著者
足達 淑子 澤 律子 上田 真寿美 島井 哲志
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.65, no.11, pp.646-654, 2018-11-15 (Released:2018-12-05)
参考文献数
27

目的 産後1か月の褥婦における睡眠と主観的精神健康感の実態を観察し,初産婦と経産婦別にその関連を検討することであった。方法 対象はA病院で分娩し1か月健診で質問票に回答し,重回帰分析で用いた従属変数と独立変数の回答に欠損がなく,精神疾患既往のない457人の褥婦であった。属性,生活環境,睡眠状況,精神的・身体的健康を初産婦と経産婦で比較した後,VAS法による精神健康感の4指標(憂うつ感,不安感,意欲低下,焦燥感)を従属変数,睡眠満足度,睡眠時間,睡眠問題の有無,就床時刻の規則性と睡眠関連習慣5項目を独立変数とした一般化線形モデルによる重回帰分析を行った。結果 初産婦は睡眠時間が短く,就床時刻が遅く,「目覚めたらすぐ起きる」,「寝室でのテレビや仕事」という睡眠関連習慣2項目が不良であった。身体症状では「疲労感」と「耳鳴」が高率であった。経産婦では入眠潜時が長く夜間覚醒回数が多く精神的健康では「焦燥感」が強く,「頭痛」が高率であった。初産婦・経産婦ともに睡眠満足度が精神健康感4指標と,初産婦では「睡眠問題有り」が憂うつ感と不安感に,「就床時刻の不規則性」が不安感に,「目覚めたらすぐ起床」が焦燥感に,「昼寝は3時までに30分以内」が不安感と意欲低下に関連していた。経産婦では「就床時刻の不規則性」が不安感,意欲低下,焦燥感と負の関連にあり,「目覚めたらすぐ起床」が意欲低下に関連していた。結論 産直後の睡眠問題は見過ごされがちであるが精神健康感への関連が示唆されるため,妊娠中からの睡眠教育と産後健診での睡眠評価が必要である。
著者
足達 淑子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.15, no.1, pp.36-55, 1989-03-31 (Released:2019-04-06)
被引用文献数
2

肥満に対する集団行動療法の効果を検討する目的で,保健所において行動療法の個人治療を併用した治療を個別群15名(年齢48.1歳,BMI27.8kg/m^2)に,行動療法の集団治療のみを集団群27名(50.1歳,28.9kg/m2)に,一般的な栄養と運動指導を比較群57名(50.5歳,28.5kg/m^2)に行なった。6か月の治療期間中の脱落者は個別群が2名(13.3%),集団群が5名(18.5%),比較群が31名(54.4%)であり,これを除いた個別群13名,集団群22名,比較群26名についての結果は次のとおりであった。行動療法の2群は減少体重が約6kgで比較群の2倍であり,個別群と集団群では,治療期間中は差がなかったが,2年の追跡調査では個別群が優れていた。また行動療法群では,治療初期の減少体重,治療のコソプライアンス,終了時の減少体重が,治療終了後の効果の維持と関係があった。そのほかに,開始時の体重と体脂肪量,および減量希望体重が治療効果に影響した。行動療法群は減量効果のほかに血中脂質の改善,摂取エネルギーの減少,身体的および精神的自覚症の改善を認めた。以上より行動療法は,肥満の安全で有効な治療法であると結論した。
著者
足達 淑子 温泉 美雪 曳野 晃子 武田 和子 山上 敏子
出版者
一般社団法人 日本認知・行動療法学会
雑誌
行動療法研究 (ISSN:09106529)
巻号頁・発行日
vol.26, no.2, pp.69-82, 2000-09-30 (Released:2019-04-06)

1歳6か月児健診を利用して、その母親182名に養育行動に関する質問票調査を行い、育児ストレスと養育スキルや認知との関係を検討した。その結果、大多数の母親は育児に疲れて戸惑いつつも、相談相手や支援者がいて、育児を楽しみ前向きにとらえるなど健全な養育行動をとっていることがわかった。しかし、児の困った行動への対処法やストレス対処のスキルが乏しかったり、否定的な認知を示したり、夫との交流が乏しいなどが10〜20%あり、これらは養育の高危険群であることが示唆された。抑うつ、イライラ、健康上の悩みの育児ストレス反応は、排泄やかんしゃく等、子どもの行動で養育上困っていることの数、不適応的なストレス解消法、育児についての否定的な感想などと相関していたことから、この時期に養育スキルとストレス対処に関する親訓練を行うことは育児支援として有望であると結論した。
著者
羽山 順子 足達 淑子 津田 彰
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.16, no.1, pp.21-30, 2010 (Released:2014-07-03)
参考文献数
33
被引用文献数
1

[研究背景]寝渋り、夜泣きのような乳幼児の睡眠問題は、母親の睡眠と健康に悪影響を及ぼす。児の睡眠問題は、就床時および夜間覚醒時の児に対する適切な対応を親に教育することで予防できるとの報告がある。先行研究において、筆者らは生後4ヵ月の乳児を持つ母親を対象に児の睡眠問題予防を目的とした教育介入を実施した。しかし教育の効果は限定的であり、4ヵ月より早い月齢である新生児の親に対する教育が、児の睡眠問題の予防にはより有用であると考えられた。 [目的]先行研究の結果を踏まえ、本研究は、新生児の母親に対して行った児の睡眠問題予防教育が、母親の養育行動と児の睡眠問題予防に及ぼす効果を、その後の4ヵ月児健康診査で比較して検討した。 [方法]対象は教育群46名と教育をしなかった比較群30名であった。教育では、乳幼児の睡眠問題予防のため望ましい養育行動について説明した小冊子を、地域の新生児訪問時に助産師が母親に配布した。評価した行動は1)児の睡眠に関連した親の養育行動(望ましい養育行動13項目、望ましくない養育行動3項目)、2)児の睡眠と睡眠問題、3)母親の睡眠と健康問題であった。 [結果]教育の結果、教育群の母親は、児の夜間覚醒時に「すぐには触らず様子をみる」という望ましい養育行動が比較群より高率に見られた(教育群:比較群=48.9%:23.3%,p<0.05)。さらに望ましい養育行動の合計数は比較群よりも多く(教育群:比較群=4.4:3.3,p<0.01)、望ましくない養育行動の合計数は少なかった(教育群:比較群=1.3:1.7,p<0.05)。また、教育群の母子は就床時刻が規則正しい者の割合が高く、母親は頭痛を感じる者の割合が低かった(教育群:比較群=2.3%:20.0%,p<0.05)。 [考察]以上の結果から、小冊子を用いて児の就床覚醒時刻を規則正しくするための養育行動を教育したことは、教育群の児における就床時刻の規則性促進に影響したと考えた。また、児の就床時刻が規則正しいことは教育群の母親における就床時刻の規則性を促し、母親の頭痛の減少につながった可能性があると考えた。 一方、児の睡眠問題では群間差が見られず、新生児の母親への教育介入が、4ヵ月児の母親への教育よりも児の睡眠問題の予防に有用とした本研究の仮説は支持されなかった。この理由として、①予防効果の検証時期が生後4ヶ月では早過ぎた可能性、②今回用いたような簡素な介入の効果検証にはサンプル数(76名)が小さ過ぎた可能性、③本研究における教育法が、必ずしも児の睡眠に問題意識を有してはいない母親には不十分であった可能性が考えられた。従って、新生児の母親に対しては、本研究の教育方法では不十分で、情報の提供の仕方などに一段の工夫の余地があると考えた。 他地域も含めたより多数の対象者における比較試験を行うこと、睡眠日誌などで睡眠指標の精度を高める必要がある。 [結論]4ヵ月より早い月齢での親教育が児の睡眠問題の予防にはより有用であるとの仮説は支持されなかった。しかし、本研究における教育介入の結果、限定的ではあるが児の睡眠に関連する養育行動および母子の睡眠習慣に効果が認められた。また、母子の睡眠習慣の改善は、母親の健康問題の改善に貢献する可能性があることが示された。
著者
羽山 順子 足達 淑子
出版者
日本行動医学会
雑誌
行動医学研究 (ISSN:13416790)
巻号頁・発行日
vol.12, no.1, pp.25-35, 2006 (Released:2014-07-03)
参考文献数
36

不眠者の行動観察から、いくつか仮説が提起されている。それは「不眠者は、不眠を補おうとして不眠を悪化させるような行動をとる、睡眠に対し過度の期待や思い込みのような不適応的な認知を持つ」というものであるが、日本ではまだこの仮説を検証した研究は少ない。また、生活習慣と不眠の関連は一定した結果が得られていない。本研究は以上の仮説と、生活習慣と不眠の関連を検証することを目的とした。保健所主催の睡眠改善セミナー参加者(以下不眠群)16名の睡眠に関連する生活習慣と睡眠に関する認知を、セミナー参加者と同じ地域の住民(以下一般群)73名と比較した。また、地域住民の中でも睡眠の良否で違いがあるかどうか確認するため、一般群について睡眠効率を基準に睡眠不良群18名と睡眠良好群55名に分け、生活習慣と睡眠に関する認知を比較した。不眠群と一般群を比較したところ、不眠群は一般群よりも入眠潜時は16.3分、要起床時間は50.4分長く、これは睡眠不足を補うための行動ではないかと考えた。睡眠に関連する生活習慣は、全体得点では傾向差がありやや不良であることがうかがわれたが、その内容を詳細に観察すると睡眠薬使用と寝室の環境以外は差が認められず、必ずしも不眠群の生活習慣が不良であるとはいえなかった。不適応的認知の保有数に差はなく、下位項目ごとに比較をしても、不眠群で「不安やイライラは不眠のせい」が多く見られたのみで、「不眠で身体や神経がまいる」はむしろ一般群の方が多い傾向にあった。その他の8下位項目に差はなかった。さらに睡眠不良群と睡眠良好群の比較では、睡眠不良群は睡眠良好群よりも、入眠潜時は58.4分、要起床時間は45.5分長く、睡眠効率は19.8%低いという不眠群同様の特徴が認められた。生活習慣は運動と就寝直前の活用の2項目で睡眠良好群よりも良好であり、不適応的認知については全ての項目において差がなかった。以上より、不眠を補う行動と睡眠効率についての仮説は不眠群も睡眠不良群もあてはまっていると考えられたが、生活習慣と不適応的認知に関しては、一概に不眠と関係があるということはできなかった。睡眠改善の指導はその人一人一人に適した指導が必要であると考えられた。また、睡眠の良否と生活習慣、睡眠に関する不適応的認知に関連がなかったことは、睡眠に関する一般的な知識が浸透していないためとも考えられ、睡眠に関する健康教育は、不眠者ばかりでなく、睡眠に問題がない者にも必要であると考えられた。