著者
苗川 博史
出版者
日本緬羊研究会
雑誌
日本緬羊研究会誌 (ISSN:03891305)
巻号頁・発行日
vol.2008, no.45, pp.8-12, 2008-12-20 (Released:2011-04-22)
参考文献数
10

モンゴル国アルシャンツ・ブルト地区の夏営地における母子羊の音声構造について解析した。母羊においては, 発声タイプ/ηnaeee/の発声時間は/ηηηη/より0.7秒長く, /ηaee/より0.5秒長く, その差は有意であった (P<0.05) 。また発声タイプ/ηηηη/の基本周波数は, /ηnaeee/より120ヘルツ高く, /ηaee/は, /ηnaeee/より18ヘルツ高く, その差は有意であった (P<0.05) 。さらに, 発声タイプ/ηηηη/の音圧は, /ηnaeee/より6デシベル高く, /ηnaeee/は/ηaee/のそれよりも1デシベル高く, その差は有意であった (P<0.05) 。子羊においては, 発声タイプ/ηneeee/の発声時間は, /ηeee/より0.5秒長く, /ηηηη/より0.4秒長く, その差は有意であった (P<0.05) 。また発声タイプ/ηηηη/の基本周波数は, /ηeee/よりも170ヘルツ高く, その差は有意であった (P<0.05) 。子羊における発声時間の発声末型には, 発声タイプ間に有意差があった (χ2=10.8, P<0.05) 。母子羊は音声表記によって発声時間, 基本周波数, 音圧が異なり, 発声状況や行動により音声を使い分けていることが示唆された。
著者
苗川 博史
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.241-245, 2004-05-25
参考文献数
10

本研究は,モンゴル遊牧体系における二地域の夏営地のヒツジ母子間100組を対象に,音節の組み合わせによる発声タイプと行動型を,母子間距離,母子が遭遇するまでの時間,授乳および吸乳時間との関係について検討した.音節の組み合わせによる母子間の相互作用については,子ヒツジがイニシアチブを有した8タイプと母ヒツジがイニシアチブを有した5タイプに分類された.母子ヒツジともに口の開および閉による発声の割合は,約9 : 1と開いた方が多く,また,母ヒツジが双方向(75%),子ヒツジは一方向(46%)と発声なし(31%)を示す特徴があった.子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ8(母子双方に発声なし)は,母子間距離と母子が遭遇するまでの時間との間に有意な正の相関が,また吸乳時間と母子間距離の間には有意な負の相関があり,母子間距離によって母子が遭遇するまでの時間,吸乳時間に関連性があることを示唆した.子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ5(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答なし)は,食草移動時に71.4%,休息行動時に28.6%出現した.この発声タイプ5は,発声タイプ2(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnn/)との間に,母子が遭遇するまでの時間および母子間距離において有意差があり,母子が遭遇するまでの時間,および母子間距離によって発声タイプが異なることが示唆された.子ヒツジの発声タイプ8は,食草移動時に28.6%,休息行動時に71.4%出現し,食草移動時間および休息時間の割合が発声タイプ5と対称的であった.この発声タイプ8は,子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ1(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnae/),発声タイプ2(子ヒツジの発声/eee/と母ヒツジの応答/nnn/),発声タイプ3(子ヒツジの発声/nee/と母ヒツジの応答/nnae/)との間に母子が遭遇するまでの時間および母子間距離において有意差が見られ,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離によって発声タイプが異なることが示唆された.母ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプIII(母ヒツジの発声/nnae/と子ヒツジの応答/nee/)は,子ヒツジがイニシアチブを有した発声タイプ8との間に,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離において有意差が認められ,母子が遭遇するまでの時間,母子間距離によって発声のタイプが異なることを示唆した.今回の結果から,母子間距離,母子が遭遇するまでの時間,授乳および吸乳時間は,発声時における音節の組み合わせによるタイプと行動型によってそれぞれ異なることが示唆された.
著者
苗川 博史
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.75, no.2, pp.228-239, 2004-05-25
参考文献数
24
被引用文献数
1 1

14頭もしくは20頭の小群内において,生後3週齢までのヒツジ母子5組の音声コミュニケーションにおける母子間の反応(以下相互作用)を音声表記と情報量に基づいて検討し,母子間の接近行動の経日的推移について解析した.音声表記については,調音作用の観点から口の開閉によって構成される母ヒツジ/nnn/と/nae/と/nnae/および子ヒツジ/nnn/と/eee/と/nee/を発声タイプとして表した.相互作用については,母子それぞれ3タイプの発声と,これらに対する反応を8タイプに分類した24通りのダイアド(母子いずれかの発声とその後に続く一方または双方の行動を1組の完了行動とする)ならびに,それらの情報量について解析した.また,接近行動については,発声の有無に分けて母子ペア毎に経日的に解析した.その結果,母子間の相互作用は,情報伝達機能上,口を開けた発声が主導を占め,発声後は相手を視認もしくは注視し,その後の行動に移行する反応系で構成されていた.その際には,口の開閉のタイプによって生起する反応のしかたに個体差が見られ,発声のしかたによって応答が異なることが示された.また,いずれの発声においても母子ヒツジ間に共有される情報量は0ビットよりも大きく,母子ヒツジ双方に情報の共有があったことが示された.音声表記の結果については,発声タイプによって周波数と持続時間に違いが認められ,それぞれの発声構造の特徴を示すことができた.すなわち,母ヒツジの場合は,口を開けた/nae//nnae/タイプが,口を閉じた/nnn/タイプよりも周波数が50ヘルツ高く,発声時間も0.1秒長かった.子ヒツジの場合は,口を開けた/eee/と/nee/タイプが,口を閉じた/nnn/タイプよりも周波数が50ヘルツ高いものの,発声時間は0.1&sim;0.2秒短かった.発声に基づく接近のイニシアチブは,生後3週齢までは母ヒツジ主導型であったが,発声によらない接近のイニシアチブの割合については,子ヒツジの方が大きい傾向にあった.
著者
安部 直重 高崎 宏寿 苗川 博史 佐藤 衆介 菅原 和夫
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.3, pp.449-456, 2002-08-25
参考文献数
24
被引用文献数
2 1

本研究は150日齢でのマネキンに対する模擬闘争行動を発生した個体の特徴を行動学的および生理学的に明らかにすることを目的とした. 交雑種雄子牛10頭を供試し, ヒトの代替として設置したマネキンに対して模擬闘争を発生した6頭 (発生群) と発生がなかった4頭 (非発生群) を通常飼育下, 新奇環境下およびストレス刺激下での行動的・生理的反応に関して比較した. 通常飼育管理下では, 維持行動および常同行動に関して差はなかったが, 発生群の社会行動は多く, とくに闘争行動の6時間あたりの発生回数では発生群の3.3回に対し非発生群は1.6回, 模擬闘争行動では発生群の7.8回に対し非発生群では4.3回と有意に多かった (P<0.05). 新奇環境としてマネキンを設置したオープンフィールド (OF) 内における行動では, 発生群はOF全体を平均的に通過するのに対し非発生群はマネキン設置付近を有意に避けた (P<0.001). また, OFを囲う壁への探査行動は非発生群で200回に対し, 発生群では101回と非発生群が有意に多発し (P<0.05), マネキンに対する探査時間は発生群で109秒に対し非発生群では8秒と発生群が有意に長かった (P<0.05). 驚愕刺激前後の心拍数の変動率は, 発生群では118%に対し非発生群は115%と発生群が高い傾向にあった (P=0.10). 拘束前後の血清コルチゾール値の変動率では発生群の28%に対し非発生群では192%と非発生群が有意に大きかった (P<0.05). 血清テストステロン値は発生群の8.33ng/m<i>l</i> に対し非発生群は4.11ng/m<i>l</i> と発生群が有意に高かった (P<0.05). これらの結果から模擬闘争行動発生個体および非発生個体は, 積極型行動タイプと消極型行動タイプというストレス研究での類型化と一致する可能性が示唆された.