著者
羽山 順子 津田 彰 Junko Hayama
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.150-158, 2011-03-31

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。
著者
羽山 順子 足達 淑子 津田 彰
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-30, 2010 (Released:2014-07-03)
参考文献数
33
被引用文献数
1

[研究背景]寝渋り、夜泣きのような乳幼児の睡眠問題は、母親の睡眠と健康に悪影響を及ぼす。児の睡眠問題は、就床時および夜間覚醒時の児に対する適切な対応を親に教育することで予防できるとの報告がある。先行研究において、筆者らは生後4ヵ月の乳児を持つ母親を対象に児の睡眠問題予防を目的とした教育介入を実施した。しかし教育の効果は限定的であり、4ヵ月より早い月齢である新生児の親に対する教育が、児の睡眠問題の予防にはより有用であると考えられた。 [目的]先行研究の結果を踏まえ、本研究は、新生児の母親に対して行った児の睡眠問題予防教育が、母親の養育行動と児の睡眠問題予防に及ぼす効果を、その後の4ヵ月児健康診査で比較して検討した。 [方法]対象は教育群46名と教育をしなかった比較群30名であった。教育では、乳幼児の睡眠問題予防のため望ましい養育行動について説明した小冊子を、地域の新生児訪問時に助産師が母親に配布した。評価した行動は1)児の睡眠に関連した親の養育行動(望ましい養育行動13項目、望ましくない養育行動3項目)、2)児の睡眠と睡眠問題、3)母親の睡眠と健康問題であった。 [結果]教育の結果、教育群の母親は、児の夜間覚醒時に「すぐには触らず様子をみる」という望ましい養育行動が比較群より高率に見られた(教育群:比較群=48.9%:23.3%,p<0.05)。さらに望ましい養育行動の合計数は比較群よりも多く(教育群:比較群=4.4:3.3,p<0.01)、望ましくない養育行動の合計数は少なかった(教育群:比較群=1.3:1.7,p<0.05)。また、教育群の母子は就床時刻が規則正しい者の割合が高く、母親は頭痛を感じる者の割合が低かった(教育群:比較群=2.3%:20.0%,p<0.05)。 [考察]以上の結果から、小冊子を用いて児の就床覚醒時刻を規則正しくするための養育行動を教育したことは、教育群の児における就床時刻の規則性促進に影響したと考えた。また、児の就床時刻が規則正しいことは教育群の母親における就床時刻の規則性を促し、母親の頭痛の減少につながった可能性があると考えた。 一方、児の睡眠問題では群間差が見られず、新生児の母親への教育介入が、4ヵ月児の母親への教育よりも児の睡眠問題の予防に有用とした本研究の仮説は支持されなかった。この理由として、①予防効果の検証時期が生後4ヶ月では早過ぎた可能性、②今回用いたような簡素な介入の効果検証にはサンプル数(76名)が小さ過ぎた可能性、③本研究における教育法が、必ずしも児の睡眠に問題意識を有してはいない母親には不十分であった可能性が考えられた。従って、新生児の母親に対しては、本研究の教育方法では不十分で、情報の提供の仕方などに一段の工夫の余地があると考えた。 他地域も含めたより多数の対象者における比較試験を行うこと、睡眠日誌などで睡眠指標の精度を高める必要がある。 [結論]4ヵ月より早い月齢での親教育が児の睡眠問題の予防にはより有用であるとの仮説は支持されなかった。しかし、本研究における教育介入の結果、限定的ではあるが児の睡眠に関連する養育行動および母子の睡眠習慣に効果が認められた。また、母子の睡眠習慣の改善は、母親の健康問題の改善に貢献する可能性があることが示された。
著者
羽山 順子 足達 淑子
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-35, 2006 (Released:2014-07-03)
参考文献数
36

不眠者の行動観察から、いくつか仮説が提起されている。それは「不眠者は、不眠を補おうとして不眠を悪化させるような行動をとる、睡眠に対し過度の期待や思い込みのような不適応的な認知を持つ」というものであるが、日本ではまだこの仮説を検証した研究は少ない。また、生活習慣と不眠の関連は一定した結果が得られていない。本研究は以上の仮説と、生活習慣と不眠の関連を検証することを目的とした。保健所主催の睡眠改善セミナー参加者(以下不眠群)16名の睡眠に関連する生活習慣と睡眠に関する認知を、セミナー参加者と同じ地域の住民(以下一般群)73名と比較した。また、地域住民の中でも睡眠の良否で違いがあるかどうか確認するため、一般群について睡眠効率を基準に睡眠不良群18名と睡眠良好群55名に分け、生活習慣と睡眠に関する認知を比較した。不眠群と一般群を比較したところ、不眠群は一般群よりも入眠潜時は16.3分、要起床時間は50.4分長く、これは睡眠不足を補うための行動ではないかと考えた。睡眠に関連する生活習慣は、全体得点では傾向差がありやや不良であることがうかがわれたが、その内容を詳細に観察すると睡眠薬使用と寝室の環境以外は差が認められず、必ずしも不眠群の生活習慣が不良であるとはいえなかった。不適応的認知の保有数に差はなく、下位項目ごとに比較をしても、不眠群で「不安やイライラは不眠のせい」が多く見られたのみで、「不眠で身体や神経がまいる」はむしろ一般群の方が多い傾向にあった。その他の8下位項目に差はなかった。さらに睡眠不良群と睡眠良好群の比較では、睡眠不良群は睡眠良好群よりも、入眠潜時は58.4分、要起床時間は45.5分長く、睡眠効率は19.8%低いという不眠群同様の特徴が認められた。生活習慣は運動と就寝直前の活用の2項目で睡眠良好群よりも良好であり、不適応的認知については全ての項目において差がなかった。以上より、不眠を補う行動と睡眠効率についての仮説は不眠群も睡眠不良群もあてはまっていると考えられたが、生活習慣と不適応的認知に関しては、一概に不眠と関係があるということはできなかった。睡眠改善の指導はその人一人一人に適した指導が必要であると考えられた。また、睡眠の良否と生活習慣、睡眠に関する不適応的認知に関連がなかったことは、睡眠に関する一般的な知識が浸透していないためとも考えられ、睡眠に関する健康教育は、不眠者ばかりでなく、睡眠に問題がない者にも必要であると考えられた。
著者
羽山 順子 津田 彰
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.10, pp.150-158, 2011

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。
著者
羽山 順子 津田 彰 Junko Hayama
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.10, pp.150-158, 2011

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。