著者
細木 一成 丸山 仁司 福山 勝彦 鈴木 学 脇 雅子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2012, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】体幹筋の筋緊張軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどの先行研究が発表されている。第45回日本理学療法学術大会において立位、座位バランス能力が低下した方にロッキングチェアの自動振幅運動で同様の効果が得られるのではと考え、体幹後面筋の筋緊張が有意に低下することを発表した。今回、体能力低下や、認知症などによりロッキングチェアによる自動的振幅運動の遂行が困難な方を対象に他動的に振幅運動を行ない、自動振幅運動と同様に効果の有無を検討した。効果判定の手段として、他動的振幅運動前後のFFD(finger-floor distance)の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】被験者は都内理学療法士養成校に在学する腰部に整形外科的既往疾患のない成人男女10名(男性4名、女性6名、平均年齢21.2±0.8歳)とした。5分間の安静座位を取らせた後、床上を-とし0.5cm刻みでFFDの測定を行なった。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で着座させた。下肢を脱力し床に足底を接地した状態で、人為的に3分間前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は各被験者がロッキングチェアに着座した状態で起こる固有の振動数と同期させた。振幅の大きさは後方には足底を設置した状態が保て、前方にはバランスを崩し体幹後面筋に筋収縮が起こる防御姿勢を取らない範囲とし、3分間被検者が安楽に感じるように配慮した。ロッキングチェアでの運動後、施行前の方法でFFDの測定を行なった。運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトエクセル統計2008 for Windowsを使用した。【説明と同意】被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた者のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを事前に伝えた。【結果】FFDは振幅運動前で平均-8.5cm±11.1cm、振幅運動後で平均-1.6cm±8.7cmと振幅運動後に有意に増加した(p<0.01)。【考察】FFDが有意に増加したのは、ロッキングチェアによる他動的振幅運動で、体幹後面筋に対する筋緊張の変化が得られたと考えられる。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、片麻痺患者の寝返り、起き上がりなどの動作を困難にすると述べ、柏木らによればFFDの増加を伴う体幹の柔軟性の改善は、高齢慢性有疾患者の活動性向上や、意欲向上が認められると述べている。これらより高齢慢性有疾患者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の向上を考えると理学療法士が個別に行なう理学療法以外に、高齢慢性有疾患者自身もしくは家族が自主的に行なう運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり負担が大きければ継続が困難となる。これらのことを考慮し簡便で安価に導入できるロッキングチェアの他動的振幅運動は、体幹筋の機能異常が原因で、寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の低下している高齢慢性有疾患者に対して有効で、好影響を及ぼすものと推測する。【理学療法学研究としての意義】ロッキングチェアを使用した他動的振幅運動はFFDの増加を伴う後部体幹筋の柔軟性の改善に効果があり、高齢慢性有疾患者が自主的に行なう運動に対し有効であると考える。