著者
樋口 じゅん 糸山 泰人
出版者
一般社団法人 日本内科学会
雑誌
日本内科学会雑誌 (ISSN:00215384)
巻号頁・発行日
vol.85, no.5, pp.677-681, 1996-05-10 (Released:2008-06-12)
参考文献数
4

神経系の感染症は治療可能な疾患が多く,予後改善のためには早期診断が重要である.一般内科的な検査, CT scanによるscreeningの後の髄液検査が診断上重要となるが,疾患によっては特徴的な画像所見を呈し診断上重要な手がかりとなる場合もある.特に, MRIではCTよりも鮮明な組織間のコントラストを検出でき, CTでは検出できない時期でも脳梗塞や脳炎の病変を検出しうる.感染症では汎発性の脳波異常を示すことが多い.大脳皮質が広範に傷害されると,不規則な基礎波やびまん性の低振幅徐波の出現を見る.しかし,単純ヘルペス脳炎での周期性棘波(PLEDs)やCreutzfeldt-Jakob diseaseでの周期性同期性放電(PSD)は疾患に特徴的な脳波変化でもある.早期診断にはCTやMRIでの画像所見,脳波所見が有益である場合が少なくない.
著者
糸山 泰人
出版者
日本神経学会
雑誌
臨床神経学 (ISSN:0009918X)
巻号頁・発行日
vol.49, no.11, pp.699-707, 2009 (Released:2009-12-28)
参考文献数
10

「multiplicity in time and space in CNS」を診断基準の骨子とする多発性硬化症(multiple sclerosis,MS)の診断には多様な病態と疾患がふくまれる可能性がある.MSの認識が遅れた日本では,視神経や脊髄に病変の主座をおく再発性の炎症性疾患はMSと考えられ,視神経脊髄型MS(OSMS)としてアジアのMSの特徴とされてきた.一方,欧米では類似の疾患を視神経脊髄炎(neuromyelitis optica,NMO)とよんできたが,両疾患には多くの臨床的および検査学的所見の共通性があることや,最近発見されたNMO-IgGが共通に存在することを考えると両者は同一疾患と考えられる.このNMO-IgGはNMO/OSMSにのみにみられMSにはみとめられない血清抗体で,その標的抗原はwater channelのaquaporin4(AQP4)でありアストロサイトに局在している.このNMO-IgGに加えてNMO/OSMSが示す臨床的特徴,すなわち視神経と脊髄という病変部位の選択性,極端な女性優位性,3椎体以上の長さのMRI脊髄病巣,髄液オリゴクローナルバンドが陰性である点などを考えてみると,NMO/OSMSとMSはきわだった差異を示していることに気付かされる.さらに,免疫組織化学的にはNMO/OSMSの脊髄病変ではAQP4とアストロサイトのマーカーであるGFAPの染色性が欠落しているが,MBP陽性の髄鞘は病変で比較的保たれていることが明らかとなった.この所見はMBPのみが欠損するprimarily demyelinating diseaseであるMSの病変特徴とは根本的に異なるものであり,NMO/OSMSはMSと病態を異にする疾患と考えられる.加えて,急性期のNMO患者の髄液では著明なGFAPの増加があり,NMOはastrocyteがprimaryに傷害される新たな概念の疾患と考えられる.現在,AQP4抗体が関与するNMOの病態機序が培養系や動物モデルで明らかにされつつある.今後はNMOへの新たな治療法の開発が求められる.