。大脳皮質スライス培養標本にMeHgを添加すると、曝露初期にはミクログリアは神経保護作用を呈するが、慢性期にはむしろ神経障害作用を呈した。曝露初期の応答は(1)VNUT依存的なATP開講放出、(2)ATP/P2Y1受容体を介したMeHg情報のアストロサイトへの伝達、(3)アストロサイト性神経保護分子(IL-6、adenosine等)産生、による神経保護作用であった。慢性期は、(4)ミクログリアの炎症型フェノタイプへの変化、(5)ミクログリアのROCK活性化、(6) 炎症性サイトカイン産生・放出、による神経障害作用であった。慢性期の神経障害はこのミクログリアの応答依存的であった。最近、水俣病の慢性期の神経症状緩和に、ROCK阻害薬が有効である可能性が示唆され注目を集めている。ROCKを含むミクログリアの持続的活性化が、MeHg誘発性神経障害の分子病態と強くリンクしていること、またその制御が治療に有効である可能性についても考察する。
著者
若林 由羽 荒井 朗 宇津木 笑香 篠崎 陽一 白井 貴之 竹内 良太 平林 克仁 真壁 理沙 新谷 益巳
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.46 Suppl. No.1 (第53回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C-49_2, 2019 (Released:2019-08-20)

【はじめに、目的】日本人のストレスについて国民生活基礎調査(厚生労働省2016年)では、国民(12歳以上)の47.7%の人が日常生活でストレスを感じていると報告されている。ストレスは蓄積されることで生体防御機構である内分泌系、免疫系、自律神経系のバランスが崩れ、ストレス性疾患を発症する可能性がある。そこで、このストレスを軽減する試みの1つとして運動によるストレス軽減効果の検証が進められている。本研究では、ストレス軽減効果を目的とした運動処方において、運動習慣形成因子に着目し、この因子が運動強度の決定に影響を及ぼすか検証を行った。 【方法】A大学健常男子学生6名を被験者とし、厚生労働省の基準に基づき運動習慣の有無によって2群(運動習慣群3名・非運動習慣群3名)に設定した。運動強度は、6分間運動負荷試験を実施し、Astrand-Ryhmingノモグラム変法を用いて推定VO2max算出した。被験者には中3日空けた2日間を設定し、推定VO2max40%(1日目)と推定VO2max70%(2日目)の運動強度で自転車エルゴメータを使用した20分間の定負荷運動を実施した。この定負荷運動によってストレス軽減効果が得られているかを判定する指標には、POMS2(Profile of Mood States Second Edition)日本語版(以下:POMS2)を用いた。POMS2は「AH-怒り・敵意」「CB-混乱・当惑」「DD-抑うつ・落ち込み」「FI-疲労・無気力」「TA-緊張・不安」「VA-活気・活力」「F-友好」の7尺度とネガティブな気分状態を総合的に表す「TMD-総合的気分状態」から被験者の気分状態を評価することができる。また、統計はSPSS(.Ver22)を用いて「運動習慣群」と「非運動習慣群」の2群間の比較においてt検定を使用した。各群の運動強度別の比較及び運動強度別の運動前後の比較においてrepeated measuer ANOVAを使用した。 【結果】「運動習慣群」と「非運動習慣群」の2群間の比較においてPOMS2の結果に有意差は認められなかった。「運動習慣群」では推定VO2max40%の運動前後でTAに有意差を認め、運動後に減少した。「非運動習慣群」では、推定VO2max40%と推定VO2max70%の運動後を比較したところ、VA、TMDに有意差を認め、VAは推定VO2max40%の運動で高値を示し、TMDは推定VO2max70%の運動で高値を示した。また、推定VO2max70%の運動前後のVAで有意差を認め、運動後で減少した。その他の統計結果からは運動習慣形成因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼすことを示唆する結果は得られなかった。 【結論】「運動習慣群」と「非運動習慣群」は双方とも推定VO2max40%の運動の方が、ストレス軽減効果が大きく、運動習慣形成因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼす可能性は低いことが示唆された。このことから、新たに運動習慣の有無ではなく個人の身体的能力因子が運動強度別のストレス軽減効果に影響を及ぼす可能性が考えられた。 【倫理的配慮,説明と同意】本研究は群馬医療福祉大学の倫理委員会の承認を得て行なわれた(承認番号 16B-10)。被験者には、研究内容を口頭と書面にて十分に説明をし、同意書に同意を得た上で実施した。