著者
安野 史彦 岸本 年史
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.75-79, 2016 (Released:2018-02-08)
参考文献数
19

1995 年 3 月 20 日,東京都内の地下鉄車内におかれたプラスチックバッグから放出されたサリンにより約 5,500 人が被害を受け,うち 12 人が亡くなられている(東京地下鉄サリン事件)。サリンは有機リン酸化合物の一種であり,強力なアセチルコリン(Ach)エステラーゼ阻害剤である。コリン受容体の障害を介して,自律神経系の神経伝達を阻害する。サリン事件の被害者においても,慢性的な脳障害と,それに伴う持続的な脳機能の変化の可能性が示唆される。本稿において,サリン事件被害者における,慢性(長期)の神経,精神および行動影響についてのこれまでの報告を概観し,Ach 作動神経系への急激かつ過剰な負荷が,慢性的なダメージの一因となりえる可能性について考察する。また,認知神経症状および MRI による神経機能・解剖学的な検討に加えて,神経分子画像による生体内分子レベルでの長期的な検討の有用性についても考察を行う。
著者
牧之段 学 岸本 年史
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.29, no.3, pp.93-97, 2018 (Released:2019-11-01)
参考文献数
24

自閉スペクトラム症(autism spectrum disorder:ASD)患者における血漿炎症性サイトカインの発現量増加や脳内マイクログリアの活性化といった免疫系異常の報告が相次いでいる。一方,brain-derived neurotrophic factor(BDNF)やneuregulin-1(NRG1)といった神経栄養因子は,ニューロンの生存やシナプス機能に影響を与えるため,統合失調症やASDの病態に関与していると考えられてきた。活性型マイクログリアではBDNFやNRG1の発現量が増加することから,マイクログリアが活性化されているASD患者脳ではマイクログリア由来のBDNFやNRG1が過剰となっている可能性があり,これらの異常な分子機能がASDの病態生理に関与しているかもしれない。
著者
安野 史彦 岸本 年史
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.27, no.2, pp.75-79, 2016

1995 年 3 月 20 日,東京都内の地下鉄車内におかれたプラスチックバッグから放出されたサリンにより約 5,500 人が被害を受け,うち 12 人が亡くなられている(東京地下鉄サリン事件)。サリンは有機リン酸化合物の一種であり,強力なアセチルコリン(Ach)エステラーゼ阻害剤である。コリン受容体の障害を介して,自律神経系の神経伝達を阻害する。サリン事件の被害者においても,慢性的な脳障害と,それに伴う持続的な脳機能の変化の可能性が示唆される。本稿において,サリン事件被害者における,慢性(長期)の神経,精神および行動影響についてのこれまでの報告を概観し,Ach 作動神経系への急激かつ過剰な負荷が,慢性的なダメージの一因となりえる可能性について考察する。また,認知神経症状および MRI による神経機能・解剖学的な検討に加えて,神経分子画像による生体内分子レベルでの長期的な検討の有用性についても考察を行う。
著者
根來 秀樹 飯田 順三 澤田 将幸 太田 豊作 岸本 年史
出版者
日本生物学的精神医学会
雑誌
日本生物学的精神医学会誌 (ISSN:21866619)
巻号頁・発行日
vol.21, no.2, pp.77-81, 2010 (Released:2017-02-16)
参考文献数
31

発達障害には生物学的背景の存在を示唆する報告が多い。本稿ではそれら報告のうち精神生理学的研究として,頭皮上脳波,聴性脳幹反応,事象関連電位の現在までの知見を概説した。それらの中には客観的指標となる可能性がある知見もあるが,今までの研究の結果には精神遅滞の影響が含まれていた可能性がある。また事象関連電位の研究では発達障害の特徴に応じた課題の工夫などが必要である。
著者
伊藤 直人 森川 将行 飯田 順三 平尾 文雄 東浦 直人 岸本 年史 橋野 健一 南 尚希 中井 貴 中村 恒子 南 公俊 山田 英二
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.983-985, 1998-09-15

高血圧を伴った神経ベーチェット病で,剖検によって死因がクモ膜下出血と診断された,まれな1例を経験したので報告する。クモ膜下出血の出血部は神経ベーチェット病の病変の中心である橋底側の動脈で,経過中に高血圧を併発していることもあり,神経ベーチェット病と高血圧およびクモ膜下出血との関連が示唆された。
著者
長 徹二 根來 秀樹 猪野 亜朗 井川 大輔 坂 保寛 原田 雅典 岸本 年史
出版者
医学書院
巻号頁・発行日
pp.1115-1120, 2010-11-15

はじめに アルコール依存症患者は自ら治療を受けることは少なく,家族などの勧めで医療機関を訪れることが多い。これはアルコール依存症に特徴的であり,「自分がアルコールに関連した困難を抱いていること」をなかなか認めることができないことに起因する。そのためか,わが国には治療を必要とするアルコール依存症者だけでも約80万人存在する23)と推定されているが,実際に治療機関を受診している患者数は約4.3万人16)しかいない。 アルコール依存症はさまざまな疾病とのかかわりも多く,一般病院に入院していた患者のうち17.8%(男性患者では21.4%)もの人がアルコールに関連した問題を抱えている可能性があった27)と報告されているように,医療機関を受診する患者の中に占めるアルコール関連の臓器障害や機能障害の割合は想像を はるかに上回るものであると予測される。また,総合病院において,他科から精神科への紹介患者におけるアルコール・薬物関連疾患の割合は30%前後2,18)と報告されており,連携医療の必要性が示唆されている。 アルコール依存症を一般病院でスクリーニングし,専門治療機関に紹介する連携医療を展開するために,1996年3月に,三重県立こころの医療センター(以下,当院)が中心となって三重県アルコール関連疾患研究会(以下,当研究会)を発足させた。当研究会はアルコールに関連する問題を抱えている患者を対象とした研修や研究発表に加え,断酒会員やその家族の体験発表などを中心とした内容で構成されている。三重県内の100床以上の総合病院の中で,当研究会を開催した病院は8割を超えており,参加者総数は2,000人に達している。当研究会発足前の1996年の三重県の報告では,アルコール関連疾患により一般病院に入院してからアルコール専門医療機関受診するまでの期間は平均7.4年もの月日を要しており14),アルコール関連疾患にて一般病院で治療を受けてもアルコール依存症の治療が始まるまでに長い月日を要してきた。そのため,治療介入後の最初の10年間の死亡率が最も高い26)と報告されており,早期診断・早期介入が急務の課題であるといえる。 一般病院でアルコール依存症の教育,啓発そして連携を進めてきた当研究会の成果を調べるため,今回はアルコール専門医療機関である当院に受診するまでの経緯に関する調査を行った。
著者
岸本 直子 根來 秀樹 澤田 将幸 紀本 創兵 太田 豊作 定松 美幸 飯田 順三 岸本 年史
出版者
日本青年心理学会
雑誌
青年心理学研究 (ISSN:09153349)
巻号頁・発行日
vol.24, no.1, pp.5-14, 2012-06-30 (Released:2017-05-22)

In general, it is difficult for others to understand the peculiar manifestations of Asperger's syndrome(AS) in social and school situations, so AS patients are often met with misunderstanding and negative assessments. As a result, AS patients face difficulties in developing a positively organized concept of self. In the present study, we recruited seven adolescent patients with AS and conducted a sentence completion test (SCT) in addition to a semi-structured interview focused on the following four problems: 1) Difficulty with personal relationships, 2) Differences between oneself and others, 3) Experiences of being bullied, 4) Current status of medical therapy or counseling. The results indicated that all of the patients had insufficient awareness that their "experiences of being bullied" and the "differences between oneself and others" were caused by their own disorder. They also did not understand that this insufficient awareness might contribute to their negative concept of self. However, some of them had developed a more positive concept of self and self-awareness, skillfully adapting to their social environment with professional psychosocial support and familial (especially maternal) support, and having participated in social activities such as school attendance and employment. This emphasizes the importance of promoting the formation of positive self concept and self-awareness for AS patients.
著者
岸本年史編著
出版者
海馬書房
巻号頁・発行日
2013
著者
岸本 年史
出版者
奈良県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1998

精神分裂病患者における水中毒は病的多飲を特徴とし、意識障害、痙攣などの重篤な症状を引き起こす。また、この水中毒は抗精神病薬の長期服用によっても発症することが報告されている。しかし、この水中毒の発症機構については未だ不明な点が多く、一致した見解はない。我々は、慢性の抗精神病薬服用患者における抗利尿ホルモン分泌不適合症候群(SIADH)が水中毒発症に関係していることを指摘している(Kishimoto et al, Jpn. J. Psychiatr. Nerurol. 43,161-169,1989)。今回、この水中毒発症機構の基礎的研究の一環として抗精神病薬長期投与とSIADHとの関係を明らかにする目的で、ラット視索上核(SON)への高張artificial cerebrospinal fluid (aCSF)の注入刺激後のアルギニンバソプレッシン(AVP)遊離と行動変化に及ぼすデカン酸ハロペリドール長期投与(20mg/kg/2weeks,i.m.)の効果について検討した。下記に、デカン酸ハロペリドールを8週間長期投与したラットにおいてえられた結果を示す。1)SONにおける高張性aCSF注入による刺激は、刺激終了後30分間の飲水行動量を増加させた。また、同処置ラットの移所運動量は増加する傾向を示した。2)SONにおけるAVP濃度は、上述の高張刺激後、同様に増加した。3)同処置ラットにおいて、線条体ドパミン濃度は対照群と比較して減少した。デカン酸ハロペリドール長期投与ラットにおいて、SONへの高張性aCSFの刺激は飲水行動量の増加および同部位のAVP遊離を引き起こした。また、デカン酸ハロペリドール長期投与によって線条体ドパミン濃度の減少が認められた。以上の結果から、SONへの高張性aCSF注入刺激によって発現する飲水行動の増加およびAVP遊離は、中枢ドパミン神経系との密接な関係が推測される。