著者
伊福 麻希 徳田 智代
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.7, pp.61-67, 2008

本研究では伊福・徳田(2006)の作成した青年を対象とした恋愛依存傾向尺度の再構成を行い,信頼性,妥当性についての検討を行った。本研究で再構成した恋愛依存傾向尺度は,伊福・徳田(2006)が作成した項目に,性行為や性行動を過度に重視した依存に関する項目,国内・欧米の先行研究から引用した恋愛依存症に関する項目を追加したものである。被験者は青年期の男女290名(男性129名,女性161名)で,平均年齢は20.54歳(SD=2,52)であった。因子分析の結果,「精神的支え」,「恋人優先」,「独占欲求」,「セックス依存」の4因子が抽出された。また,信頼性,妥当性について検討したところ,α係数による内的一貫性が示され,内容妥当性,基準関連妥当性,構成概念妥当性のいずれにおいても確かめられた。
著者
三浦 直樹 原岡 一馬
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.1, pp.71-80, 2002

本研究では,"社会とのつながり"の構造について因子分析を用いて探索し,"社会とのつながり"と心理的幸福感の関係について検討することを目的とした。被調査者は,391名の中学生および高校生であり,"社会とのつながり"と心理的幸福感の質問紙調査が実施された。心理的幸福感の測定尺度としては,疎外感尺度および充実感尺度を用いた。それらは,孤独感,空虚感,圧迫感,無力感,自尊感,充実感の因子から構成された。因子分析の結果,受容的つながり,道具的つながり,貢献的つながりの3因子が抽出された。相関分析と分散分析の結果,「受容的つながり」は孤独感,空虚感,圧迫感,無力感と負の関係がみられ,自尊感,充実感と正の関係がみられた。「道具的つながり」および「貢献的つながり」についても,いくつかの心理的幸福感の尺度との聞に相関がみられた。また,つながりの頻度と心理的幸福感の関係におけるつながりの重要度の効果も検討された。「受容的つながり」と空虚感,「貢献的つながり」と自尊感の関係において交互作用が見られ,重要度の効果が示唆された。これらの結果から,中学生および高校生にとって,特に「受容的つながり」を主とした"社会とのつながり"が心理的幸福感と関係していることが示された。
著者
秀島 眞佐子 岩元 澄子 原口 雅浩
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.5, pp.149-156, 2006

本研究では,Grunwaldの「空間図式」について統計的に再検討し,空間象徴図式の展開を試みた。研究1では,青年群86名,中高年群83名を対象に,Grunwaldの「空間図式」の16語の言葉のイメージを,SD法を用いて測定した。主成分分析の結果,「生存の資源」と「生存の促進」の2つの主成分を採用した。各言葉のイメージ得点を両群で比較したところ,「生存の促進」において,違いが見られた。すなわち,青年群では,すべてプラス得点であったのに対し,中高年群では,プラスとマイナス得点に2分された。これを「空間図式」と参照したところ,中高年群でのプラス得点の言葉は「空間図式」の下側に,マイナス得点の言葉は上側に位置して一致した。このことから,「空間図式」は,中年期以降におけるSD法で得られるような抽象的なイメージを反映したものであると考えられた。研究2では,青年期以降の110名を対象に,研究1で用いた「空間図式」の16語の言葉の,コラージュ法による配置を行った。クラスター分析およびχ2検定の結果,用紙上の,(1)中央に「心」・「身体」,中央から上方にかけて「母性」・「父性」・「誕生」,(2)上下に「希望」・「失望」,「空気」・「大地」,(3)左右に「過去」・「未来」が有意に位置した。このことから,用紙上の空間に対する言葉の具体的なイメージによる象徴性は(1)中央を自己スペースとして,(2)上下に感情と生活,(3)左右に時間で構成される世界と考えられた。以上の結果から空間象徴図式は言葉の抽象的なイメージによるものと具体的なイメージによるものとでは異なるものであることが示唆された。
著者
片岡 祥 園田 直子
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.11-18, 2008

本研究は,恋人に対する「依存」のしやすさとアタッチメントスタイルとの関連を検討したものである。被験者は大学生123名(男性53名,女性70名)であった。25項目からなる恋人依存尺度を因子分析したところ,"恋愛不安"と"恋人中心"の2因子が見出された。そして,恋人版に修正した30項目からなる一般他者を対象としたアタッチメントスタイル尺度(ECR-GO)を用いて参加者を4群に分類し,"恋愛不安"と"恋人中心"の2因子の得点の違いについて比較したところ,恋人にもっとも依存するのはとらわれ型,もっとも依存しないのは拒絶型であった。また,恐れ型と安定型を比較すると,両型とも"恋人中心"に差はなかったが,恐れ型は"恋愛不安"が高く,安定型は"恋愛不安"が低かった。その結果,恋人に対する"依存"には関係に対する不安と恋人を中心に考える程度という2次元があり,アタッチメントスタイルの違いが恋人に対する"依存"の程度を予測できることが示唆された。
著者
羽山 順子 津田 彰 Junko Hayama
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.150-158, 2011-03-31

5歳以下の小児において,就眠に不適切な条件や不適切なしつけの結果として維持される寝渋り,夜泣きのような睡眠問題は,小児の行動性不眠症と呼ばれる。小児の行動性不眠症にはオペラント条件づけを基礎理論とする行動科学的なアプローチが有効であると,多くの臨床試験から確認されている。本稿では,1)小児の行動性不眠症に対する行動科学的アプローチに関する理論とそれらの技法の効果と課題,2)日本の小児の睡眠研究の現況,について概説した。行動科学的なアプローチのうち,寝渋り,夜泣きを意図的に無視する消去法と,出産後6カ月以内に適切な対応の方法を養育者に教育する睡眠の予防的親教育は,小児の行動性不眠症に対する効果が確実であると示唆された。さらに,小児の行動性不眠症の改善は,母子の睡眠と精神保健にも寄与していた。一方,日本の小児の睡眠研究は,その多くが調査研究であり臨床試験の数は限られていた。本邦における行動科学的アプローチの導入は,母子の睡眠と精神保健の向上に寄与する可能性があると考えられた。
著者
片岡 祥 園田 直子
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.11-18, 2008-03-31

本研究は,恋人に対する「依存」のしやすさとアタッチメントスタイルとの関連を検討したものである。被験者は大学生123名(男性53名,女性70名)であった。25項目からなる恋人依存尺度を因子分析したところ,"恋愛不安"と"恋人中心"の2因子が見出された。そして,恋人版に修正した30項目からなる一般他者を対象としたアタッチメントスタイル尺度(ECR-GO)を用いて参加者を4群に分類し,"恋愛不安"と"恋人中心"の2因子の得点の違いについて比較したところ,恋人にもっとも依存するのはとらわれ型,もっとも依存しないのは拒絶型であった。また,恐れ型と安定型を比較すると,両型とも"恋人中心"に差はなかったが,恐れ型は"恋愛不安"が高く,安定型は"恋愛不安"が低かった。その結果,恋人に対する"依存"には関係に対する不安と恋人を中心に考える程度という2次元があり,アタッチメントスタイルの違いが恋人に対する"依存"の程度を予測できることが示唆された。
著者
田中 芳幸 津田 彰 神宮 純江
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.5, pp.115-123, 2006

近年のメンタルヘルスの分野では,精神障害がなくwell-beingも高いという二次元から精神的な健康が捉えられている。このような精神的健康の二次元モデルに基づき,ポジティブな側面とネガティブな側面を測定できる尺度として,筆者らは山田ら(1994)によって初めて開発されたいきいき度尺度を修正し,改訂-いきいき度尺度(PLS-R)を開発した。18歳から83歳までという幅広い年齢層の対象で検討したところ,PLS-Rの構造に性差は認められなかった。本研究では,20代から60代の年代別に信頼性と妥当性を検証することを目的とした。また,「いきいき度」の年代差についても検討した。福岡市健康づくりセンター等にて,「いきいき度」に関連する質問に回答した20歳代から60歳代の者の内,欠損値があるものを除外した6473名(男性1221名,女性5252名)の回答を分析対象とした。心理統計学的解析には改訂-いきいき度尺度の14項目を利用した。年代別に因子分析を行ったところ,20歳代から50歳代において,因子負荷量や因子寄与率に若干の差はあるものの,同一構造の4因子解が得られた。60歳代において3因子解となったため,4因子に固定して同様の分析を行ったところ,他の年代と同じ構造が示された。20歳代のチャレンジ精神においてα=0.66である以外は,全ての年代の下位尺度でα=0.70程度からα=0.84と高値を示し,十分な内的一貫信頼性が確認された。尺度得点の年代差は,いずれも高年齢ほど得点が良好という結果であった。結果より,改訂-いきいき度尺度は,20歳代から60歳代の範囲で,年齢に関わらず信頼性と妥当性を有していることが検証され,少なくとも本研究により検証された年齢範囲においては,性別や年齢に関わらず,改訂-いきいき度尺度が適用可能であることが明らかとなった。
著者
竹ノ山 圭二郎 原岡 一馬
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.2, pp.49-61, 2003

本研究の目的は,いじめ状況における被害者と周囲の者とのいじめ判断がどのように違うのかを明らかにすることであった。実験1では,被験者は被害者または傍観者条件にランダムに割りふられた。そして,いじめについての判断の違いが検討された。その結果,被害者よりも傍観者条件の被験者の方が,よりその状況はいじめであると判断する傾向があった。実験2では,被害者-傍観者という観点によるいじめ判断の差違に加えて,初めのいじめ判断が後の判断に影響するかどうかが検討された。シナリオは,いじめ場面(エピソード1)と,他の人達からの援助的介入を被害者が拒絶するという場面(エピソード2)を含んでいた。被験者の半数はエピソード1-エピソード2の順に回答し,他の被験者は逆の順序で回答した。その結果,被害者より傍観者は,よりいじめと判断していた。そして,エピソード1における判断は,エピソード2における判断に影響していた。実験3では,集団の数人の成員から被害者が無視されるとき,被害者が仲間はずれにされているという被験者の判断の程度が検討された。実験の要因は,被害者一加害者の立場,被害者への原因帰属,および加害者数に関する判断基準であった。予備調査の結果,3種類の判断基準がみいだされた。それは,(1)数人,(2)半分,および(3)ほとんどの仲間から無視されたときに,被害者が仲間はずれにされたと判断するという基準である。その結果,加害者の方が被害者よりも仲間はずれと判断し,また1番目の基準(数人の加害者)を持つ被験者の方が,より被害者は仲間はずれにされていると判断していた。しかし,どの条件でも,疎外の原因が被害者にあると,その被害者が仲間はずれにされているという判断は低下した。一連の実験を通じて,被害者に対するいじめに関する判断の程度において,被害者条件の方が他の条件よりも低かった。これらの結果は,いじめを否定する被害者の傾向を反映するものと解釈された。なぜなら,いじめの被害者であると認識することが自尊心への脅威となるからである。
著者
片岡 祥 園田 直子 Sho Kataoka
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.9, pp.1-8, 2010

本研究では青年期における愛着対象の移行を検討した。146 名の高校生と161 名の大学生を調査参加者として,4 つの愛着機能(近接性の維持,安全な避難場所,分離不安,安全基地)について対象が誰であるのか質問紙で調査した。その結果,高校生に比べて大学生では全ての愛着機能について親が対象として選択される割合が高かった。このことは,子どもの成長に伴い愛着対象が親から他の対象へ移行するという一般的な知見とは異なり,青年期後期において再び親が愛着対象としてみなおされる可能性を示唆する。また,高校生と大学生で恋人がいる者は,恋人や友人を愛着対象として選択する傾向があった。高校生で恋人がいない者は友人を愛着対象として選択する他に愛着対象が「いない」と回答する傾向があったが,大学生で恋人がいない者は親や友人を愛着対象として選択する傾向があった。青年期中期の青年は親から分離しており,青年期後期の青年は親を再び愛着対象としてみなおしているという可能性が考えられた。
著者
秀島 眞佐子 岩元 澄子 原口 雅浩
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.5, pp.149-156, 2006-03-31

本研究では,Grunwaldの「空間図式」について統計的に再検討し,空間象徴図式の展開を試みた。研究1では,青年群86名,中高年群83名を対象に,Grunwaldの「空間図式」の16語の言葉のイメージを,SD法を用いて測定した。主成分分析の結果,「生存の資源」と「生存の促進」の2つの主成分を採用した。各言葉のイメージ得点を両群で比較したところ,「生存の促進」において,違いが見られた。すなわち,青年群では,すべてプラス得点であったのに対し,中高年群では,プラスとマイナス得点に2分された。これを「空間図式」と参照したところ,中高年群でのプラス得点の言葉は「空間図式」の下側に,マイナス得点の言葉は上側に位置して一致した。このことから,「空間図式」は,中年期以降におけるSD法で得られるような抽象的なイメージを反映したものであると考えられた。研究2では,青年期以降の110名を対象に,研究1で用いた「空間図式」の16語の言葉の,コラージュ法による配置を行った。クラスター分析およびχ2検定の結果,用紙上の,(1)中央に「心」・「身体」,中央から上方にかけて「母性」・「父性」・「誕生」,(2)上下に「希望」・「失望」,「空気」・「大地」,(3)左右に「過去」・「未来」が有意に位置した。このことから,用紙上の空間に対する言葉の具体的なイメージによる象徴性は(1)中央を自己スペースとして,(2)上下に感情と生活,(3)左右に時間で構成される世界と考えられた。以上の結果から空間象徴図式は言葉の抽象的なイメージによるものと具体的なイメージによるものとでは異なるものであることが示唆された。
著者
孫 暁強 木藤 恒夫
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.17, pp.15-23, 2018-03-31

本研究では,質問紙調査により日中大学生の化粧意識と化粧行動の実態を調べ,さらに化粧意識と化粧行動との関連を検討した。155名の日本人大学生と154名の中国人大学生を対象として,化粧意識の3因子(「魅力向上・気分高揚」,「身だしなみ・必需品」,「効果不安」)と16項目の化粧行動について調査を行った。その結果,化粧意識において女子は日本が中国よりも高く,男子は日本が中国よりも低かった。化粧行動においては,日本の女子と中国の男子は皮膚のケアといった項目に,中国の女子はケアと共に魅力向上のための項目に頻度が高かった。日本の男子は全般的に化粧頻度が低かった。化粧意識と化粧行動との関係においては,両国の女子ともに3因子において相関が認められた。ただし,「魅力向上・気分高揚」では,男女とも日本では正,中国では負の相関が見られた。このことは,日本と中国はそれぞれの文化や社会が異なるため,化粧のとらえ方にもそれらの影響が及んでいることを示唆する。
著者
木藤 恒夫 児玉 千絵
出版者
久留米大学
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.37-48, 2003

本研究では,嘘の漏洩と非言語的手がかりとの関連を3つの実験で検討した。実験刺激として,男女各5名の自己プロフィル(氏名,家族構成,趣味等の10項目)に関する真と偽のビデオ映像(計20本)を用いた。「真」の映像ではすべての項目が事実そのままで,「偽」の映像では,10項目中の3項目が実験者によって偽に変えられた内容が述べられた。映像の長さはいずれも2分間弱であった。いずれの実験においても,被験者の「真偽判断」および「判断の確信度」と「利用した手がかり」が調べられた。実験1では,各被写体の真か偽のどちらか一方の映像(真と偽各5本の計10本)を98名の被験者に提示した。その結果,平均の正解数はほぼチャンスレベルにとどまった(平均4.9,標準偏差1.52)。ただし,個別刺激の正解率は14.3%〜85.7%の広い範囲にわたり,10人の被写体のうち8人において,真と偽の正解率に有意差が認められた。実験2では,各被写体の真と偽の映像(計20本)を被写体ごとに対にして15名の被験者に提示した。その結果,平均正解数は3.9,標準偏差は1.61であり,課題の困難度が増大した。実験3では,実験1の結果をふまえ,正解率が高い,チャンスレベル,あるいは低い映像(計9本)を用いて,32名の被験者に音声を消した視覚情報のみの条件で提示した。実験1の音声あり条件の結果と比較すると,高群では正解率が低下し,低群では正解率が上昇した。これらの結果から,総体的に見ると,チャンスレベル以上に真実と嘘を見分けることが難しいと同時に,嘘の非言語的漏洩の表出には個人差が見られること,さらに周辺言語を含めた聴覚情報が嘘の検出で果たす役割の重要性が示唆された。
著者
上野 素直 藤本 学 Sunao Ueno
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.14, pp.7-15, 2015-03-31

恥は大きく3つに大別することができる。本研究はその中で,理想自己と現実自己の乗離によって 生じる感情である“私恥”に注目する。研究1では,はじめに,人がどのような点に目を向けて自己評価しているのかを,自由記述アンケートによって同定した。つぎに,得られた結果を元に,自己評価傾向を4つの側面から測定する尺度を開発した。この尺度は各側面のポジティブとネガティブの両極を測定することから,両価的自己評価尺度(ASES)と命名された。さいごに,ASESの内的整合性と基準関連妥当性を確認した。続いて私恥を感じている人の特性および状態を明らかにするために, 研究2でははじめ,ASESを用いて自己評価の4側面について理想と現実を調査し,それらの差を求めた。つぎに,これらの高低の組み合わせから,調査参加者を4群に分類した。群間比較の結果, 私恥が高い者は自尊感情,自己効力感,自己愛が低い一方で,自己嫌悪感が高いことが明らかになった。
著者
大浦 理恵子 安永 悟
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.11-20, 2007-03-31

本研究の目的は,読み手を特定することが,産出文章の質におよぼす効果を検討することであった。実験参加者は大学生110名であった。実験では,読み手の個人特性に関する情報を与える個人特定群,読み手の属するカテゴリー情報を与えるカテゴリー特定群,読み手情報を与えない統制群に道案内文の作成を求めた。その結果,個人特定群は統制群に比べて,目印の説明が丁寧で,相手を配慮した文章が書けることが明らかとなった。また,読み手情報が与えられなくても自発的に読み手を特定できる参加者も質の高い文章を産出できることが見いだされた。さらに,実験参加者を対象とした調査から,自発的に読み手を想定できる参加者は手紙文作成経験が多いことが判明した。これらの結果を読み手意識活動の活性化の観点から考察した。
著者
中武 章子 佐藤 静一
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.4, pp.53-60, 2005-03-31

本研究では,高校生を対象として,教師への心理的距離と学校適応との関係を検討した。生徒の教師への心理的距離の測定にはLPC(Least Preferred Coworker)尺度を用いた。その結果,教師への心理的距離が小さい(LPC得点が高い)生徒の方が,心理的距離が大きい(LPC得点が低い)生徒より,「教師関係」「進路意識」「規則への態度」「学習意欲」及び「学校適応全体」において高くなる傾向が見い出された。また,関係がうまくいく教師に対して高い評価をしている(MPC得点が高い)生徒は,MPC得点が低い生徒よりも,「特別活動への態度」等,及び「学校適応全体」において高くなる結果が見い出された。
著者
森岡 育子 岩元 澄子 Ikuko Morioka
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.52-61, 2011-03-31

近年,小学校1年生の学校不適応が「小1プロブレム」として問題となっている。本研究は,小学校1年生の入学期の実態を情緒・行動の特徴と学校適応の観点から明らかにするとともに,それらとレジリエンスとの関連について検討することを目的とした。対象は,N 県内のA 小学校およびB 小学校への入学予定児で,幼稚園の担当教諭あるいは保育所の担当保育士に,小学校入学の2カ月前にレジリエンス尺度への回答を求めた。また,その児の保護者に,入学の2カ月前,入学後の4月と6月に,CBCLへの回答を求めた。さらに,その児の担任教諭に,入学後の4月と6月に学校適応感尺度への回答を求めた。統計学的分析によって,情緒・行動の特徴としては,「身体的訴え」が,入学の2カ月前よりも4月の方が有意に高いことが示された。また井潤他(2000)の一般児童の臨床域人数と比較して,1年生は,4月には「社会性の問題」が臨床域である児が有意に多く,「非行的行動」が臨床域である児が有意に少ない傾向にあることが示された。また学校適応としては,「安心感」が,4月より6 月の方が有意に高いことが示された。レジリエンスと情緒・行動の特徴との関連では,4月,6月ともに,「ソーシャルスキルの柔軟な利用」,「意欲」とさまざまな情緒・行動の特徴との間に有意な負の相関がみられた。またレジリエンスと学校適応感との関連では,4月には「ソーシャルスキルの柔軟な利用」と「集団適応」,「安心感」,「意欲」と「集団適応」,「資源」と「安心感」との間に正の相関がみられたが,6月には「意欲」と「集団適応」にのみ正の相関がみられた。これらのことから,「小1プロブレム」の実態が,情緒・行動の特徴と学校適応という観点から明らかになるとともに,入学前のレジリエンスを把握することで,入学後の子どもたちの情緒・行動の特徴や学校適応を予測できる可能性,さらには「小1プロブレム」防止のための援助の要点が示唆された。
著者
田中 芳幸 外川 あゆみ 津田 彰 Yoshiyuki Tanaka
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 = Kurume University psychological research (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.128-149, 2011-03-31

本論文では,主観的ウェルビーイングによる健康や長寿への影響性に関する欧米での研究成果を概観し,ポジティブ健康心理学の研究にとっての今後の課題について論考した。各研究の方法論や対象に基づき,(1)長期にわたる縦断的研究,(2)主観的ウェルビーイングと生理指標との日常での関連性についての研究,(3)実験的な感情操作に伴う生理指標の研究,(4)動物を対象とした研究,(5)自然発生的な出来事と健康関連要因に関する実験的-フィールド研究,(6)主観的ウェルビーイングの変化を健康関連要因によって評価した介入研究,(7)患者の痛みやQOL と主観的ウェルビーイングとの関連性の研究の7 種類の研究に分類して整理した。その結果,様々な種類の研究成果より,主観的ウェルビーイングやそれを構成するポジティブ感情などが,健康や長寿にとって有益であることや,免疫系や心臓血管系の機能と関連することは明らかであった。ただし,もともと健康であった人々においてこの関連性は明確であるが,ガンなどの疾患を有する人々を対象とした場合には様々に錯綜した報告があり関連が明確であるとは言い難い。また,過度に活性化したポジティブ感情や躁的なポジティブ感情は健康にとって有害であることを示唆した研究も存在した。効果量や効果の変動性,統計的な調整に基づく妥当性などの問題が考えられた。以上の欧米研究のレビューを踏まえて,本邦の心理学研究,特にポジティブ健康心理学研究の今後の展開にあたって,主観的ウェルビーイングの(1)定義の再考と(2)測定尺度の検討,および,(3)主観的ウェルビーイングと健康や長寿との因果関係の方向性の検討を行うことの必要性を考察した。
著者
山崎 しおり 稲谷 ふみ枝 野中 雅代 Masayo Nonaka
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.9, pp.57-61, 2010

近年,高齢者に対する心理的援助の技法として回想法が注目されており,国内でも福祉,介護場面で広く実践されている。本研究では,この回想がライフサイクルにおける老年期の特徴的な現象であるのか,1)日常的な回想頻度やその質的内容について,2)中年者と高齢者を比較し,さらに3)心理的ウェルビーイングと回想の質との関係について明らかにすることを目的とした。方法:65歳以上の高齢者34名(平均72.6歳)と,50歳代の中年者44 名(平均51.4歳)を対象とし,測定尺度は,①肯定的回想尺度,②否定的回想尺度,③再評価傾向尺度,④回想の頻度,⑤心理的ウェルビーイング尺度の5つを用いて,質問紙調査を2008年7月から8 月に実施した。その結果,「回想の頻度」で高齢者と中年者との間に有意差が認められ,内容としては「ひまなとき」,「何かで悩んでいるとき」,「寝るときや眠れないとき」の3場面で高齢群が中年群より有意に高いことが示された。さらに心理的ウェルビーイングが高い高齢者は良質の回想をする傾向が高く,回想の頻度も高いことが示された。これらの分析から,成人後期以降の回想の特徴と心理的ウェルビーイングとの関係が明らかとなり,高齢者に対して回想法を適用することの妥当性が示唆された。
著者
松田 輝美 津田 彰 Terumi Matsuda
出版者
久留米大学大学院心理学研究科
雑誌
久留米大学心理学研究 : 久留米大学文学部心理学科・大学院心理学研究科紀要 (ISSN:13481029)
巻号頁・発行日
no.12, pp.34-43, 2013

本研究の目的はジャーナル・アプローチが在日中国人留学生の精神的健康に及ぼす効果の検討とプログラムの評価を量的な質問紙調査と質的な面接を用いて行うことである。研究1では,中国人留学生19名を無作為にジャーナル・アプローチ介入群と待機群に分けた。3か月の介入前後にGeneralHealthQuestionnaire-28(GHQ-28)中国語版で精神的健康を測定した。2要因分散分析の結果,両群に有意差は認められなかった。介入群のうち半数が中断したが,彼らは受験が気がかり,あるいは周りの目が気になっていたことが明確になった。研究2では,プログラムの評価と介入中断の原因を特定するために,介入群の中国人留学生6名を対象に半構造化面接を行った。その結果,プログラムに参加した一部の留学生にストレスの緩和や気持ちの変化があることが示された。