著者
幸田 正典 中島 康裕 宗原 弘幸 苅野 賢司
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

最終年度である今年度は、現地調査は協同的一妻多夫魚カリノクロミス(以下カリノ)とハレム型社会を持つサボリの繁殖について主に調査した。カリノについては、特に雌の果たす役割に焦点をあて、現地での水槽実験も合わせて行った。また、国内では過去の資料を含め、マイクロサテライトを用いた血縁判定、並びに過去の資料の解析及び整理を行い、複数の投稿原稿として準備あるいは公表を行った。カリノは岩の割れ目を繁殖巣として利用する。これまでの野外観察からカリノの雌は、くさび形の形をした巣を利用すること、大型の雌ほどそのような巣を占めていることから、雌は多様な形の巣のうちから、くさび形の巣を好むと考えられた。水槽実験として、くさび形巣と'幅広巣'を雌に選択させたところ,多くの例で雌はくさび形巣を選んだ。このことは亜野外観察の結果と一致する。また野外調査では、産卵の観察事例を増やせた。本調査により、11産卵のうち10例では、雌はくさび形巣の中で大型のα雄が最も奥に入り込めるところに産卵することが確認できた。この産卵場所選択も雌が行っているとみなされる。これにより、雌はα、β雄の父性の操作を行っているとの仮説を立てた。共同繁殖する動物で雌による父性の操作の可能性および重要性が示唆されているが、この仮説が検証されれば、体外受精動物での初めての父性の操作となる。野外調査からサボリに、ヘルパーが存在することが確認された。おそらくこれは血縁ヘルパーと思われ、このタイプの共同繁殖がハレム型の社会を持つ種では初めての事例である。サンプルは国内に持ち帰っており、これらにより親子判定を現在実施している。また、サボリの生魚40個体をいかして国内に持ち帰っており、今後これらを用いて大阪市立大学にて水槽実験を行っていく予定である。