著者
紙谷 尚子
出版者
産業医科大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
2000

メチルグリオキサール(MG)は食品中等に含まれる環境変異原であると同時に、生体内で糖や脂質から生成する内因性の変異原である。よって、人の発癌にMGが関与している可能性がある。さらに、糖尿病においてもMGの関与が疑われている。糖尿病患者の血管内壁等にはadvanced glycation endoproduct(AGE)が蓄積されることが知られているが、このAGE生成反応において反応中間体としてMGが関与しているためである。MGは反応性に富んだ物質であり、in vitroで蛋白質やDNAに対して結合することが報告されているが、詳細な生体影響については明らかにされていない。そこで、MGの生体影響、特にDNAに対する影響を明らかにすることを目的とし、哺乳動物細胞(サル由来のCOS-7細胞)におけるMGの変異誘発能について検討することにした。COS-7細胞において生じた突然変異を解析するために、サプレッサーtRNA遺伝子(supF遺伝子)を含有するプラスミドpMY189を用いた。MG処理したプラスミドをCOS-7細胞にトランスフェクションし、細胞内で複製されたプラスミドを回収した。続いて、回収したプラスミドをsupF遺伝子変異のインジケーターの大腸菌であるKS40/pKY241株に導入し、supF遺伝子上の変異頻度を調べた。さらに、変異体を単離し、supF遺伝子の配列解析を行った。その結果、MG処理による変異率は処理濃度に依存して増加した。また、MGは塩基置換変異及び欠失変異を高頻度に誘発した。誘発された塩基置換変異の9割がG:C塩基対における変異であり、特にG:C→C:G及びG:C→T:A変異が高頻度に検出された。従って、生体内におけるG:C→C:G及びG:C→T:A変異の誘発にMGが関与している可能性が示唆された。
著者
加地 浩 森田 恵美子 池田 正人 日野 義之 筒井 隆夫 紙谷 尚子
出版者
一般社団法人 日本糖尿病学会
雑誌
糖尿病 (ISSN:0021437X)
巻号頁・発行日
vol.44, no.7, pp.549-554, 2001-07-30 (Released:2011-03-02)
参考文献数
12
被引用文献数
1

胃切除者におけるOGTTではしばしば急峻高血糖型の血糖曲線oxyhyperglycemiaを示すことが知られている. 職域の定期健康診断でスクリーニングされ, 75g-OGTTを受けた2257名の中に胃切除術を受けた者が60名見出された, 今回, これら症例の糖尿病関連諸検査指標と日本糖尿病学会新診断基準 (1999年) との関係で, 診断上の特殊性につき再検討した.平均血糖値は前値 (FPG) 96.9, 1時間値 (PG-1) 179.1, 2時間値 (PG-2) 86.6mg/dlであったが, 血糖値から糖尿病型と判定された者は6名, 境界型6名, 正常型47名であった.血糖以外の指標ではHbA1cは平均6.896と高値を示したが, FRA, 1, 5-AGの平均値は各々256μmol/l, 16, 2μg/mlと基準範囲内にあった.またこれらの指標はFPG, PG-2のみならずPG-1との間にも有意の相関を示した. OGTTを用いるこれらの症例の最終診断は困難な場合があり, 関連する各検査値に力口え, 常に糖尿病家族歴, 胃手術歴を問診しておく必要がある.