著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 上野 詠子 根岸 康至 矢作 毅 二瓶 隆一
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学 (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.32, no.2, 2005-04-20
被引用文献数
1

【目的】腰痛を主訴に整形外科外来を受診する患者に、浮き趾を呈している症例が多くみられる。浮き趾は立位時に足趾が地面に接していない状態、つまり歩行時に足尖まで体重移動が行なわれず、地面に対する踏み返しが適正に行なわれない状態である。このような場合、後方荷重となり骨盤、腰椎の正常なアライメントが崩れることで傍脊柱筋の緊張が高まり、腰痛の原因になるものと推察する。我々は浮き趾治療の一つとして、浮き趾治療用の草履を着用させている。本研究は、この草履が歩行時、筋活動にどのように影響しているか検討することを目的とした。<BR>【対象】浮き趾を呈する成人女性20名(20~25歳、平均21.3歳)を対象とした。浮き趾に関しては、改良型PedoscopeならびにFoot printにて検出した。<BR>【方法】裸足歩行、我々の作製した草履を1趾と2趾の根元まで鼻緒を挿入して着用した歩行、1趾と2趾の間で浅く挟みつまむようにして着用した歩行、また市販のサンダルを着用した歩行をメトロノームを用い、同じ速度で歩行させた。測定前に草履に慣れさせるよう、十分練習を行なった。脊柱起立筋、大殿筋、腹直筋、大腿直筋、下腿三頭筋、足趾屈筋を導出筋として、電極を運動点中心に30mm幅で貼付し、足底にフットスイッチを装着した。各筋活動を表面筋電計(Mega Electronics社製 ME―3000)にて導出、AD変換しパーソナルコンピューターに保存、波形解析ソフト(Mega-win)にて解析した。1歩行周期における各筋の積分値を正常歩行100%として正規化し、各歩行における筋活動量について比較検討した。<BR>【結果】サンダル歩行に比べ草履を浅く着用した歩行では、脊柱起立筋で有意に筋活動量が低下し、大腿直筋、下腿三頭筋、足趾屈筋では有意に増加した(p<0.01)。大殿筋では、減少傾向がみられた(p<0.05)。草履を深く着用した歩行に比べ浅く着用した歩行でも、脊柱起立筋で有意に筋活動量が低下し、大腿直筋、下腿三頭筋、足趾屈筋では有意に増加した(p<0.01)。大殿筋では、減少傾向がみられた(p<0.05)。<BR>【考察】我々が作製した草履は、底の部分に「アメ底」と呼ばれる塩化ビニール製の硬めな材料を使用することで、柔らかい素材を使ったビーチサンダルのように勝手に折れ曲がり、不適切なToe breakがおこるのを防止している。また、適度にヒールアップさせることで趾尖に体重が乗りやすくしている。履き方として、足趾の根元まで挿入せず浅めに履いて、1趾と2趾で鼻緒を挟み、つまむようにして歩くようにしている。これにより、Toe break時に足趾で床を踏み込むようになり、下腿三頭筋や足趾屈筋の筋活動量が増加したものと考える。また、後方にあった重心が前方に移動したことで、骨盤、腰椎のアライメントが矯正され、歩行時、傍脊柱筋の緊張が軽減され、筋活動量も減少したものと考える。以上の点から、草履を使用した浮き趾の改善は、腰痛治療にも効果的なことが示唆された。
著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 二瓶 隆一 矢作 毅
出版者
日本理学療法士協会(現 一般社団法人日本理学療法学会連合)
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.C0282, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】骨折や変形性関節症術後などの骨関節疾患において、部分荷重が増加すると両松葉杖から片松葉杖に移行させる。通常、片松葉杖は健側上肢に持たせるが、時として健側上肢機能が低下していることで患側上肢に松葉杖を持たせることを余儀なくされる場合がある。今回の研究は、健側に片松葉杖を持ったときと、患側に片松葉杖を持ったときの歩行時筋活動量を比較しその特徴を調べ、早期にどの筋を優先的にトレーニングしなければならないかを検討することを目的とした。【対象・方法】健常成人女性15名(20~27歳、平均21.5歳)を対象とした。右側を患側と設定し、全荷重歩行(自由歩行)、左手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Lt松葉杖)、右手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Rt松葉杖)をメトロノームを用い、同じ歩行スピードで歩行させた。片松葉杖歩行の前に部分荷重2/3の練習を行わせ、十分歩行練習をさせた後に測定を行った。 筋電計(Mega electronics社製ME-3000P)を用い、右側大殿筋(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿四頭筋(Quad)、外側ハムストリングス(L-ham)、内側ハムストリングス(M-ham)、下腿三頭筋(Gastro)、前脛骨筋(TA)、股関節内転筋群(Add)を導出筋とし、電極を運動点中心に20mm幅で貼付した。立脚相における各筋活動量の積分値を求め、全荷重歩行を100%として正規化し、Lt松葉杖、Rt松葉杖における筋活動量について比較検討した。【結果】全荷重歩行とLt松葉杖歩行の比較において、Quad、L-ham、M-ham以外の筋で有意に筋活動量の低下がみられた。(p<0.01) Lt松葉杖歩行とRt松葉杖歩行の比較においては、G-max、G-med、Gastroの筋活動量が有意に増加し、全荷重歩行時以上の筋活動がみられた。(p<0.01) その他の筋において有意差はみられなかった。【考察】Pauwelsの式を応用すれば、患側に松葉杖を持ったときの中殿筋は、健側に持ったときよりも3倍以上の筋力が必要であると考えられる。しかし実際には、骨盤を患側に傾斜し体幹を側屈した、いわゆるDuchenne-Trendelenburg徴候様の歩行となり、重心の患側移動が起こることでいくらかは軽減される。今回の実験では、約1.5倍程度の増加であった。股関節伸展モーメントは、床反力による上体の崩れ防止と支持機能のために作用する。患側に松葉杖を持つことは、支持基底面を減少させ、バランスが崩れやすい状態となっている。これをコントロールするために、大殿筋の筋活動が増加したものと推察する。 これらのことから患側に松葉杖を持った場合、立脚相後期において、より強い推進力と足関節制御機構が必要となり、下腿三頭筋の筋活動が増加したものと思われる。 以上の結果から、患側上肢に片松葉杖を持つことを余儀なくされる場合には、早期より中殿筋、大殿筋、下腿三頭筋を中心とした筋力トレーニングを行う必要性が示唆された。
著者
小山内 正博 舘川 康任 田村 麻美子 清水 弥生 新井 美紗 渡辺 裕介 福山 勝彦 秋山 純和
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.25, no.1, pp.91-94, 2010 (Released:2010-03-26)
参考文献数
19
被引用文献数
1

〔目的〕姿勢変化に伴う側腹筋の活動を超音波画像診断装置と表面筋電図法で検証することである。〔対象〕健常成人9名であった。〔方法〕背臥位で安静呼吸と最大呼出の筋厚と筋活動を測定後,体幹を前傾位,中間位,後傾位で,各円背位と伸張位の6種類の坐位姿勢をとらせて再度測定した。〔結果〕最大呼出時に筋電図は,内腹斜筋だけが中間位伸張に対し前傾位円背,中間位円背,後傾位円背で有意差を認めた。安静吸気時は,筋厚で内腹斜筋に中間位伸張に対し前傾位円背,前傾位伸張,後傾位円背で有意差を認めた。〔結語〕中間位伸張は内腹斜筋の姿勢保持筋としての活動に関与しない姿勢と考えられる。最大呼出時の筋電図から内腹斜筋は呼気筋としての機能を発揮しやすい姿勢と考えられる。
著者
細木 一成 丸山 仁司 福山 勝彦 鈴木 学 脇 雅子
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.38 Suppl. No.2 (第46回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.AbPI2012, 2011 (Released:2011-05-26)

【目的】体幹筋の筋緊張軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどの先行研究が発表されている。第45回日本理学療法学術大会において立位、座位バランス能力が低下した方にロッキングチェアの自動振幅運動で同様の効果が得られるのではと考え、体幹後面筋の筋緊張が有意に低下することを発表した。今回、体能力低下や、認知症などによりロッキングチェアによる自動的振幅運動の遂行が困難な方を対象に他動的に振幅運動を行ない、自動振幅運動と同様に効果の有無を検討した。効果判定の手段として、他動的振幅運動前後のFFD(finger-floor distance)の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】被験者は都内理学療法士養成校に在学する腰部に整形外科的既往疾患のない成人男女10名(男性4名、女性6名、平均年齢21.2±0.8歳)とした。5分間の安静座位を取らせた後、床上を-とし0.5cm刻みでFFDの測定を行なった。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で着座させた。下肢を脱力し床に足底を接地した状態で、人為的に3分間前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は各被験者がロッキングチェアに着座した状態で起こる固有の振動数と同期させた。振幅の大きさは後方には足底を設置した状態が保て、前方にはバランスを崩し体幹後面筋に筋収縮が起こる防御姿勢を取らない範囲とし、3分間被検者が安楽に感じるように配慮した。ロッキングチェアでの運動後、施行前の方法でFFDの測定を行なった。運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトエクセル統計2008 for Windowsを使用した。【説明と同意】被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた者のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを事前に伝えた。【結果】FFDは振幅運動前で平均-8.5cm±11.1cm、振幅運動後で平均-1.6cm±8.7cmと振幅運動後に有意に増加した(p<0.01)。【考察】FFDが有意に増加したのは、ロッキングチェアによる他動的振幅運動で、体幹後面筋に対する筋緊張の変化が得られたと考えられる。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、片麻痺患者の寝返り、起き上がりなどの動作を困難にすると述べ、柏木らによればFFDの増加を伴う体幹の柔軟性の改善は、高齢慢性有疾患者の活動性向上や、意欲向上が認められると述べている。これらより高齢慢性有疾患者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の向上を考えると理学療法士が個別に行なう理学療法以外に、高齢慢性有疾患者自身もしくは家族が自主的に行なう運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり負担が大きければ継続が困難となる。これらのことを考慮し簡便で安価に導入できるロッキングチェアの他動的振幅運動は、体幹筋の機能異常が原因で、寝返り、起き上がりなどの基本動作能力、意欲の低下している高齢慢性有疾患者に対して有効で、好影響を及ぼすものと推測する。【理学療法学研究としての意義】ロッキングチェアを使用した他動的振幅運動はFFDの増加を伴う後部体幹筋の柔軟性の改善に効果があり、高齢慢性有疾患者が自主的に行なう運動に対し有効であると考える。
著者
板垣 昭宏 山本 泰三 豊田 和典 矢上 健二 関口 成城 榊 佳美 石井 さやか 山口 茜 福山 勝彦
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48100847, 2013

【はじめに、目的】上腕骨小頭と橈骨頭で構成される腕橈関節は,上腕骨小頭との適合性を高めるため,橈骨関節面は凹型の構造となっている.構造的な特徴から,肘関節伸展時に上腕骨小頭に対して,橈骨頭は後方へ滑るとされている.Gotoらは,肘関節運動時の腕橈関節における関節面接触に関する研究において,上腕骨小頭関節面は肘関節屈曲135°に比べ90°,0°では後方での接触になり,橈骨関節面は肘屈曲135°では前方での接触,屈曲90°,0°では全体での接触になると報告している.しかし,超音波画像診断装置を用いて,肘関節伸展時の腕橈関節を評価した報告は少ない.我々は,超音波画像診断装置を用いて,肘関節伸展時の橈骨頭の後方への移動量について検討したので報告する.【方法】対象は神経学的および整形外科疾患の既往の無い健常女性10名10肘で,測定肢はすべて左肘とした.対象者の平均年齢は24.2±1.6歳,平均身長は156.4±2.9cm,平均体重は48.9±3.1kgであった.測定肢位は背臥位とし,被験者の右上肢で測定側上腕近位部を把持させ,肩関節内外旋0°の位置で固定した.計測する角度は,前腕回内外中間位で肘関節伸展-20°,-15°,-10°,-5°,0°,5°とし,ゴニオメータにて設定した.上腕骨小頭に対する橈骨頭の後方への移動を,超音波画像診断装置(東芝社製famioSSA-530A 12MHzリニア式プローブ)を使用し,腕橈関節前面からの長軸像を計測した.プローブ操作は,短軸像での上腕骨小頭頂点を描写し,上腕骨小頭頂点を軸に90°プローブを回転させて,腕橈関節長軸像を描写した.腕橈関節長軸像から内蔵デジタルメジャーのパラレル計測を用いて,矢状面での上腕骨小頭頂点を通る線と,その線に対し橈骨頭前縁を通る平行な線の二つの線の間の距離を腕橈関節前後距離(以下,腕橈関節前後距離とする)として計測した.腕橈関節前後距離は,上腕骨小頭に対する橈骨頭の後方への移動量を正の値として算出した.各角度における腕橈関節前後距離を3回計測し,平均値を測定値とした.なお測定はすべて同一検者により実施し,プローブを皮膚に対して直角にあて過度な圧をかけないように注意しながら行った.各角度間における腕橈関節前後距離を,一元配置分散分析にて比較し,有意差のみられたものにTukeyの多重比較検定を行った.統計処理には統計ソフトSPSSを使用し,有意水準は5%未満とした.【倫理的配慮、説明と同意】実験に先立ち,対象者には研究内容について十分に説明し同意を得た.【結果】腕橈関節前後距離の平均値は,肘関節伸展-20°で0.93±0.7mm,-15°で1.90±0.78mm,-10°で2.7±0.60mm,-5°で3.32±0.69mm,0°で3.92±0.74mm,5°で3.98±0.82mmであった.肘関節伸展-20°では,-10°以上の各角度との間に,肘関節-15°では,-5°以上の各角度との間に,肘関節-10°では,-20°および,0°,5°との間に有意差があったが(P<0.05),肘関節伸展-5°,0°,5°の各角度間には有意差はなかった.【考察】今回の結果において,肘関節-5°,0°,5°の間での腕橈関節前後距離に有意差はなかったことから,肘関節屈曲位から伸展する際に,上腕骨小頭に対して橈骨頭は後方へ移動するものの,肘関節最終伸展域では橈骨頭は後方への移動はしていない,または少ない可能性が示唆された.腕橈関節の特徴として,上腕骨小頭の関節面は上腕骨長軸に対し,矢状面で前方に約30°傾いており,さらに関節軟骨は前方のみに限局していることから,肘関節最終伸展域では,橈骨頭は上腕骨小頭関節面に対し狭い関節面で適合しなければならない構造となっている.肘関節伸展可動域を改善するためには,上腕骨小頭に対して,橈骨頭が後方に移動できるよう周囲の軟部組織の柔軟性を確保するとともに,最終伸展域では橈骨頭を後方へ移動させるのではなく,上腕骨小頭関節面に適合させるような誘導をする必要性が示唆された.【理学療法学研究としての意義】肘関節伸展可動域を拡大させるためには,腕橈関節に対する評価や運動療法を実施する意義があると考える.腕橈関節の可動性を引き出すためには,上腕骨小頭に対して橈骨頭の後方への移動が必要であり、肘関節最終伸展域では上腕骨小頭関節面に橈骨頭を適合させる必要があると考える.
著者
福山 勝彦 福山 ゆき江 丸岡 裕美 原田 悦子 鎌田 幸恵 細木 一成 矢作 毅 丸山 仁司
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2011, pp.Ca0213-Ca0213, 2012
被引用文献数
2

【はじめに、目的】 近年、足趾が床面に接地せず、歩行時に趾先まで体重移動が行われない「浮き趾」についての報告を散見する。これまで浮き趾例では足趾把持力の低下や前方重心移動能力低下、床面からの感覚入力の低下がみられることを報告してきた。また浮き趾の状態が継続されることで歩行時において体幹のアライメントの崩れや傍脊柱筋、大殿筋などの筋活動の乱れが生じ、腰痛の出現につながる可能性があることも示唆されている。我々はこの浮き趾の抽出、評価として、自作のPedoscope撮影による画像から「浮き趾スコア」による点数化を試み検討している。これは左右10本の足趾に対し,完全に接地しているものを2点,接地不十分なものを1点,まったく接地していないものを0点とし,20点満点で評価するものである。しかしこれらの方法による信頼性、再現性については検討されていない。本研究ではPedoscopeを使用し、浮き趾スコアの検者間、検者内の信頼性について確認することを目的とした。【方法】 下肢に整形外科疾患の既往のない健常成人98名を対象とした。男女の内訳は男性48名、女性50名、年齢は22.3±2.9歳であった。足底画像を自作のPedoscopeにて撮影した。Pedoscopeは、床面から30cmの高さのステージ上面に強化ガラスを固定し、この上に被検者を起立させる。ステージの側面に斜めに固定した鏡で足底を反映し、デジタルカメラで撮影する構造になっている。被検者をステージの強化ガラス上に、開眼で2m前方の目の高さに設定した目標点を注視した状態で起立させた。足幅は両足内縁が5cm開くように枠を用いて開脚した。趾先に力を入れたり重心を移動したりせず安楽な姿位を保持した上で、身体の動揺が落ち着いている状態での足底画像を撮影した。初回の撮影に引き続き、その1時間後、1週間後の同じ時間帯で同様の撮影を行なった。得られた画像を前述した方法で10本それぞれの足趾に対し、完全に接地しているものを2点、不完全なものを1点、接地していないものを0点とし20点を満点とする「浮き趾スコア」を求めた。初回時の画像に関しては3人の経験者(これまでの研究に参加し画像評価していた者)と3人の未経験者、計6人の評価者で評価した。3人の未経験者については、事前に評価の方法を説明、サンプルを用いて採点の練習を行なった。1時間後および1週間後の採点については筆者が行なった。初回時のデータから評価者6人全員による検者間信頼性ICC(2,1)、経験者3人、未経験者3人それぞれの検者間信頼性ICC(2,1)を求めた。また初回、1時間後、1週間後のデータから検者内信頼性ICC(1,1)を求めた。【倫理的配慮、説明と同意】 すべての被験者に対し、事前に本研究の趣旨および方法を説明、また本研究への協力は自由意志であり辞退、途中棄権しても何ら不利益がないこと、得られたデータは個人が特定できないよう管理し本研究以外に用いないことを説明し同意を得た。【結果】 全評価者のICC(2,1)は0.858、経験者3人のICC(2,1)は0.895、未経験者3人のICC(2,1)は0.829であった。初回、1時間後、1週間後のICC(1,1)は0.927であった。【考察】 我々が用いている浮き趾スコアの評価者間における信頼性は、Landisの基準から経験による差は若干あるものの、Almost perfectの結果が得られた。不完全接地1点の評定にばらつきがあるのではないかと思われたが、完全接地趾、足根部、踵部との接地画像の比較により近似した値を得ることができると考える。また検者内信頼性についてはかなり高い信頼性を得ており、それぞれの被検者の足趾接地の再現性が確認できた。我々は本スコアをもとに、18点以上かつ両側第1趾とも2点のものを「正常群」,10点以下のものを「浮き趾群」と分類し、正常群と浮き趾群における機能の比較研究を行なっており、その基礎となる群間分類上の信頼性が得られたものと思われる。しかし接地画像の形やどの趾が接地していないかという分類はできず、今後検討していく必要がある。【理学療法学研究としての意義】 最近「浮き趾スコア」は、他の研究者の間にも導入されており、Pedoscopeでの撮影以外にフットプリントやフットスキャンなども使用されている。いずれも床面と足底の接地状態を反映するものであり、自作によるPedoscopeやフットプリントの使用は比較的安価で簡便なものである。この信頼性が得られたことは「浮き趾」の抽出、分類、理学療法の効果判定に役立つものと思われる。
著者
細木 一成 福山 勝彦 鈴木 学 丸山 仁司
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.37 Suppl. No.2 (第45回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A4P2076, 2010 (Released:2010-05-25)

【目的】国立社会保障・人口問題研究所が発表した西暦2050年の日本人の平均寿命は、男性80.9歳、女性89.2歳と予測している。このように平均寿命は伸び今後、高齢者の数がますます増加してくるのは明白である。時間的に制約のある病院、介護老人施設、訪問リハビリテーションで理学療法士が行う個別の理学療法は限界があり、病院や施設内、在宅で後部体幹筋などのリラクゼーション効果を得ることは不十分で、理学療法を有効に活用できないと考える。体幹筋の筋緊張の軽減や、リラクゼーション効果を得る手段として、乗馬療法やフィットネス機器のジョーバなどが多く研究され紹介されている。その中でもジョーバは簡便に行えるが、立位、座位バランス能力が低下した高齢者においては、使用することが困難であろうと予測する。これに対する一つ手段として、座位にて振幅運動を利用したロッキングチェアによる運動により同様の効果が得られないかと考えた。ロッキングチェアよるリラクゼーション効果判定の手段として、施行前後のFFD(finger-floor distance)および重心の前方移動距離の変化を測定し、若干の知見を得たので報告する。【方法】被験者は理学療法士養成校に在学する腰痛等に既往のない成人男女10名(男性5名、女性5名、平均年齢24.1±6.2歳)とした。5分間の安静座位を取らせた後FFDおよび重心の前方移動能力の測定を行なった。方移動能力の測定は福山らの方法に順次、アニマ社製グラビコーダGS-10を使用した。被検者を床反力計上に5cm開脚位、2m前方の目の高さにある目標点を注視して起立させた。まず10秒間の安静時重心動揺を測定した。次に体幹を屈曲させたり踵を浮かせたりすることなく身体を前方に最大移動した状態で保持させ、10秒間の重心動揺を測定した。前方移動時のMY(MEAN OF Y:動揺平均中心偏位)値から安静時のMY値を減じ、さらに足長(踵の後面から第1趾先端までの距離)で除し前方移動能力とした。次に被験者をロッキングチェア(風間家具のヨーロッパタイプ)上に安楽と思われる姿勢で座らせた。床に足底を接地した状態で、下肢の筋力を使わず体幹筋の運動により10分間、前後に揺らすことを指示した。振幅させる周期は被験者の任意とし10分間安楽に行なえるように配慮した。ロッキングチェアでの10分間の運動後、運動前と同様の方法でFFDと前方移動能力の測定を行なった。運動前後のFFDおよび前方移動能力の値についてウィルコクソンの符号順位和検定を用いて比較検討した。有意水準は5%未満とした。なお統計処理には統計解析ソフトSPSS 11.5J for Windowsを使用した。【説明と同意】被験者に対し目的・方法を十分説明し理解、同意を得られた方のみ実施した。実施中に体調不良となった場合は速やかに中止すること、途中で被験者自身が撤回、中断する権利があり、その後になんら不利益を生じず、また個人情報は厳重に管理することを伝えた。【結果】FFDは運動前で平均2.1cm±10.9cm、運動後で平均5.2cm±11.4cmと運動後に有意に増加した(p<0.05)。前方移動能力は平均27.4%±8.2%、運動後で平均31.7%±4.8%と運動後に有意に増加した(p<0.05)。【考察】今回のロッキングチェアでの運動によりFFD、前方移動能力が増大したことについては、後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーション効果により体幹、下肢の柔軟性が増大したものと推察する。佐々木らによれば体幹の筋緊張、体幹回旋筋力といった体幹部分の機能異常や能力低下が、寝返り、起き上がりなどの動作を困難にしていると述べている。高齢者の寝返り、起き上がりなどの基本動作能力の維持・向上を考えると個別に行なう理学療法以外に、高齢者自身が行う自主的な運動が必要となってくる。このような運動は継続することが重要で、簡便さが必要になり複雑な運動や、負荷が強ければ継続が困難となる。簡便で安価に導入できるロッキングチェアの持続運動は、体幹筋の過緊張が原因で寝返り、起き上がりが困難となっている高齢者に対して、有効で動作の遂行に好影響を及ぼすものと推測する。【理学療法研究としての意義】ロッキングチェアを使用した持続運動は後部体幹筋、下腿後面筋に対するリラクゼーションに効果があり、高齢者自身が行う運動に対し有効であると考える。
著者
福山 勝彦 小山内 正博 関口 由佳 二瓶 隆一 矢作 毅
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2003, pp.C0282-C0282, 2004

【はじめに】骨折や変形性関節症術後などの骨関節疾患において、部分荷重が増加すると両松葉杖から片松葉杖に移行させる。通常、片松葉杖は健側上肢に持たせるが、時として健側上肢機能が低下していることで患側上肢に松葉杖を持たせることを余儀なくされる場合がある。今回の研究は、健側に片松葉杖を持ったときと、患側に片松葉杖を持ったときの歩行時筋活動量を比較しその特徴を調べ、早期にどの筋を優先的にトレーニングしなければならないかを検討することを目的とした。<BR>【対象・方法】健常成人女性15名(20~27歳、平均21.5歳)を対象とした。右側を患側と設定し、全荷重歩行(自由歩行)、左手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Lt松葉杖)、右手に松葉杖を持った片松葉杖歩行(Rt松葉杖)をメトロノームを用い、同じ歩行スピードで歩行させた。片松葉杖歩行の前に部分荷重2/3の練習を行わせ、十分歩行練習をさせた後に測定を行った。 筋電計(Mega electronics社製ME-3000P)を用い、右側大殿筋(G-max)、中殿筋(G-med)、大腿四頭筋(Quad)、外側ハムストリングス(L-ham)、内側ハムストリングス(M-ham)、下腿三頭筋(Gastro)、前脛骨筋(TA)、股関節内転筋群(Add)を導出筋とし、電極を運動点中心に20mm幅で貼付した。立脚相における各筋活動量の積分値を求め、全荷重歩行を100%として正規化し、Lt松葉杖、Rt松葉杖における筋活動量について比較検討した。<BR>【結果】全荷重歩行とLt松葉杖歩行の比較において、Quad、L-ham、M-ham以外の筋で有意に筋活動量の低下がみられた。(p<0.01) Lt松葉杖歩行とRt松葉杖歩行の比較においては、G-max、G-med、Gastroの筋活動量が有意に増加し、全荷重歩行時以上の筋活動がみられた。(p<0.01) その他の筋において有意差はみられなかった。<BR>【考察】Pauwelsの式を応用すれば、患側に松葉杖を持ったときの中殿筋は、健側に持ったときよりも3倍以上の筋力が必要であると考えられる。しかし実際には、骨盤を患側に傾斜し体幹を側屈した、いわゆるDuchenne-Trendelenburg徴候様の歩行となり、重心の患側移動が起こることでいくらかは軽減される。今回の実験では、約1.5倍程度の増加であった。<BR>股関節伸展モーメントは、床反力による上体の崩れ防止と支持機能のために作用する。患側に松葉杖を持つことは、支持基底面を減少させ、バランスが崩れやすい状態となっている。これをコントロールするために、大殿筋の筋活動が増加したものと推察する。<BR> これらのことから患側に松葉杖を持った場合、立脚相後期において、より強い推進力と足関節制御機構が必要となり、下腿三頭筋の筋活動が増加したものと思われる。<BR> 以上の結果から、患側上肢に片松葉杖を持つことを余儀なくされる場合には、早期より中殿筋、大殿筋、下腿三頭筋を中心とした筋力トレーニングを行う必要性が示唆された。