著者
船越 進太郎
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.52, no.3, pp.157-162, 2001-06-30 (Released:2017-08-10)
参考文献数
11

1995年から1999年にかけて岐阜県谷汲村の神社拝殿で夏眠をするAmphipyra属6種,カラスヨトウA.livida corvina,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオウスヅマカラスヨトウA.erebina,シロスジカラスヨトウA.tripartita,オオシマカラスヨトウA.monolitha surniaとナンカイカラスヨトウA.horieiの個体数の変動を調べた.夏眠個体のカウントにおいてオオシマカラスヨトウとナンカイカラスヨトウの種同定は不可能であり,これらは同一種として数えた.この調査地点ではカラスヨトウが常に優占し,50m^2余りの小さな神社拝殿軒下に静止する個体数は多い時で248個体を数えた.その他の種はいずれも個体数が少なく,特にツマジロカラスヨトウは5年の調査期間に5個体しか出現しなかった.夏眠個体数は年によって,また季節によって大きく変動したが,最大個体数を示す年は,種ごとに異なっていた.東海地方におけるそれぞれの種の夏眠期間は,これまで調べられたようにほぼ決まっていた.また,岐阜市周辺の夏眠場所で1987年および1995年から1998年にかけてカラスヨトウを採集し,性を記録すると共に体重を測定した.カラスヨトウ雄成虫は,この属の他種には見られない触角のわずかな鋸歯構造で雌から区別できるが,夏眠後半の個体ではこの特徴が消失する(おそらくすり減るものと思われる).そのため全ての個体を二酸化炭素で短時間の麻酔にかけ,双眼実体顕微鏡により後翅の翅棘で性を確認した.体重は電子自動上皿天秤であらかじめ重量を計ったプラスチック容器に調査個体を移動して測定した.その結果,6月中旬から10月上旬まで,夏眠個体の雄と雌の比は,ほぼ1:1であったが,10月中旬より雄の個体数は減少し,雌の占める割合が増加した.また,体重は9月下旬までは多少雌の方が上回ったがほとんど差はなく,10月上旬になって明らかな差が現われた.その後,体重差は益々広がった.これらの現象は夏眠覚醒の季節とほぼ同時に始まっており,カラスヨトウ成虫に生理的な変化が起こっていることが明らかになった.カラスヨトウは夏眠期間中は,ほとんど光源や糖蜜に誘引されず,交尾行動も見られないことがこれまでの調査で確かめられている.覚醒の後,雄個体は交尾相手を求めて夏眠場所を離れ,活発に活動するためエネルギーを消費し,体重が激減するものと思われる.一方,雌は雄から精包を受け取り,卵が発育するために体重が増加するものと考えられる.しかしながら,夏眠期間中の体重維持や少し早めの体重増加などから,カラスヨトウ類は夏眠期間中も餌をとっていると推定された.
著者
船越 進太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-198, 1988-09-20

ヤガ科カラスヨトウ亜科Amphipyra属の蛾は初夏に羽化した後,夏眠場所へ移動し数ヶ月を過ごす.夏眠期間は種によって異なり,オオウスヅマカラスヨトウA.erebinaが8月下旬に姿を消すのに対し,オオシマカラスヨトウA.monolithaやカラスヨトウA.lividaの中には,11月中旬になっても夏眠場所に残るものがいる.しかし,夏眠期間中にあっても光に誘引されるものがいて,7月から9月に至る期間,この属の蛾の採集記録は少なくない.そこで,光に誘引される個体は夏眠個体とは多少とも異なった生理状態にあるのではないかと考えて,この実験を行った.材料は岐阜市三田洞の白山神社拝殿と同地域に位置する百々ヶ峰山(341.5m)の中腹で採集した夏眠個体36(17♂19♀)および光に誘引されたカラスヨトウ4(3♂1♀)を用いた.これらの個体を黒砂糖溶液を与えながら飼育し,金網を張った木箱の中に一匹ずつ入れて赤外線を照射し,その動きをカイモグラフに記録した.実験は1987年6月30日より7月22日の間に行い,17時より翌朝8時までの活動状態を調べた.木箱は恒温室内に置き,温度や湿度を一定に保ち,自然光が入り込む条件および24時間照明の条件を設定した.また,1987年8月1日,岐阜県山県郡美山町の神明神社および1987年9月19日,岐阜市三田洞の白山神社において,拝殿より約5m離れた位置に100W水銀灯を設置した.拝殿軒下で夏眠する蛾の種,個体数,静止位置を記録した後,水銀灯を点灯した.点灯時間は1時間で,その間,光に飛来する個体を捕獲した.消灯後,再度軒下の個体を記録した.以上の結果,室内実験において24時間照明下では,カラスヨトウの光誘引個体も夏眠個体も全く動かなかった.自然光下では19:30前後より活動が始まり,多くの個体は断続的に活動したが,中には一晩中動き続ける個体がいた.全ての個体は4:30頃までに活動を停止した.しかし,夏眠個体と光誘引個体との間に行動の差違を見い出すことができなかった.神社拝殿の夏眠個体の中で,8月上旬のオオウスヅマカラスヨトウは,大半が光に誘引された.しかし,カラスヨトウ,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオシマカラスヨトウは全く誘引されず,多少静止位置を変えるものがいたが,夏眠を継続した.
著者
船越 進太郎
出版者
THE LEPIDOPTEROLOGICAL SOCIETY OF JAPAN
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.39, no.3, pp.193-198, 1988-09-20 (Released:2017-08-10)

ヤガ科カラスヨトウ亜科Amphipyra属の蛾は初夏に羽化した後,夏眠場所へ移動し数ヶ月を過ごす.夏眠期間は種によって異なり,オオウスヅマカラスヨトウA.erebinaが8月下旬に姿を消すのに対し,オオシマカラスヨトウA.monolithaやカラスヨトウA.lividaの中には,11月中旬になっても夏眠場所に残るものがいる.しかし,夏眠期間中にあっても光に誘引されるものがいて,7月から9月に至る期間,この属の蛾の採集記録は少なくない.そこで,光に誘引される個体は夏眠個体とは多少とも異なった生理状態にあるのではないかと考えて,この実験を行った.材料は岐阜市三田洞の白山神社拝殿と同地域に位置する百々ヶ峰山(341.5m)の中腹で採集した夏眠個体36(17♂19♀)および光に誘引されたカラスヨトウ4(3♂1♀)を用いた.これらの個体を黒砂糖溶液を与えながら飼育し,金網を張った木箱の中に一匹ずつ入れて赤外線を照射し,その動きをカイモグラフに記録した.実験は1987年6月30日より7月22日の間に行い,17時より翌朝8時までの活動状態を調べた.木箱は恒温室内に置き,温度や湿度を一定に保ち,自然光が入り込む条件および24時間照明の条件を設定した.また,1987年8月1日,岐阜県山県郡美山町の神明神社および1987年9月19日,岐阜市三田洞の白山神社において,拝殿より約5m離れた位置に100W水銀灯を設置した.拝殿軒下で夏眠する蛾の種,個体数,静止位置を記録した後,水銀灯を点灯した.点灯時間は1時間で,その間,光に飛来する個体を捕獲した.消灯後,再度軒下の個体を記録した.以上の結果,室内実験において24時間照明下では,カラスヨトウの光誘引個体も夏眠個体も全く動かなかった.自然光下では19:30前後より活動が始まり,多くの個体は断続的に活動したが,中には一晩中動き続ける個体がいた.全ての個体は4:30頃までに活動を停止した.しかし,夏眠個体と光誘引個体との間に行動の差違を見い出すことができなかった.神社拝殿の夏眠個体の中で,8月上旬のオオウスヅマカラスヨトウは,大半が光に誘引された.しかし,カラスヨトウ,ツマジロカラスヨトウA.schrenckii,オオシマカラスヨトウは全く誘引されず,多少静止位置を変えるものがいたが,夏眠を継続した.
著者
船越 進太郎
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.59, no.4, pp.301-304, 2008-09-30
参考文献数
5

ライントランセクト法によりカノコガ Amata fortunei fortunei (Orza)の飛翔個体数を2年間にわたり調べた.成虫は曇天時に最も多く飛翔し続いて雨天時に多く飛翔していた.ただし強い雨の日は,ほとんど飛翔せず,よく飛んだのは小雨の時であった.晴れた日の飛翔個体数は,曇天時の半数ほどであった.1化の発生時期は,2年間で差がなかったが,2化の発生時期には差がみられた.発生総個体数は,2004年の1化では79個体,2化で209個体,2005年の1化では224個体,2化で176個体であった.気温と飛翔個体数の間には,24℃までは相関があり,22-24℃の間に,飛翔個体数のピークが見られた.湿度と飛翔個体数の間には,特に相関が認められなかった.以上のことから,東海地方でのカノコガ成虫の発生消長は,年2回,一ヶ月弱の期間であり,飛翔個体数には,大きな変動が見られるようである.また,晴天時より曇天・雨天時の活動が盛んであり,直射日光を好まず,強い光を避けて行動する蛾であると考えられた.
著者
船越 進太郎 山本 輝正
出版者
日本鱗翅学会
雑誌
蝶と蛾 (ISSN:00240974)
巻号頁・発行日
vol.47, no.3, pp.201-208, 1996-09-05

1992年および1993年,6月から10月にかけて,長野県乗鞍高原(東経137°37',北緯36°06',標高1,450m)および石川県白峰村市ノ瀬(東経136°37',北緯36°10',標高830m)の登山センターなどの建物の下でコウモリに食された蛾の翅を集め,同定するとともに前翅長を測定した.乗鞍高原の建物の天井部分はクビワコウモリEptesicus japonensis,ヒメホオヒゲコウモリMyotis ikonnikovi,ウサギコウモリPlecotus auritus,コキクガシラコウモリRhinolophus cornutus,カグヤコウモリMyotis fraterが夜間休憩場所として使用しており,中でもクビワコウモリが多く,時には200頭を数えた.ここでは餌となった8科114種の蛾を同定したが,小型の種が多く,未同定個体も含め前翅長は19.3±6.53(x^^-±S.D.)mmであった.これに対し,市ノ瀬の建物天井部分には主としてキクガシラコウモリRhinolophus ferrumequinumが多く,わずかにカグヤコウモリが含まれていた.ここでは10科42種の蛾を同定したが,ヤママユガ科,スズメガ科などの大型種が多く含まれていた.前翅長は47.3±15.56(x^^-±S.D.)mmで,乗鞍高原のものとは大きな差があった.乗鞍高原で見られるコウモリは小型種が多く(前腕長33-45mm;優占種クビワコウモリ38-43mm),市ノ瀬で見られるコウモリはそれより大型種が多かった(前腕長36-65mm;優占種キクガシラコウモリ56-65mm).昆虫食のコウモリの中でキクガシラコウモリは他の種より大型であり,大型の蛾(前翅長の最大は81.6mmのヤママユ)から小型の蛾までを捕っていた.これに対し,クビワコウモリは小型種であり,より小さな蛾(前翅長の最大は42.4mmのシロシタバ)を捕っていた.キクガシラコウモリは餌を捕まえるとき腿間膜(足の間の膜)を使用することが知られる.そのため,大型種から小型種までさまざまな大きさの餌を効率よく捕っているのかも知れない.また,コウモリの休憩場所で夏眠するAmphipyra属のシマカラスヨトウA.pyramidea,オオウスヅマカラスヨトウA.erebina,ツマジロカラスヨトウA.schrenckiiがコウモリの餌の中に含まれていたが,資料の収集した日時から夏眠が終了して,夏眠場所を離れた個体であると推測された.