著者
梅村 光俊 金指 努 杉浦 佑樹 竹中 千里
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.1, pp.44-50, 2015-02-01 (Released:2015-04-07)
参考文献数
20
被引用文献数
1

東京電力福島第一原子力発電所事故で放出された放射性セシウム137 (137Cs) の福島県内のモウソウチク林における分布を明らかにするため,2012年5,6月に,事故前後に発筍したタケの稈,枝,葉,地下茎,タケノコを採取した。また2014年4月に経根吸収の実態を把握するため,深度別土壌と地下茎,および土壌表層と下層に伸びる地下茎根を採取した。2010年以前発筍稈の節部には放射性物質が高濃度で強固に付着しており,2012年時点で,降雨で洗脱されずに地上部に残留していることが明らかとなった。また,事故前後に発筍した稈の各器官中の137Cs濃度は同程度であった。このことから,137Csは地下茎を介した転流等によって拡散し,2011年発筍稈に含まれる137Csの起源として,フォールアウトの影響を受けた成竹からの転流と事故直後の可給態137Csの経根吸収の関与が示唆された。一方,地下部において137Cs濃度が地下茎の深さや根の方向に関係していないことから,現時点では137Csの経根吸収は少ないことが推測され,事故直後に吸収された137Csが地下茎を通して竹林全体に拡散していることが考えられた。
著者
綾部 慈子 金指 努 肘井 直樹 竹中 千里
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.399, 2013 (Released:2013-08-20)

2011年3月の福島第一原子力発電所爆発事故により放出され、その後森林地域に降下した放射性物質の食物連鎖を通じての濃縮・拡散過程を明らかにするため、林内、林縁部に生息する捕食性節足動物の造網性クモを対象として、その虫体に含まれる放射性セシウムの濃度を測定した。調査は2012年10月下旬に、発電所から北西30~35 kmにある福島県伊達郡川俣町内の渓流沿いおよび高台の二次林と、西65 kmの郡山市にある福島県林業試験場構内において行なった。地表から1~2 m高の網上のジョロウグモを採集し、持ち帰って個体湿重を測定した。各採集地では、地上高1 mの空間線量も併せて測定した。クモ個体は乾燥重量測定後に粉砕し、高純度ゲルマニウム半導体検出器を用いたガンマ線スペクトロメトリーにより1.6万~35万秒測定し、Cs-137, 134の個体重当たり濃度を算出した。その結果、30 km地点の渓流沿いで採集されたクモのCs-137濃度は2000~6800 [Bq/kg d.wt]、35 km地点の高台の二次林では820~2300であったが、郡山市の大部分の個体からは不検出であった。
著者
金子 信博 中森 泰三 田中 陽一郎 黄 垚 大久保 達弘 飯塚 和也 逢沢 峰昭 齋藤 雅典 石井 秀樹 大手 信人 小林 大輔 金指 努 竹中 千里 恩田 裕一 野中 昌法
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース 第124回日本森林学会大会
巻号頁・発行日
pp.394, 2013 (Released:2013-08-20)

福島原発事故により汚染した森林の除染には、伐採や落葉除去だけでは十分でなく、処理した木材と落葉の処分も問題である。森林土壌から、安全に放射セシウムを除去する方法を提案する。落葉分解試験を、二本松市のコナラ林で2011年12月から2012年12月まで行った。6月には、落葉の放射性セシウム濃度は土壌の2倍から3倍となり、土壌の約12-18%が上方向に落葉へと移動した。この移動は、糸状菌が有機物上で生育する際に土壌からセシウムを取り込むためと考えた。落葉の代わりに伐採した樹木をウッドチップ化し、土壌のセシウムを糸状菌によってチップに集める方法を考案した。汚染地域の木材中の放射性セシウム濃度はまだ高くないので、森林を伐採し、現地で幹材をウッドチップ化しメッシュバッグに入れ、隙間なく置いて半年後に回収することで、低コストで安全に除染が可能である。半年程度経過したウッドチップはまだ分解が進んでいないので、安全な施設で燃焼し、灰を最終処分する。単に伐採して放置するのでなく、この方法で森林施業を積極的に継続しつつ、汚染木材をバイオ燃料として活用し、復興に活用することが可能である。
著者
長倉 淳子 三浦 覚 齊藤 哲 田中 憲蔵 大橋 伸太 金指 努 大前 芳美
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会大会発表データベース
巻号頁・発行日
vol.131, 2020

<p>きのこ原木栽培に用いる広葉樹について、原木利用部位の放射性セシウム濃度を当年枝のセシウム濃度から推定する方法の確立を目指している。本研究は、当年枝のセシウム濃度が同一個体内の採取位置によって異なるかどうかを明らかにすることを目的とした。原発事故後に萌芽更新したコナラ林3サイトの各3個体から8~11本の当年枝(主軸の梢端から下部に向けて5本、および主軸以外の萌芽枝)を採取し、放射性セシウムおよび安定同位体セシウムの濃度を測定した。当年枝の放射性セシウム濃度は、個体によっては採取位置によって2倍以上異なるものもあったが、梢端で高い、下部で高い、主軸で高い、といった採取位置による決まった傾向はみられなかった。放射性セシウム濃度の変動係数は枝間では0.22、個体間では0.29、サイト間では0.51であり、個体内変動よりもサイトによる違いが大きかった。コナラ当年枝の放射性セシウム濃度は枝間や個体間でばらつきはあるが、サイトの指標値として利用できる可能性が示された。</p>
著者
金指 努 綾部 慈子 竹中 千里 肘井 直樹
出版者
日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.97, no.2, pp.95-99, 2015-04-01 (Released:2015-06-02)
参考文献数
21
被引用文献数
2

東京電力福島第一原子力発電所事故に起因する, 森林から渓流生態系への落葉を介した放射性セシウムの移動を明らかにするために, 福島県伊達郡川俣町の小渓流において, 渓畔域に分布するコナラの生葉, 林床の枯死・脱落葉 (落葉) および渓流 に堆積している落葉に含まれるセシウム 137 (137Cs) 濃度の関係を明らかにした。コナラの葉は, 生葉から落葉となり, 渓流に 堆積して分解される過程で, 137Cs 濃度が減少していた (2013年)。2012 年と 2013 年の落葉期 (11月) に, 林床に落下したコナラ葉と, 各翌年の3月に, 渓流に堆積しているコナラ落葉の137Cs 濃度を比較すると, 渓流のコナラ落葉の方が低くなった。 また, 林床に落下したコナラ落葉, 渓流に堆積しているコナラ落葉および渓流に堆積しているその他の落葉は, それぞれの各年における137Cs 濃度に大きな変化はなく, 今後も長期間, 渓畔林から渓流生態系へ落葉を介して137Csが移動する可能性が示唆された。