著者
米勢 治子
出版者
名古屋市立大学
雑誌
人間文化研究 (ISSN:13480308)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.93-106, 2006-01-10

1990年の出入国管理及び難民認定法の改正に伴い、ブラジルを中心に多くの日系人が来日するようになった。愛知県は日系労働者が集住している地域であるが、出稼ぎとして来日した彼らが、地域住民とコミュニケーション手段を持たないまま、滞在が長期化するなかで、いくつかの問題が顕在化してきた。多文化共生社会到来との掛け声のなか、彼らへの言語保障をどのような形で行うのか、具体的な施策が必要とされている。戦後、国内の日本語教育は留学生教育として発展し、日本の経済成長と国際情勢の変化ともにさまざまなタイプの外国人を受け入れてきた。彼らへの日本語教育の進展に伴い、その専門性も確立されたが、地域日本語教育と呼ばれるボランティアを主体とした新たな局面を迎えるにあたって、今日的な課題が生まれた。すなわち、日本語教育を求める学習者への対応は可能であっても、日本語教育が必要と思われるすべての人々への対応にはいたらないことである。外国人住民の日本語能力に関する調査はないが、その潜在的な学習ニーズを推測することによって、日本語教育実施状況とのギャップが大きいことが分かる。受け入れた人々への言語保障の視点を持つならば、ボランティアによる地域日本語教育では限界がある。移民先進国の第二言語教育施策には、参考にすべきことも多い。そして、日本語学習機会が保障されてもなお、ボランティアによる活動は、多文化共生社会構築のために必要不可欠なものである。
著者
米勢 治子
出版者
公益社団法人 日本語教育学会
雑誌
日本語教育 (ISSN:03894037)
巻号頁・発行日
vol.144, pp.61-72, 2010 (Released:2017-04-15)
参考文献数
9

本稿では「生活者としての外国人」を対象とした地域日本語教育において必要とされるさまざまな人材の育成について述べる。まず,地域日本語教育を担う者は誰か,その人材育成がどのような枠組みで行われるかを再考する。この枠組みに基づいた地域日本語活動を担う人材育成の方法を事例によって示し,人材育成の課題について考える。 「生活者としての外国人」の日本語習得には生活のさまざまな場面で接触するすべての日本人がかかわることができる。そのような人々を,教室に集う外国人住民と日本語でコミュニケーション活動を担う会話パートナーとして育成する場が地域日本語教室である。このコミュニケーション活動を促進する役割を担う日本語コーディネータや,日本語教室の設置・運営を展開するシステムコーディネータには,地域日本語教育の専門性と有償のポジションが必要であり,コーディネータをボランティアとして育成しようとする現状には限界がある。