著者
米持 真一
出版者
公益社団法人 大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.55, no.1, pp.10-19, 2020

<p>大気環境学会学術賞受賞の対象となった、大気中微小エアロゾルの動態観測研究と光触媒特性を活用した大気環境改善に関する研究のうち、本稿では特に前者の研究活動に重点をおいて概要を説明する。地方自治体の環境研究所に所属する研究員として、最初に取り組んだ研究対象がPM<sub>2.5</sub>であるが、本稿では、そこからPM<sub>1</sub>との並行観測、自由対流圏に位置する富士山頂での越境大気汚染研究、日中韓の共同研究、中国農村地域の石炭燃焼粒子の磁気的特性などのフィールド研究に発展した経緯や、得られた成果について整理したものである。</p><p>後者については、主に磁場を用いた光触媒複合材料開発の概略以外は、十分な紹介ができなかったが、異分野での研究をリンクさせることで、新しい視点から大気環境研究を展開できる面白さが伝われば幸いである。</p>
著者
米持 真一 梅沢 夏実 磯部 充久 松本 利恵 深井 順子 城 裕樹 関根 健司 相沢 和哉
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.44, no.4, pp.211-221, 2009-07-10
被引用文献数
3 1

マルチノズルカスケードインパクタ(MCI)サンプラーを用いて,埼玉県内の国道17号線沿道3地点と,対照となる一般環境の3つの組合せからなる計6地点で,微小粒子(PM_<2.5>)と粗大粒子(PM_<2.5-10>)を捕集した。MCIサンプラーを用いて得られたPM_<2.5>質量濃度は,FRMサンプラーを用いて得られたPM_<2.5>質量濃度より5%程度高くなった。道路沿道と一般環境のPM_<2.5>質量濃度間の相関は,PM_<2.5-10>濃度間の相関より高くなった。しかしながら,特に田園に位置する騎西では,冬期に道路沿道よりも高濃度となる現象が見られた。この原因は収穫期以降に見られるバイオマスの燃焼によるものと考えられた。また,東京湾から55kmの距離に位置する騎西でも,夏期の粗大粒子中に海塩粒子が輸送されていた。県内の6地点における硫酸イオンの濃度変動の類似性を変動係数で評価したところ,夏期,冬期ともに変動が極めて類似していた。このことから,少なくとも県内の硫酸イオンは自動車などの局所的な発生源の影響は少なく,長距離輸送などの影響が示唆された。
著者
松本 利恵 唐牛 聖文 米持 真一 村野 健太郎
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.37, no.6, pp.357-373, 2002-11-10
被引用文献数
8

2000年7月の三宅島大噴火以降,関東地方では著しい大気中のSO_2濃度の上昇や大気降下物の酸性化が観測されている。そこで,埼玉県における大気降下物や大気中のS0_2濃度に対する三宅島火山の影響について検討を行った。1999年4月から2001年3月にかけて埼玉県内5地点で酸性雨ろ過式採取装置を用いた大気降下物の観測を行った。その結果,関東地方各地で大気中のS0_2濃度が上昇した2000年8月から10月は,1999年の同時期と比べて,大気降下物のpHは低下,nss-SO_4^2-の降下量は増加し,硫黄酸化物の大気降下物への汚染寄与が大きくなった。騎西に設置した酸性雨自動イオンクロマトグラフ分析装置により降雨量1mmごとに測定した2000年9月から10月初めの降雨のイオン種濃度変動と上空に存在する気流の関係を検討した。その結果,上空に三宅島から騎西へ向かう気流が存在するときに降雨のpHの低下およびnss-SO_4^2-濃度の上昇が生じ,高いときにはnss-SO_4^2-が陰イオンの約90%を占めていた。更に気流の方向により降雨の酸性化やnss-SO_4^2-濃度上昇の程度が短時間で変化したことから,火山から約220km離れた騎西の降雨に対する三宅島火山起源の硫黄酸化物の影響が明らかになった。降雨を伴う期間の騎西における大気中SO_2濃度変動について検討したところ,火山放出物が安定した上空を移流する場合には大気安定度が,強風に吹き下ろされて低空を移流する場合には三宅島からの輸送経路途中の降雨による洗浄効果が大きな要因となっていた。
著者
米持 真一 梅沢 夏実 松本 利恵
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.42, no.2, pp.129-142, 2007-03-10
被引用文献数
5

首都圏郊外に位置する,埼玉県北部の騎西町において,2000年から5年以上にわたり,PM2.5の質量濃度および主要成分濃度の連続観測を行った。PM_<2.5>の捕集にはPM_<2.5>、サンプラー(R&P社,PartisolPlus2025)を用い,一週間単位の質量濃度および主要化学組成の分析を行った。 PM_<2.5>濃度には明瞭な減少傾向は見られなかった。微小粒子の主成分である,水溶性無機イオンと炭素成分について分析を行い,その推移を評価した。水溶性無機イオンの90%は,塩化物イオン(Cl^-),硝酸イオン(NO_3^-)および硫酸イオン(SO_4^<2->)と,これらを中和するアンモニウムイオン(NH_4^+)で構成されていた。陰イオン3成分濃度は特徴的な季節変動が見られた。Cl^-と炭素成分(TC),特に,元素状炭素(Cel)には明瞭な減少傾向が見られた。また,NO_3^-にも緩やかな減少傾向が見られた。一方,SO_4^<2->には減少傾向は見られず,2004,2005年は,冬期を除く季節で増加していた。並行して稼働させたTEOMの観測値とPM_<2.5>サンプラーによるフィルター捕集との比較では,年平均値では概ね同程度の値であったが,TEOM内部での半揮発性成分の揮散量と,外気温に依存するPM_<2.5>サンプラーのフィルター上からの揮散量の大小関係により,両測定値の差には特徴的な季節変動が見られた。
著者
松本 利恵 米持 真一 丸山 由喜雄 小久保 明子 坂本 和彦
出版者
公益社団法人大気環境学会
雑誌
大気環境学会誌 (ISSN:13414178)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.135-143, 2006-05-10
被引用文献数
3

埼玉県南西部の産業廃棄物焼却施設が集中して存在していた地域において,1999年7月から2000年7月まで大気沈着物の観測を実施した。その結果,焼却施設群の中心部や風下の地点でnss-Cl^-沈着量が大きくなる傾向を示していた。調査地域に存在する大気汚染防止法の規制対象の廃棄物焼却施設について,経済産業省低煙源工場拡散モデルを用いて採取地点付近のばい煙の相対的な影響度を推計したところ,観測したnss-Cl^-沈着量と比例関係が得られた。この関係を用いて,大気汚染防止法の対象となる民間の産業廃棄物焼却施設,市町の一般廃棄物焼却施設,およびその他の要因に由来するnss-Cl^-沈着量の割合を推計した結果,地点により異なるが,調査した10地点の要因別寄与割合の平均はそれぞれ55%,38%,7%であった。