著者
粕谷 圭佑 平井 大輝
出版者
奈良国立大学機構連携教育開発センター
雑誌
連携教育開発センター紀要 = Bulletin of Center for Interprofessional Education Development (ISSN:27586855)
巻号頁・発行日
no.1, pp.29-37, 2023-03-31

本稿は、筆者らが取り組む「学校的社会化」研究の比較研究における主要な論点について、2022 年度に行った調査報告を兼ねながら試論的に論じるものである。「子どもが児童になる過程」を探究する学校的社会化研究において、学校規模や教育理念の違いをどのように議論に組み込んでいくのかが理論的な課題となる。本稿は、島しょ部少人数校とオープンプラン教育実施校の参与観察を通して、典型的な公立校における環境・理念との「差異」を、いかに学校的相互行為の研究として取り扱っていくかを検討し、空間的な規範性、理念の規範性、相互行為の規範性それぞれを弁別化する必要性を論じた。
著者
粕谷 圭佑
出版者
日本教育社会学会
雑誌
教育社会学研究 (ISSN:03873145)
巻号頁・発行日
vol.102, pp.239-258, 2018-05-31 (Released:2020-03-13)
参考文献数
20

本稿の目的は,学校の「お説教」場面において,子どもたちがいかにして場面に即した形で「児童としての適切なふるまい」を組織しているのかを明らかにし,そこから「児童になる」こと,すなわち「学校的社会化」のあり様を検討することである。上記の目的のために,本稿では,小学校6年生の教室で生起した「お説教」場面における教師―児童間の相互行為を分析する。その際,サックスの社会化論を参照し,子どもの相互行為能力としての「観察可能性の提示」と「カテゴリーの理解」に着目した。 分析の結果,「お説教」場面では,児童らは,教師によって方向付けられ,教師によって想定された反応を提示することによって,自らを「お説教を従順にうける児童」として観察可能にし,「非お説教」場面や「お説教」が収束に向かう場面では,教師の想定外の反応を提示することで,「教師と親密に話す児童」として,自らを観察可能にしていた。これは,児童らが学級というローカルに組織されたカテゴリーに結びついた活動と期待の複層性を把持しているということである。こうした分析結果を踏まえ,本稿では,子どもが学校の中で「児童」となる「学校的社会化」は,個別具体的なクラス(=教師と児童集団)の日々の営みの中に埋め込まれており,日常の実践的関心においては,「観察可能性」の調整が適切なものとして前景化していることを指摘した。