著者
宗原 弘幸 高野 和則 古屋 康則
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:00215090)
巻号頁・発行日
vol.37, no.4, pp.391-394, 1991-02-28 (Released:2010-06-28)
参考文献数
13

交尾型カジカ, イソバテングBlepsias cirrhosusの配偶子がいつ, どこで会合し受精開始するかを明らかにした.排卵した雌の卵巣腔から卵と卵巣腔液を取り出し, 一部の卵を海水または卵巣腔液に浸し, 24時間後にそれぞれの胚発生状態を観察した.その結果, 海水中の卵のほとんどは胚発生を開始していたが, 卵巣腔液中の卵は全く発生しなかった.しかし, これらの未変化の卵を海水に移すと, その多くが胚発生を開始した.また, 海水に浸す前の卵を光顕観察した結果, 多数の精子が卵門管内に侵入しているものの, 卵細胞質内への貫入は認められず.卵も第二減数分裂の中期にとどまっていることが確認された.以上の結果から, 本種では体内で両配偶子の会合は終えているが, 受精は産卵後海水中で開始することが明らかとなった.
著者
宗原 弘幸
出版者
北海道大学
雑誌
奨励研究(A)
巻号頁・発行日
1993

行動観察、受精生理および遺伝学的手法により、本課題を遂行した。その結果、ヨコスジカジカは産卵後に雄が卵に放精する、非交尾種であることが判明した。しかし、精子の運動活性は海水中よりも体液と等張でNa^+存在下で最も高く、特に卵巣腔液中では極めて長期間活動する。媒精、受精は産卵時に放出される卵巣腔液中であることから、非交尾カジカはすでに交尾への準備が進んでいることが示唆された。また、卵巣腔液中で受精可能な点は体内配偶子会合型の交尾種と相違した。その要因は卵巣腔液中のCa^<++>濃度の違いで、カジカ類では交尾習性の進化の際に、卵巣腔液中のCa^<++>濃度を下げる生理的メカニズムの変化があったことが示唆された。卵巣腔液の役割として精子の貯留や活性保持の他に、ケムシカジカでは交尾の際の精子受け渡しの媒介となることが水槽内観察より明らかになった。本種の交尾行動は、一連の求愛儀式を経た後、雌の生殖口から管が出され、さらにそこからゼリー状卵巣腔液が放出され、そのゼリーの向かって放精されるというもので、精子が絡みついてゼリーの一部が再び雌の卵巣内に収納されることで交尾が完了する。ペニスがないカジカも交尾をするという、本行動観察結果は、カジカ科魚類にはかなり交尾をする種がいることを示唆した。交尾行動は繁殖生態の上で、父性のあいまいさをもたらす。特に雄が卵を守るニジカジカの場合、重要な問題である。そこでDNAフィンガープリントで、保護雄と卵の父性およびいつ交尾した雄が有利かを調べた。その結果、繁殖期の終期では雄と卵には父性がないこと、および最初に交尾した雄は多くの子を残せることが分かった。本研究結果は、卵の保護は雄にとって直接的な利益が無いことが示され、卵保護の進化に父性の信頼性は必ずしも平行しないこと場合があることが分かった。最後に、配偶子会合型、交尾種の地理的出現を調査する準備段階として、アラスカ産のカジカ類の繁殖期を把握する目的で、キナイ半島リサレクション湾の仔稚魚サンプルを調べ、春季に10種のカジカ科魚類が出現することが分かった。
著者
東 大聖 宗原 弘幸
出版者
北海道大学大学院水産科学研究院
雑誌
北海道大学水産科学研究彙報 (ISSN:24353353)
巻号頁・発行日
vol.71, no.2, pp.51-67, 2021-12-23

We conducted SCUBA-based surveys of the larval and juvenile fish fauna in reef and seaweed areas in the inshore region of Usujiri, Hakodate, along the Pacific coast of southern Hokkaido, Japan, from 2019 to 2020. A total of 100 species in 10 orders and 44 families were identified based on morphological observations and DNA barcoding analyses of the cytochrome c oxidase subunit I (COI) gene. Of these species, two specimens of the labrid, Pseudolabrus sieboldi Mabuchi and Nakabo, 1997, one specimen of the cottid, Cottus hangiongensis Mori, 1930, two specimens of the blennid, Petroscirtes breviceps (Valenciennes, 1836), and one specimen of the gobiid, Pterogobius zacalles Jordan and Snyder, 1901, represent the first records of these four species in the study area. In addition, three specimens of the Stichaeid, Lumpenopsis pavlenkoi Soldatov, 1916, represent the first records captured during juvenile stages of this species, and one specimen of the pleuronectid, Lepidopsetta mochigarei (Snyder, 1911) represent the first juvenile captured in Usujiri of these species. The fish list is also added in this report.
著者
宗原 弘幸 Paul Judy M. Paul Augustus J.
出版者
The Ichthyological Society of Japan
雑誌
魚類学雑誌 (ISSN:18847374)
巻号頁・発行日
vol.41, no.1, pp.73-75, 1994

アラスカ湾北部, 氷河フィヨルド地帯, リザレクション湾において, 春季のカサゴ目仔稚魚の出現状況を調査した.標本採集はNIOTトロールを用い, 湾内3地点において1991年4月2日から7月9日まで, ほぼ毎週行なった.42回の曳網でカジカ科10, トクビレ科1, クサウオ科1, およびギンダラ, 合計13タイプ75個体のカサゴ目仔稚魚が採集された.これらのうち, ギンダラを除く12種は, 沈性粘着卵を産むこと, および湾内の流速などから判断して, 湾内で繁殖しているものと考えられた.調査期間中の各タイプの平均分布密度0.28-8.96/1000m<SUP>3</SUP>は, 同様の方法で同時期に採集されるスケトウダラおよびニシンの数値と比べて極端に低く, カサゴ目仔稚魚は本調査海域における春季のプランクトン消費者としての役割は小さいとみなされた.しかし, 氷河の影響がないアラスカ湾南東部のオーク湾およびアラスカ湾西部のコディアック島周辺では, カサゴ目魚類, 特にカジカ科魚類は主要な出現仔稚魚となっており, これらのことから, 低温低塩分濃度, 大量にシルトを含んでいることなどで特徴づけられる氷河フィヨルド地帯は, 北太平洋東岸に生息するカサゴ目魚類にとって, 好適な棲み場ではないことが示唆された.
著者
幸田 正典 中島 康裕 宗原 弘幸 苅野 賢司
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2002

最終年度である今年度は、現地調査は協同的一妻多夫魚カリノクロミス(以下カリノ)とハレム型社会を持つサボリの繁殖について主に調査した。カリノについては、特に雌の果たす役割に焦点をあて、現地での水槽実験も合わせて行った。また、国内では過去の資料を含め、マイクロサテライトを用いた血縁判定、並びに過去の資料の解析及び整理を行い、複数の投稿原稿として準備あるいは公表を行った。カリノは岩の割れ目を繁殖巣として利用する。これまでの野外観察からカリノの雌は、くさび形の形をした巣を利用すること、大型の雌ほどそのような巣を占めていることから、雌は多様な形の巣のうちから、くさび形の巣を好むと考えられた。水槽実験として、くさび形巣と'幅広巣'を雌に選択させたところ,多くの例で雌はくさび形巣を選んだ。このことは亜野外観察の結果と一致する。また野外調査では、産卵の観察事例を増やせた。本調査により、11産卵のうち10例では、雌はくさび形巣の中で大型のα雄が最も奥に入り込めるところに産卵することが確認できた。この産卵場所選択も雌が行っているとみなされる。これにより、雌はα、β雄の父性の操作を行っているとの仮説を立てた。共同繁殖する動物で雌による父性の操作の可能性および重要性が示唆されているが、この仮説が検証されれば、体外受精動物での初めての父性の操作となる。野外調査からサボリに、ヘルパーが存在することが確認された。おそらくこれは血縁ヘルパーと思われ、このタイプの共同繁殖がハレム型の社会を持つ種では初めての事例である。サンプルは国内に持ち帰っており、これらにより親子判定を現在実施している。また、サボリの生魚40個体をいかして国内に持ち帰っており、今後これらを用いて大阪市立大学にて水槽実験を行っていく予定である。
著者
幸田 正典 宗原 弘幸 渡辺 勝敏
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2004

協同的一妻多夫魚(J.transcriptus)を用い,(1)体サイズが婚姻形態形成にもたらす影響2)トリオ内でのαとβ雄での精子競争の実態,(3)協同繁殖トリオでの雌の父性の操作,(4)さらに雄による自分の子供の父性の認知様式の,主に4点について飼育実験を行った。特に本研究(3),(4)について集中的に検証研究を実施した。(3)については,ペアとトリオでの比較から,効果的に実験成果として示す事ができた。まず巣場所選択をみると,ペアの場合は幅広巣とくさび巣ともに選好性はないが,トリオの場合雌は明らかに楔巣を好む。これにより,卵の受精は大型のα雄と小型のβ雄の両雄がクラッチを受精させている。この際,巣の奥の狭い場所に産む事でβ雄が,手前の幅広い場所に産むことで,大型のα雄がより多く受精に成功している。すなわち,雌は巣の奥あるいは手前にと産卵場所を変更する事により,二雄の受精率を操作する事ができる。その際,β雄に受精させる事により,雌は自分自身の保護量を減らしていると考えられる。このような,雌による受精の操作ははじめて検証されたものであり,また魚類での雌の父性操作としてもはじめての例である。(4)のために,我々は,摺ガラスで作った半透明巣を用意した。この巣を使うことにより巣の内部での雌雄の関係をビデオに納めることができる。結果はまだ流動的ではあるが,今の所以下の点が示唆されている。β雄は飛び込み放精をするが,その飛び込み頻度と父性に優位な相関があり,β雄は飛び込み回数で父性を評価している可能性がある。逆にα雄は飛び込みを阻止する頻度と父性が相関しているようであり,これにより雄は父性を判定している可能性がある。また今後雌はこれらの雄の父性の指標を操作し,より多くの保護を雄からひき出している可能性も有る。このような視点での研究はまったくなく,これら一連の経緯は今後さらなる実験による検証が必要である。
著者
幸田 正典 中嶋 康裕 宗原 弘幸 狩野 賢司 渡辺 勝敏
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2005

最終年度には,安房田,大田,守田の三名を調査地に3ヶ月間派遣し,それぞれ,共同繁殖種オルナータス,雄の繁殖多型種ビッタータス,ランプロロギニ族全体の精子競争の問題の解明にあたった。まず,今回の調査でオルナータスは,おそらく脊椎動物の中でも最も多様な婚姻形態をとる種であることがほぼ明らかになってきた。一夫一妻,一夫多妻,共同的一妻多夫,古典的一妻多夫,多夫多妻とこれまで知られるありとあらゆる婚姻形態が確認された。大きな個体が雄だけでなく,雌にも存在する事がカワスズメ科魚類のなかでも最も婚姻形態が多様であることの要因であると言える。雌が雄より優位に振舞える点そして社会の複雑性の点で,鳥類の繁殖では,ドングリキツツキの共同繁殖に類似している。精子競争や婚姻形態の成立過程だけではなく,共同繁殖での操作,雌雄の対立,相互利他主義という極めて興味深い問題の実験材料として優れた対象動物であることが明らかとなった。今後様々な実験系を組むことで,実証研究材料として研究の発展が期待される。また,カリノクロミスについては,大型雌が存在しないため,鳥類の共同繁殖としてはヨーロッパカヤクグリ型と言う事ができる。ここでは最優位個体は雄である。このように種によるちがいの輪郭が明らかになってきた。ビッタータスでは,雄の代替繁殖戦術は条件次第で大きく変わりうる事,大きな可変性を持つ事が明らかになった。また,パイレーツ雄やスニーカー雄の存在は,共同繁殖のα雄戦術,β雄戦術の基本型とも見なしうる。本族の分子系統解析から,Telmatochromis属とJulidochromis,Chalinochromis属は類縁関係が近い事がわかってきた。雄の代替繁殖寄生戦術と共同繁殖におけるα,β雄の起源は相同的である可能性が高いことも示唆された。
著者
幸田 正典 宗原 弘幸
出版者
大阪市立大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

平成13-15年度、及び16年殿一部の期間で、協同繁殖魚のジュリドクロミス・トランスクリプタス、およびカリノクロミスを用い、実験条件下での雌雄の繁殖戦術について複数の実験を行うことができた。まず、協同繁殖条件下で、なわばり雄・ヘルパー雄の精子競争が引き起こされることが、ペアで飼育した雄のGSIとの比較から明らかにされた。このことは本種の雄が、置かれたでの精子競争の程度に応じて、精巣への投資をダイナミックに対応させていることを示している。雌による雄の受精への操作についても、繁殖飼育実験からほぼ実証することができた。この場合もペア繁殖の場合となわばり雄・ヘルパー雄そして雌の鳥を出繁殖させた場合の雌の産の違いから検討されている。二匹の雄がいる場合、雌は卵塊を有意に幅広く産卵させた。DNA判定により巣のより奥に産卵された卵は小型雄が、手前の卵は大型のなわばり雄が受精させることが明らかになった。このことは、雌が産卵場所をコントロールすることで2雄の父性を操作しうることを強く示唆している。また、小型雄の受精率が高い場合、同雄による保護の頻度も高くなることも示唆され、雌の父性操作が雄の保護と関連していることも裏付けている。同属のオルナータスでは野外で一妻多夫の他、一夫一妻やハレムも形成されることが知られており、その主な要因は個体のサイズであることが考えられている。トランスクリプタスの雄雌をともに3個体用いた大型水槽での飼育実験から、雌雄にかかわらず、個体の大きさが婚姻形態の決定に大きな要因となることが示された。すなわち、雌雄ともに似たサイズでは一夫一妻が、一匹の雄が大きな場合は全ての場合で一夫多妻、一雌が大きい場合は一妻多夫の傾向になることが明らかにされ、個体のサイズが婚姻形態形成の上での重要性が、明瞭に示された。カリノクロミスでは、野外観察から雌がくさび形の巣を好むことが示唆されていた。タンガニイカ湖の調査個体群から持ち帰ったカリノクロミスを水槽で飼育し、雌の巣の選択実験を行ったところ、受精の操作が可能である「くさび形」の巣を選択することが明らかにされた。今後カリノクロミスでの雌による雄の父性の操作が成されるのかどうか、といった研究を継続する必要があるが、この結果は、非血縁のヘルパーを伴う協同繁殖において、雌による父性操作の重要性を物語っているといえる。
著者
宗原 弘幸 古屋 康則 早川 洋一 後藤 晃 後藤 晃
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2007

交尾は、肺呼吸、四足歩行と並んで、ヒトを含む脊椎動物が陸圏に進出する際の前適応である。交尾の進化過程を再現するため、近縁種に交尾種と非交尾種を含んだカジカ上科魚類をモデルとして、雄間の競争、特に精子競争の影響に焦点を当てて、実験的に調査した。行動形質の評価指標として繁殖成功度に注目した。その結果、射出精子量、交尾の順番が、繁殖成功度に影響し、先にたくさんの精子を雌に渡すという行為が交尾の進化動因であることが示唆された