著者
安梅 勅江 呉 栽喜
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.7, no.1, pp.7-18, 2000

本研究は、夜間を含む保育サービスを利用している子どもの発達や適応に対する、保育形態(昼間・夜間)、育児環境、保護者の状況の複合的な影響を明らかにし、今後の課題を検討することを目的とした。全国の認可夜間保育所(全41個所)のうち22ヵ所の保育所にて保護者及び園児の担当保育専門職を対象に質問紙調査を実施した。有効回答は保護者1,949名(回収率73.0%)、園児(保育専門職による回答) 2,905名(回収率74.6%)であった。本研究の結果を要約すると以下の通りである。(1)子どもの発達状態には、「保育の形態や時間帯」ではなく、「家庭における育児環境」及び「保護者の育児への自信やサポートの有無」などの要因が強く関連していた。(2)したがって、特に夜間保育園においては、家庭的な環境をいかに充実するかが重要な課題となる。物理的な環境、人的な環境、保育プログラムを含め、子どもの育ちに適合した家庭的な環境をさらに整備する必要がある。(3)さらに、保育園の役割として、育児に関する相談相手となり、保護者の育児への自信の回復を促すなど、保護者に対する「子育てを支える」ための地域に開かれたサービスの充実が期待される。(4)現実として、深夜保育には通常保育より発達にやや遅れのみられる子どもの在籍している割合が高いことから、通常保育よりさらに専門性の高い保育スタッフの配置が必須である。(5)夜間保育の子どもに対する影響を本当の意味で明らかにするためには、今後さらに経年的な研究を継続する必要がある。
著者
川名 はつ子 吉宇田 和泉
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.31-39, 2014-03-20

目的 本研究では、成人知的障害者の肥満の現状を把握し、課題を検討することを目的とした。方法 首都圏の知的障害者入所5施設の利用者217名(男性143名、女性74名)と、都内の通所5施設の167名(男性100名、女性67名)計384名を対象とした。2007年8月に運営主体が様々で所在地も分散しているこれら10か所の施設を巡回し、身長・体重・体脂肪率(タニタ社製TBF-310)・ウエスト周囲径・血圧の測定を行なった。一部の施設では障害の程度・内容も調査し、SPSS(Ver.17.0)を用いて統計処理した。結果 1.平均年齢は男性38.1±11.1歳(入所41.1±10.3歳、通所33.8±10.8歳)、女性39.5±11.9歳(入所43.1±11.0歳、通所35.6±11.7歳)で男女別の差はなかったが、入所群が通所群より有意に高かった(p<0.001)。2.男性では、体重、体脂肪率、ウエスト周囲径、BMIのすべてにおいて、通所群のほうが高かったが、女性では差は認められなかった。3.血圧は、男女とも通所群のほうが高かった。4.入所群・通所群をそれぞれ障害の程度(療育手帳=障害者手帳の度数)別にさらに重度と中・軽度の2群に分けて比較してみたが、全体と同様の結果であった。結論 知的障害をもつ人は健常者より肥満しやすく、なかでも自宅から作業所などに通っている者は入所者と比較して、肥満がより深刻であることが明らかとなった。この違いは、主として入所者は3食給食で栄養管理が行き届いていることが考えられる。全体的に運動・食事の改善を図ることはもちろんだが、特に通所の男性は食行動や食事内容の改善を図ることで減量の効果が期待できると考えられた。一方、女性では入所者でも肥満が多いことから、入所女性ではさらに活動量を増やす必要が示唆された。
著者
結城 俊也
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.17, no.2, pp.21-38, 2011

本研究の目的は脳卒中者における身体経験の内側から職人技の回復プロセスをみつめ、その意味を現象学的に解釈することにある。さらにそこから脳卒中後のリハビリテーションプログラムにおける視点の再考を促すことを試みる。職人歴30年以上の3名の脳卒中者(すし職人、和菓子職人、建具職人)に対して、発症時、5日目、2週間目、1、2、3、4、5、6ヶ月目、1年目の計10回にわたり半構造化インタビューを実施した。得られたデータは解釈学的現象学的分析を用いて身体経験の意味を解釈した。結果として全13テーマが析出され、それらが6つの上位カテゴリーにまとめられた。本研究の主たる知見は、時間経過における身体経験は三つの局面に類型化できることを示したことにある。すなわち、(1)麻痺したことによって自分の身体を「物」としか感じられないという身体経験から、麻痺の改善によりいきいきと外界を感じられる身体へと移行する局面、(2)手という部分的な改善への固執という身体経験から、手仕事を円滑に行うためには全身機能の改善が重要であることを認識する経験へと移行する局面、(3)個人としての身体経験から、同病者や健常者との関係性を通じての身体経験へと移行する局面、という三つの局面である。これらの局面は過去から未来という時間軸のなかで相互に絡み合いながら身体経験の意味づけがなされていた。リハビリテーション支援においては、単に「できる-できない」といった表層部分にのみ拘泥するのではなく、世界を媒介するものとしての身体、その身体が多様なチャンネルをもって世界と切り結んでいける経験の多様性を支援することこそが肝要であることが示唆された。
著者
瀬戸口 ひとみ 糸嶺 一郎 朝倉 千比呂 鈴木 英子
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.35-45, 2017-03-21 (Released:2017-07-25)
参考文献数
34
被引用文献数
1

目的:統合失調症者の病いとの「折り合い」の概念について定義を明確にする。方法:Rodgers(2000)の概念分析アプローチ法を用いた。データ収集は、医中誌他、6つのデータベースを用いた。検索語は「折り合い」、「折り合い」の類似概念として「受容・統合失調症」を用いた。英論文では「Identity adaptation schizophrenia」で検索を行った。最終的に抄録のある原著のみとし、日本語論文32編、英論文2編を抽出した。各文献について先行要件、属性、帰結の内容を抽出し、各項目をカテゴリー化した。結果:属性として、【病気との共存】【自己に対する肯定的認識】【今の自分にあった家族や人との付き合い方】【新たな価値観の獲得 】【セルフモニタリングの強化】【自分らしく生きる】の6つのカテゴリーが抽出された.先行要件は個人的要因と環境的要因の二つに大別され,個人的要因として【病いに関連する苦悩】【病いに関連した否定的体験】【日常生活困難感とその対処】【統合失調症と知って生じる新たな疑問】、環境要因として【治療】【家族のサポート】【他者との関係】【制度・社会資源】の4つのカテゴリーが見いだされた。帰結は【生き方の定まり】【対人交流への自信の獲得】【社会の中で新たな役割を見出す】、【自己実現・自己決定】【医療への期待】【新たな居場所を見出す】の6つのカテゴリーが抽出された。結論:統合失調症者の病いとの「折り合い」の概念は「自分らしく生きる」であった。しかし、統合失調症者は、偏見をはじめとする病いの体験に苦しんでいた.統合失調症者は、病いによって自信を失いながらもその中で体験したことを糧に,病いを得る前とは違った自己になることを経験しつつ、【自分らしく生きる】ことを選び取っていた。当事者が病いを受け入れ、共存できるような援助と自己を肯定的に捉えられるようなケアの構築の必要性が明確になった。
著者
丸山 昭子 鈴木 英子 安梅 勅江
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.9, no.1, pp.53-61, 2002-10-31 (Released:2017-09-15)

本研究は、認可保育所を利用している子どもの発達に対する、保育時間(通常・長時間)、育児環境との関連を明らかにし、今後の保育サービスの課題を検討することを目的とした。全国の認可夜間保育所及び併設の昼間保育所(全41ヵ所)のうち20ヵ所の保育所にて、1988年10月に保護者を対象とし保育時間・育児環境に関する質問紙調査を行い、経年的な子どもの発達との関連を検討するために2000年3月に担当保育士による客観的指標を用いた子どもの発達評価を実施し、解析可能な551組を本研究の対象とした。本研究の結果を要約すると以下の通りである。(1)一定基準の質が確保されている認可保育所において、長時間保育と子どもの発達との関連がないことから、質の高い長時間保育サービスが子どもの発達に影響を及ぼさない可能性が示唆された。(2)育児環境と子どもの発達とは、既存研究と同様に関連が認められたことから、育児環境の重要性が再認識された。(3)長時間保育の利用者では社会的な繋がりが希薄で、特に育児相談者が得難い状況にあることが明らかになり、社会的サポートのあり方への検討が必要である。(4)今後さらに保育サービスの質の向上を目指した取り組みが求められる。
著者
難波 貴代 北山 秋雄
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.12, no.2, pp.25-32, 2006-04-01 (Released:2017-09-15)

被介護高齢者と主介護者間における共依存関係に着目した高齢者虐待の研究は、海外や国内においても十分に研究がなされている状況にない。そこで本研究は、不適切な介護を行う介護者の行動に着目し、介護者の特徴と被介護高齢者と共依存関係にある介護者への看護介入について検討を行うことを目的に訪問看護師2名から1事例の問題状況・看護介入・介護者の反応について面接を行い、逐語録を作成し分析を行った。結果、不適切な介護をする介護者の特徴には(1)訪問看護過程で被介護高齢者と信頼関係を形成するのは困難、(2)被介護高齢者との思いが一緒であり、意思決定権は自分にある、(3)被介護高齢者、専門職をコントロールしようとする、(4)専門職がコントロールできないと不平不満を述べる、(5)過去の「母親像」と現在の「母親像」のギャップがある、(6)疲労が増強すると、一時的に外部に目を向ける。介護者に対する看護介入に(1)家族全体の力動をみる、(2)過去の「母親像」と現在の「母親像」について話し合う、(3)被介護高齢者の身体状態によっては、一時的に施設入所を図る、(4)専門職間の連携を図ることが示唆された。
著者
高野 美香 鈴木 英子 髙山 裕子
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.23, no.1, pp.25-36, 2016-09-30 (Released:2017-09-25)
参考文献数
26
被引用文献数
2

【目的】大学病院に勤務する新卒看護師のバ-ンアウトの関連要因を職場環境の視点から明らかにする。【方法】東京23 区および政令指定都市にある350 床以上の8 病院に勤務する新卒看護師508 人を対象とし,2012 年9 月,個人属性,労働環境,組織風土,職場の教育支援およびMBI-HSS(日本版バ-ンアウト尺度)から構成された自記式質問紙調査を用いて横断研究を実施した。【結果】回収数は364 人(回収率71.7%),有効回答は 317 人(有効回答率87.0%),バ-ンアウトの総合得点の平均は,12.4 点だった。バ-ンアウト総合得点を目的変数として,重回帰分析をおこなった結果,自由度調整済み決定係数(R²)は,0.318 で,32%の説明率があった。重回帰分析で,最終的に有意になった要因は,個人属性では,勤務先の職場での看護実習の経験があるもの,労働環境では,2 交替制勤務のもの,看護記録の量が少ないと感じているもの,仕事内容に関する満足度が高いものはバ-ンアウトが低かった。また,何か問題が生じたらすぐに話し合いをする組織風土で働いているもの,職場の教育支援として,プリセプタ-シップを支えてくれる教育担当者がいるもの,初めてのケアや処置に先輩が同行してくれるもの,看護実践の具体的な支援を受けているものは,バ-ンアウトが低かった。【結論】新卒看護師は,勤務先の職場での看護実習の経験があるとバーンアウトしにくい。職場環境においては,話し合いができるような組織風土のなかで,看護記録の負担が少なく,仕事に対する満足度が高いと,バ-ンアウトが低減できるといえる。また,職場の教育支援においては,プリセプタ-シップを支えてくれる教育担当者に満足をしていて,初めてのケアや処置には先輩が同行し,看護実践の具体的な指導があると,バ-ンアウトが低減できるといえる。
著者
恩田 陽子 篠原 亮次 杉澤 悠圭 童 連 田中 笑子 冨崎 悦子 平野 真紀 渡辺 多恵子 望月 由妃子 川島 悠里 難波 麻由美 徳竹 健太郎 安梅 勅江
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.23-28, 2010-11-30 (Released:2017-09-15)

目的:本研究は、子育ち・子育て支援における評価指標として活用が可能な「就学前児用社会的スキル尺度」の「かかわり指標」との基準関連妥当性について明らかにすることを目的とした.方法:対象は2〜6歳の保育士により気になる子どもとしてあげられた全国98か所の認可保育園に在籍する保育園児121名であり、担当保育士による「就学前児用社会的スキル尺度」の評価、および同一検査者による「かかわり指標」子ども側面を用いた観察を合わせて分析した.就学前児用社会的スキル尺度の各因子得点、総合得点とかかわり指標の各領域得点、子ども総合得点との相関係数を算出した。結果と考察:「協調因子」と<応答性領域><共感性領域>、「自己制御因子」と<運動制御><感情制御>、「自己表現因子」と<主体性領域>で有意な関連がみられ、基準関連妥当性が示された。「就学前児用社会的スキル尺度」及び「かかわり指標」はともに子どもの社会性を短時間の行動観察により客観的に測定できるツールであり、場面により使い分けることで、子育ち・子育て支援に携わるあらゆる分野における、今後の幅広い活用が期待される。
著者
浅田 史成
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.24, no.2, pp.29-33, 2018-03-30 (Released:2018-07-18)
参考文献数
11
著者
Maki Hirano Yuri Kawashima Sumio Ito Ryoji Sinohara Yuka Sugisawa Yuko Sawada Yukiko Ishii Lian Tong Emiko Tanaka Etsuko Tomisaki Taeko Watanabe Yoko Onda Yukiko Mochizuki Kentaro Morita Mayumi Namba Amarsanaa Gan-Yadam Kentaro Tokutake Bailiang Wu Tokie Anme
出版者
Japanese Society of Human Sciences of Health-Social Services
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.18, no.1, pp.102-106, 2011-08-01 (Released:2017-09-15)

Background: Dementia is one of the most common diseases in the elderly. Japan has the highest life expectancy in the world, which means that serious health problems such as dementia are prevalent among a large segment of the Japanese population. The purpose of this study was to explore the relationship between lifestyle habits and dementia among community dwelling older adults by conducting a cohort study. Methods: This was a prospective cohort study conducted over 6 years. The study was carried out in a farming community near a major urban center in Japan. Results: The participants consisted of 525 elderly adults aged 65 years or older. Multiple logistic regression analysis after adjustment for sex and age indicated that the diagnosis of dementia was 4.0 times higher among participants who did not take breakfast (p<0.01, CI=1.3-11.8), 2.7 times higher among participants who did snack (p<0.05, CI=1.1-6.5), 2.5 times higher among participants who did not care for salt consumption (p<0.05, CI=1.1-5.8), and 2.7 times higher among participants who did not care for nutrient balance (p<0.05, CI=1.2-6.2). Conclusion: According to our results, several lifestyle habits were associated with dementia. Appropriate interventions are required for high-risk individuals, including those with mild cognitive impairment. Evaluation and counseling by the physician is likely to strongly influence patient and caregiver awareness of dementia and hopefully slow disease progression. We suggest that public nurses may have the capacity to assess community dwelling elderly individuals in this manner in the Japanese health system.
著者
仲 沙織
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.9-20, 2018-09-30 (Released:2019-04-18)
参考文献数
24

Aims: Recently, flexible support for school refusal depending on individual cases have been provided in various areas, and psychologists are actively involved in this effort. On the other hand, there are still many children that have not received support. This study introduces a female student with school refusal, and reports on the support provided by psychologists based on a clinical approach to life, and examines skills required of psychologists in outreach programs, as well as future issues.Methods: A Case study was conducted from late May of …. to mid-March of ….+1 for approximately ten months, during which support was provided during 79 sessions.Discussion: Effects of a “new object” on long-term mother-child cohesion and skills required of psychologists and related problems are discussed. Though interprofessional collaboration was one objective, there was only cooperation in this case. Psychologists are required to comprehensively perceive the whole family as a group, and not individuals, as well as accept the clients’ unstable feelings by continuously supporting them so that they would not recreate their “scapegoat” experience. In the case of young people, one goal should be to set prior to beginning support. Psychologists are required to have high assessment abilities and proper judgment in outreach, by taking clinical psychologists’ and licensed psychologists’ code of ethics into consideration and flexibly accepting the needs of clients and other professionals. There are few psychologists involved in psychiatric outreach, however, the demand for them is expected to increase in the future when psychologists become nationally certified professionals. Psychiatric outreach is a new field and future studies are required to identify its possibilities.
著者
盛田 寛明 佐藤 秀紀 福渡 靖
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.11, no.1-2, pp.55-63, 2005-03-31 (Released:2017-09-15)

本研究の目的は、男性退職者におけるうつ状態と運動の実施状況との間の双方向因果関係を、構造方程式モデル(以下SEM)を用いて明らかにすることである。全国7地区の企業または団体に勤務していた、55歳以上の退職後3年以内の男性退職者655名(平均年齢61.8±2.5歳)に対し、うつ状態および運動の実施状況に関する調査を行いSEMの双方向因果モデルで解析した。その結果、高齢群では[うつ状態]と[運動の実施状況]との間に双方向の因果関係を認めた。一方、中年群では[うつ状態]から[運動の実施状況]への影響は示されたものの、逆方向の因果関係は認めなかった。また、[うつ状態]から[運動の実施状況]への影響の強さは中年群より高齢群の方が大きいことを認めた。これらのことから、男性退職者では、うつ状態により運動の実施状況が低下している場合であっても、運動実施への介入に先立って、先行的にうつ状態を軽減することが運動・散歩・体操等の運動習慣の形成につながる可能性があり、その影響の強さは中年群より高齢群の方が大きいことが示唆された。一方、高齢群では、運動・散歩・体操等の運動習慣を継続することでうつ状態が軽減する可能性があるが、中年群では、運動の継続がうつ状態の軽減につながるとはいえないことが推察された。
著者
田中 裕 安梅 勅江 酒井 初恵 宮崎 勝宣 庄司 ときえ
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.23-32, 2005-09-30 (Released:2017-09-15)

長時間におよぶ乳児保育利用児の5年後の発達に影響を与えている要因について、育児環境、保護者の育児意識、子どもの属性、子どもの社会適応、子どもの要因、保育時間等の関連を明らかにした。全国認可保育園71園において保護者と園児の担当保育専門職に質問紙調査を実施し、追跡可能であった30名を有効回答とした。その結果、5年後の子どもの発達への関連要因として、家族で一緒に食事をする機会が乏しい場合には「粗大運動」「対人技術」「理解」領域で、また育児支援者がいない場合には「粗大運動」「コミュニケーション」領域で、さらに育児に対する自信がない場合、保育園に適応していない場合には「微細運動」領域で、きょうだいがいない場合には「対人技術」領域で、有意にリスクが高くなっていた。「乳児保育の時間の長さ」はいずれの発達領域でも有意に関連しないことが示された。
著者
濱野 香苗 竹熊 麻子 井上 悦子
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.5, no.1, pp.79-87, 1998
被引用文献数
1

本研究は、佐賀県における独居高齢者の住環境に関する安全に対する意識およびその関連要因を明らかにすることを目的とした。調査に同意の得られた佐賀県内在住の65歳以上の独居高齢者173名(男性29名、女性144名)を対象とした。調査期間は平成8年10月23日〜平成10年2月12日で、構造的質問紙を用いた面接による聞き取り調査を実施した。「安全のために何らかの配慮をしている」のは31.2%であった。配慮している内容の多くは「手すりをつけた」「トイレや風呂場の改造」で、「玄関や廊下の改造」はわずかであった。安全への配慮の有り群と無し群で有意差があった要因は、「独居年数」、「学歴」、「2階建て住居」、「トイレの様式」、「健康に関する記事や番組への関心」であった。独居高齢者の87.3%が希望している「このまま一人暮らしを続ける」を維持するためには、住環境の安全性への配慮が重要である。地域における様々な高齢者の活動の機会やマスメデイアを通じて住環境や住居周辺環境を整備することの必要性を啓蒙するとともに、社会資源の活用方法の情報提供を行う必要がある。
著者
松本 美佐子 田中 笑子 篠原 亮次 渡辺 多恵子 冨崎 悦子 望月 由妃子 杉澤 悠圭 酒井 初恵 安梅 勅江
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.3-13, 2014

目的 本研究は保育園で気がつく3歳時の気になる行動の推移、および2年後の社会能力を予測する行動の抽出を目的とした。方法 対象は全国32か所の認可保育園に在籍する幼児である。すでに障害の診断がついている児を除外した2007年、2008年の3歳児(485人、509人)を2年間追跡し主要な項目に欠損のない276人、243人をパネル化した519人を分析対象とした。調査内容は「気になる行動チェックリスト」と「就学前児用社会的スキル尺度」の記入を担当保育士に依頼した。対象者の内訳は男児274名(52.8%)、女児245名(47.2%)、きょうだいは無200名(38.8%)、有315名(61.2%)不明4名であった。5歳時の社会性を目的変数、3歳時の気になる行動を説明変数、性別ときょうだいの有無を調整変数としてロジスティック回帰分析を実施した。結果 5歳の社会能力の低さは3歳時の気になる行動で「音に対する反応の異常」が見られる場合Odds比38.86(95%信頼区間4.21-358.85)(以下同様)、「光に対する反応の異常」が見られる場合14.21(2.69-75.10)、「不自然な関係性」がみられる場合14.10(3.99-49.78)、「無関心」がみられる場合4.06(1.64-10.03)、「こだわり」がみられる場合5.53(2.33-13.12)、「激しいかんしゃく」がみられる場合2.44(1.10-5.40)、「多動」がみられる場合3.46(1.75-6.86)、「けんかが多い」がみられる場合2.47(1.02-5.98)「反抗がひどい」がみられる場合6.00(2.13-16.95)、「言葉に関する問題」がみられる場合6.34(2.97-13.53)、「ルール逸脱行動」がみられる場合9.10(3.73-22.22)、「年齢相応の生活習慣の遅れ」がみられる場合4.93(2.11-11.51)と有意に高くなる傾向が示された。結論 3歳時に音や光に関する反応の異常、不自然な関係性、無関心、こだわり、激しいかんしゃく、多動、けんかが多い、反抗がひどい、言葉に関する問題、ルールの逸脱行動、年齢相応の生活習慣の遅れなどの行動がみられた際は、後の社会能力の獲得に困難を示す可能性があり、幼児期早期から社会能力を育むための支援が求められる。
著者
齋藤 深雪
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.11-21, 2007-09-30 (Released:2017-09-15)
被引用文献数
1

精神障害者の自立支援が促進される中、2001年に発表された国際生活機能分類International Classification of Functioning Disability and Health (ICF)は、「社会で生活すること」を生活機能という側面からとらえられることを提言した。そこで、ICFを参考にし、他者評価の精神障害者生活機能評価尺度を作成した。これは、精神障害者の生活機能を把握するものであり、活動面と参加面から構成される。本研究の目的は、精神障害者生活機能評価尺度(参加面)の信頼性と妥当性を検討することであった。精神科デイケアスタッフ14名が精神科デイケア通所者143名の生活機能を評価した。その結果、尺度の信頼性は、テスト-再テスト法ではPearsonの相関係数はr=0.80 (p<0.01)、折半法ではPearsonの相関係数r=0.86〜0.92 (p<0.01)と高い値であった。各因子のクロンバックの信頼係数は0.86〜0.91 (p<0.01)であり、内的整合性が高かった。尺度の妥当性は、因子分析を行い4つの因子を抽出し、因子分析の累積寄与率が70.5%と高かった。他者評価と自己評価の相関係数はr=0.40であった。以上のことから、尺度の信頼性と妥当性が示された。
著者
紅林 佑介 原田 祐輔 井上 善久
出版者
日本保健福祉学会
雑誌
日本保健福祉学会誌 (ISSN:13408194)
巻号頁・発行日
vol.22, no.2, pp.1-8, 2016-03-20 (Released:2017-09-25)
参考文献数
20

目的:精神科看護師の職業性ストレスと看護実践能力との関連性を明らかにし、精神科看護師の看護実践能力の向上を促進する支援策について考察することとした。方法:精神科病院に勤務する看護職者56 名を対象に、属性項目の調査、職業性ストレス簡易調査票を用いた職業性ストレスの調査、看護問題対応行動自己評価尺度(OPSN)を用いた看護実践能力の調査を行った。結果:平均年齢は44.6±12.2歳、精神科経験年数は13.7±7.3年であった。OPSNの5つの下位尺度全ての平均点は18 点以上だった。重回帰分析を行ったところ、OPSN に関連した変数は「仕事や生活の満足感」と「抑うつ感」および「心理的な仕事の負担(質)」であった。考察:経験の豊富な精神科看護師の看護実践能力の向上は、経験年数ではなく、仕事や生活に満足感を抱き、些細な場面でも援助内容を内省することと関連すると考えられた。精神科看護師の看護実践能力を向上させるためには、仕事への満足感を感じやすくし、援助の内省という苦痛の伴う作業へのサポートを通じて抑うつを軽減すること、治療的かかわりをする上で重要なサインを優先して教育するなどの支援策が必要であると考えられる。