- 著者
-
紀本 創兵
- 出版者
- 日本生物学的精神医学会
- 雑誌
- 日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
- 巻号頁・発行日
- vol.26, no.4, pp.192-198, 2015 (Released:2017-02-16)
- 参考文献数
- 33
統合失調症の認知機能障害には,背外側前頭前皮質(前頭前野)における GABA 合成酵素である 67- kDa isoform of glutamic acid decarboxylase(GAD67)の発現量低下,それに続く抑制性神経伝達の異常が関与していることが想定されている。GAD67 は神経活動依存性に発現が誘導されるが,この転写調節領域に同じく神経活動依存性に発現される Zif268 の結合部位があり,Zif268 の結合および発現量の変化に一致して GAD67 発現が変化することが知られている。今回は統合失調症患者の前頭前野で Zif268 の発現変化が GAD67 発現の変化に関与しているのかを,ピッツバーグ大学精神科の脳バンクに保存されている統合失調症患者と健常対照被験者をマッチさせた 62 ペアの死後脳を用い,GAD67 および Zif268 の mRNA の発現量を測定した。結果,統合失調症患者の前頭前野内において,GAD67 および Zif268 の mRNA 量は有意に低下しており,その発現量は正の相関を示した。またこれらの変化は,病気の経過,病歴などの交絡因子の影響は本質的に関与していなかった。これらの結果は,統合失調症における抑制性神経伝達の異常,および認知機能障害を引き起こす分子メカニズムの一つを明らかにする所見と考えている。