著者
横井 弘 菊地 毅光 花木 昭
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1986, no.11, pp.1594-1600, 1986-11-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
45
被引用文献数
2

pH10の水溶液中のトリグリシン(グリシルグリシルグリシン),テトラグリシン,ペンタグリシン,ヘキサグリシン,オクタグリシンの1:1銅(II)錯体は,どれもよく似た状況で,単量体との平衡系として,二量体生成をすることがESR法で明らかとなった。さらに,グリシンアミド,グリシルグリシンアミド,ビウレットの銅(II)錯体もpH12で二量体を生成することがわかった。テトラグリシン錯体について,単量体と二量体のESRシグナル強度比の濃度依存性から,単量体と二量体問の平衡定数(0℃付近)が460mol・dm-3と求まった。また,二量体ESRスペクトルのΔM=2遷移強度の温度依存性から,これら二量体のスピン交換相互作用エネルギーは,ほぼ-1cm-1程度であることが推定できた。観測した二量体ESRスペクトルのすべては計算機シミュレーション法で解析し,平行平衝型二量体の構造パラメーターのr(Cu-Cu距離)とξ(Cu--Cu軸と分子面垂線とのなす角度)を推定した。ゆそれによれば,トリグリシン錯体の二量体(r=3.3Å;ξ=40°)は,結晶内の二量体構造と同一であるゆこと,しかし,ほかの錯体の二量体(r=4.0-4.3Å;ξ ≦15°)は,結晶内のものとは一致せず,配位面を真上近くでたがいに重ね合わせたような二量体構造をもつことがわかった。また,この種の錯体が二量化能をもつためには,分子内に2個以上の脱プロトンしたペプチド(アミド基)窒素原子の配位が必要であり,金属イオンとこれら脱プロトンしたアミド基がπ-電子系を構成し,そのような二つの錯体分子間にはたらくいわゆるπ-π 相互作用が,二量化の主要な駆動力と考えられる。
著者
花木 昭 伊古田 暢夫 本野 和彦 山内 脩
出版者
公益社団法人 日本化学会
雑誌
日本化学会誌(化学と工業化学) (ISSN:03694577)
巻号頁・発行日
vol.1988, no.4, pp.578-584, 1988-04-10 (Released:2011-05-30)
参考文献数
34

2個のロイシン(Leu)残基と,1個のグリシン(Gly)残基をもつトリペプチドジアステレマーの銅(II)錯体生成における立体選択を電位差滴定で,錯体における側鎖の相互作用を円偏光二色(CD)法を用いて研究した。側鎖をもつアミノ酸残基が隣りあうペプチド,Leu-Leu-Gly,Gly-Leu-Leuの錯体の安定度定数は,側鎖の相互配置によって異なる。側鎖がキレート平面の同じ側にくるL,L-錯体の方が側鎖が反対側にあるL,D-(およびD,L-)錯体より安定度(錯体形成の選択性)が高い。Leu-Gly-LeuではL,L-錯体とL,D-(およびD,L-)錯体の安定度定数は等しかった。側鎖の相互作用はCD強度(Δ ε)の相加牲から検討した。側鎖の相互配置の差が錯形成能に影響しないLeu-Gly-Leuでは,L,L-錯体のΔ εはL-Leu-Gly-Gly錯体とGly-Gly-L-Leu錯体のΔ ε の和に等しく,L,D-錯体ではL-Leu-Gly-Gly,Gly-Gly-D-Leu錯体のΔ ε の和に等しかった。その他のペプチドでは,L,L-異性体を配位子とした錯体においてのみ相加性は成立した。Δ ε 相加性の基本条件は錯体の基本骨格(平面性)の保持である。L,D-錯体で相加性が成立しない理由として,側鎖同志,または側鎖と配位水との相互作用による錯体の基本構造のひずみが考えられる。
著者
花木 昭
出版者
The Society of Synthetic Organic Chemistry, Japan
雑誌
有機合成化学協会誌 (ISSN:00379980)
巻号頁・発行日
vol.39, no.11, pp.1002-1014, 1981-11-01 (Released:2009-11-13)
参考文献数
51

Superoxide dismutases, SOD, are enzymes which catalyze the dismutation of superoxide, O-2, and contain iron, manganese or copper-zinc in the active sites. The iron-and manganese-containing SODs occur mainly in prokaryotes and the copper, zinc-SOD in eukaryotes. The primary structure of the enzymes have been determined in the Mn-SODs from E. coli and B. stearothermophilus and in the Cu, Zn-SODs from human and bovine erythrocytes and from baker's yeast. The molecular structural data are available only for the bovine enzyme. The enzyme consists of two identical subunits, each of which contains one Cu (II) and one Zn (II) bridged by an imidazolate anion from the side chain of histidine. The Cu (II) ion is coordinated to four histidine imidazoles and the Zn (II) to three imidazoles and one carboxylate of aspartic acid. The Cu (II) -bridged imidazole bond is dissociated upon reduction of the enzyme. The structure and function of the Cu, Zn-SOD are reviewed from the chemical view-points.