著者
久保 喜平 松山 聡 片山 久美子 堤 千津 米澤 久美子 嶋田 照雅 小谷 猛夫 佐久間 貞重 大橋 文人 高森 康彦
出版者
社団法人日本獣医学会
雑誌
The journal of veterinary medical science (ISSN:09167250)
巻号頁・発行日
vol.60, no.12, pp.1335-1340, s・iii, 1998-12
被引用文献数
1

乳腺腫瘍は雌イヌにおいて高頻度に発生する腫瘍のひとつである.本研究では, 腫瘍マーカーとしての有用性を検討するためにイヌ乳腺腫瘍材料におけるc-kit遺伝子の発現を調べた.4種の哺乳動物のc-kit cDNAの塩基配列を参考にRT-PCR法のためのプライマーセットを合成し, イヌc-kit遺伝子を増幅した.正常イヌ脾臓の全RNAからのRT-PCR法により増幅したイヌc-kit遺伝子の大きさは756bpであり, 哺乳動物のcDNAの該当部分と高い相同性を示した.11例のイヌ乳腺腫瘍(腺癌, 良性混合腫および悪性混合腫)すべてにおいてc-kit mRNAの発現が検出された.イヌ乳腺腫瘍のうち, 腺癌におけるc-kit遺伝子の発現は, 悪性混合腫瘍に比べて有意に高かった.さらに, 15例の乳腺腫瘍以外の各種イヌ腫瘍組織標本におけるc-kitの発現も同様に検討した.肥満細胞腫の全例において, 高いmRNAの発現が認められたが, 残りの12例の腫瘍では, 5例で低レベルのRT-PCR産物が検出されたのをのぞいて, c-kit遺伝子の明らかな発現は見られなかった.以上の結果より, イヌ乳腺腫瘍では, c-kit遺伝子mRNAの発現が有意に高く, その診断上有用であると思われる.