著者
綾部 慈子 金指 努 肘井 直樹 竹中 千里
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.399, 2013 (Released:2013-08-20)

2011年3月の福島第一原子力発電所爆発事故により放出され、その後森林地域に降下した放射性物質の食物連鎖を通じての濃縮・拡散過程を明らかにするため、林内、林縁部に生息する捕食性節足動物の造網性クモを対象として、その虫体に含まれる放射性セシウムの濃度を測定した。調査は2012年10月下旬に、発電所から北西30~35 kmにある福島県伊達郡川俣町内の渓流沿いおよび高台の二次林と、西65 kmの郡山市にある福島県林業試験場構内において行なった。地表から1~2 m高の網上のジョロウグモを採集し、持ち帰って個体湿重を測定した。各採集地では、地上高1 mの空間線量も併せて測定した。クモ個体は乾燥重量測定後に粉砕し、高純度ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーにより1.6万~35万秒測定し、Cs-137, 134の個体重当たり濃度を算出した。その結果、30 km地点の渓流沿いで採集されたクモのCs-137濃度は2000~6800 [Bq/kg d.wt]、35 km地点の高台の二次林では820~2300であったが、郡山市の大部分の個体からは不検出であった。
著者
今田 省吾 柿内 秀樹 大塚 良仁 川端 一史 藤井 正典 佐藤 雄飛 綾部 慈子 久松 俊一
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.130, 2019

<p>海岸林樹木による霧水の吸収とその樹体内分配を明らかにするために、重水素をトレーサーとして、クロマツの2年生ポット苗への霧水散布実験を行った。実験に際して、灌水停止によりポット内の土壌深さ0–5 cmの土壌水分量をそれぞれ0.38、0.18及び0.14 cm<sup>3</sup> cm<sup>–3</sup>に変化させた、対照区、中湿区及び少湿区を作製し、土壌をプラスチック袋で被覆したポット苗試料を人工気象器内で霧にばく露した。霧の発生には超音波加湿器を用い、15%重水を用いて1時間ばく露した後に、試料をガラス室に移し、48時間後に葉、枝及び根並びに土壌を採取した。植物及び土壌試料中の自由水を減圧乾燥法により採取し、それらの重水素濃度を測定した。自由水重水素濃度(FWD)は、全処理区で葉>枝>根の順に下がる傾向が見られ、葉及び枝のFWDは、対照区と比較して中湿区及び少湿区で明らかに高かった。一方、根のFWDは、対照区及び中湿区と比べて少湿区で高く、加えて、土壌中FWDにも上昇傾向が見られた。以上より、霧水として供給した水分の樹木地上部からの吸収及び根への分配が確認されるとともに、少湿区では霧水の根から土壌への滲出が示唆された。</p>
著者
金指 努 綾部 慈子 竹中 千里 肘井 直樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.2, pp.95-99, 2015-04-01 (Released:2015-06-02)
参考文献数
21
被引用文献数
2

東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する, 森林から渓流生態系への落葉を介した放射性セシウムの移動を明らかにするために, 福島県伊達郡川俣町の小渓流において, 渓畔域に分布するコナラの生葉, 林床の枯死・脱落葉 (落葉) および渓流 に堆積している落葉に含まれるセシウム 137 (137Cs) 濃度の関係を明らかにした。コナラの葉は, 生葉から落葉となり, 渓流に 堆積して分解される過程で, 137Cs 濃度が減少していた (2013年)。2012 年と 2013 年の落葉期 (11月) に, 林床に落下したコナラ葉と, 各翌年の3月に, 渓流に堆積しているコナラ落葉の137Cs 濃度を比較すると, 渓流のコナラ落葉の方が低くなった。 また, 林床に落下したコナラ落葉, 渓流に堆積しているコナラ落葉および渓流に堆積しているその他の落葉は, それぞれの各年における137Cs 濃度に大きな変化はなく, 今後も長期間, 渓畔林から渓流生態系へ落葉を介して137Csが移動する可能性が示唆された。