著者
片平 浩孝 藤田 朋紀 中尾 稔 羽根田 貴行 小林 万里
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.2, pp.361-365, 2017 (Released:2018-02-01)
参考文献数
26

鰭脚類を終宿主とする寄生虫(Corynosoma spp.)の人体感染が北海道で生じ,その症例報告が消化器病学および寄生虫学の専門誌に相次いで掲載された.感染例はこれに留まらず,引き続き新たな患者が確認されている.本寄生虫症はいずれも虫体が小腸に長期間潜伏し,適切な診断や処置の遅れに繋がりやすい特徴を有していた.感染数増加の背景を理解することや今後の動向監視を含め,本寄生虫症に対するさらなる情報の蓄積が望まれる.
著者
羽根田 貴行 小林 万里 田村 善太郎 高田 清志 小川 泉
出版者
日本哺乳類学会
雑誌
哺乳類科学 (ISSN:0385437X)
巻号頁・発行日
vol.57, no.1, pp.35-43, 2017 (Released:2017-07-11)
参考文献数
17

厚岸地域大黒島のゼニガタアザラシ(Phoca vitulina stejnegeri)の上陸個体数は,近年増加傾向にある.それに伴い,大黒島に隣接する厚岸湾での漁業被害が深刻化している.しかしながら,被害物は痕跡が残り難いことから,実際に本種がどれくらいの漁獲物を捕食しているのか,漁業への影響の程度は明らかではない.本研究では,厚岸湾を利用するゼニガタアザラシの漁業への影響の程度を評価することを最終目標とし,いつ,どのような個体が,どれくらいの頻度で厚岸湾を利用しているかを明らかにすることを目的とした.厚岸湾で2個体に衛星発信機を装着したところ,両個体とも,厚岸湾の利用場所は湾内の小定置網と重なっており,極めて浅く短い潜水を行っていることが明らかになった.また,初春以降,両個体とも厚岸湾の利用が見られなくなり,それぞれ厚岸湾外と釧路へと移動した.両個体の移動時期は厚岸湾の小定置網漁が終わる時期とも一致していたことから,厚岸湾で両個体が餌としていた魚の分布が変化したことによって,ゼニガタアザラシも餌場を変えたと考えられた.これらの結果から,ゼニガタアザラシにとって厚岸湾は,初春に,成獣個体だけでなく採餌経験が未熟な未成熟個体にも,上陸場から近く水深が浅いため長時間滞在できる餌場であると考えられた.初春を過ぎるとゼニガタアザラシは厚岸湾から別の場所への餌場の変化がみられ,成獣はより上陸場に近く水深の深い餌場を利用し,幼獣は広範囲に移動しながら餌場の探索を長時間行なっていた.これらの違いは成獣と幼獣で餌場の学習や採餌経験の豊富さから発生しているものと考えられた.
著者
羽根田 貴行 諸星 綾 小林 万里
出版者
Association of Wildlife and Human Society
雑誌
野生生物と社会 (ISSN:24240877)
巻号頁・発行日
vol.4, no.2, pp.1-10, 2017 (Released:2017-06-17)
参考文献数
21

The Pacific Ocean along the coast of eastern Hokkaido is rich in marine resources and many pinniped species inhabit the area. In this study, we report the pinniped numbers and species that are incidentally caught in salmon set nets in the waters off eastern Hokkaido from spring to autumn in 2012-2014. As a result, the number of by-catch individuals was higher in spring than in autumn, with the majority of animals caught in Konbumori and Hamanaka, respectively. Individuals of all the pinniped species that inhabit the Hokkaido coast were caught in spring. The main seal species caught in this season were harbor seals, spotted seals, and northern fur seals, whereas the majority of by-catch animals in autumn were harbor seals. Most of the by-catch seals were young individuals. However, in addition to pups, pregnant northern fur seal females were caught incidentally, likely while moving northward to breed. Migratory pinnipeds depends on the environment, the change in the number of by-catch by year was great. In contrast, resident species changed little. Therefore, status of the by-catch of migratory pinnipeds can be used as an indicator of environmental changes, whereas, the current inhabitant changes for resident species such as harbor seals.