著者
石川 圭介 江口 祐輔 植竹 勝治 田中 智夫
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.10, pp.J594-J604, 2001-10-25
被引用文献数
1

本研究では,イノシシへの嫌悪刺激としてイヌを利用することが有効か否かを検証するため,イヌとイノシシの対面テストを行った.供試犬には1頭の警察犬と4頭の家庭犬を用い,供試猪には10ヵ月間飼育管理された約16カ月齢の個体6頭を用いた.対面は供試犬および供試猪を実験施設に馴致した後,1日3回,8:00~9:00,12:00~13:00,16:00~17:00の時間帯に行い,各供試犬を2日間で6頭すべての供試猪に対面させた,供試犬は供試猪との対面が始まると,対面前と比較して有意に供試猪の方に視線を向け(P<0.01),供試猪に向かって吠えて(P<0.05),警戒を示した.また,吠えの頻度には個体によって差がみられた(P<0.01).供試犬の供試猪に対する注視と吠えは,供試猪が走って逃げる直前の3秒に有意に多くみられ(それぞれ,P<0.05,P<0.01),この二つの行動が供試猪にとって嫌悪刺激となっていることが示唆された.本研究の結果,イノシシに対して回避反応を引き起こさせるイヌの行動は,視線を対象に向ける,対象に向かって発声するなどであったが,これらの行動はイヌによって個体差が大きかった.このことから,イヌをイノシシに対する嫌悪刺激として効果的に用いるためには,それに適したイヌの行動を見極め,行動に基づいて個体を選択する必要があると考えられた.
著者
沖 博憲 佐々木 義之
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.2, pp.120-124, 1996-02-25
被引用文献数
3

サラブレッド種の走行タイムを競走能力の指標として取り上げ,個体モデルのBLUP法によって育種価を推定した後,遺伝的趨勢の検討を行なった.1975年から1993年の日本中央競馬会(JRA)の競走成績から1600mの芝馬場(芝)とダート馬場(ダート)のデータを用いた.各馬の育種価は,レース,性,年齢,騎手および負担重量を母数効果として取り込んだ個体モデルのBLUP法により,MTDFREMLプログラム(1993)を用いて予測し,遺伝的趨勢は当該年に生まれた個体の予測育種価の平均値から推定した.また,父馬と母馬の内•外国産地別による4組の組み合わせ別に遺伝的趨勢を推定した.その結果,芝•ダートとも走行タイムは,負の(速くなる)遺伝的趨勢が認められ,生年に対する回帰係数はそれぞれ-0.0170秒,-0.0084秒であった.その差は高度に有意であった(P<0.001).また,父馬母馬の産地別の遺伝的趨勢は,芝において父外国産と母外国産の産駒の遺伝的趨勢が最もい傾向が認められた.このことから近年優秀な種雄馬や繁殖母馬が輸入され,日本のサラブレッド種の改良に寄与していることが示唆される.
著者
加藤 大樹 高橋 絢子 松本 大和 笹崎 晋史 高橋 絢子 松本 大和 野村 こう 高橋 幸水 天野 卓 山本 義雄 並河 鷹夫 万年 英之
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.2, pp.149-155, 2013-05-25
参考文献数
17

バングラデシュ在来ヤギ53個体とフィリピン在来ヤギ30個体におけるmtDNA D-loop HVI領域の塩基配列を決定し,DNAデータバンクにあるアジア在来ヤギの情報を加え,A,Bハプログループの起源について考察を行った.バングラデシュとフィリピン在来ヤギではそれぞれ25および5ハプロタイプに分類され,AおよびBハプログループから構成されていた.両国の在来ヤギのBハプログループにおける塩基置換率は,それぞれ0.0009と0.0006であり,極めて低い多様性を示した.また家畜化起源を推測するため,中東からの地理的距離と塩基置換率の相関を調べた.Aハプログループにおける順位相関係数は<I>r</I>=-0.7200であり有意な負の相関を示した(<I>p</I>=0.0469).一方,Bハプログループにおいては有意な相関を得られなかった(<I>p</I>=0.7782).この結果は,ヤギのAハプログループの起源が中東である仮説を支持していたが,Bハプログループの起源に関しては不明確であった.
著者
賀来 康一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.1, pp.61-81, 1997-01-25
被引用文献数
15 2

米国シカゴ•マーカンタイル取引所(以下CME)に上場された肉牛先物取引による,肉牛生産者•牛肉処理業者の価格リスク管理の実証分析を実施した.(1) 1984年1月4日から1994年12月31日までの,毎日の価格データにより,CMEに上場された,Live Cattle(生牛),Feeder Cattle(肥育素牛),Live Hog(生豚),Frozen Pork Bellies(冷凍豚バラ肉)相互の関係を調べた.期間11年間を通算した相関係数の高い組み合わせは,Live CattleとFeeder Cattleの0.89であり,Live HogとFrozen Pork Belliesの0.57であった.しかし,1年毎に調べると,全ての組み合わせが不安定であった.(2) 1984年から1993年までの週間データを使用して,米国の肉牛と牛肉60種類に関し,現物価格の変動の大きさとbasis(ベーシス)の価格変動の大きさを比較した.Live Cattle当限価格との相関が高いほど,現物価格の標準偏差は,basisの標準偏差よりも大きかった.当限価格との相関係数0.22以下の3種類の内臓肉を除いた残り57種類の場合,現物価格の価格変動リスクをbasisの価格変動リスクへ移転した方がリスクが小さくなった.(3) 米国商品先物取引委員会(CFTC)の報告書に基づき,米国の肉牛先物市場の主たる参加者を分類した.米国CMEの肉牛先物市場は,投機の場というよりもヘッジの場としての性格が強く,米国の肉牛生産者として大きな役割を果たしている寡占化したパッカーと大規模化した肥育業者の,価格変動リスクをヘッジする場として活用されている.(4) 1990年1月2日から1995年10月11日までの,肉牛現物と当限価格との相関係数を計算した.全期間を通じた相関係数は0.94と高く,1年毎の相関係数も各々高かった.期間中の変動係数を比較すると,現物価格の変動が最も激しく,当限価格の変動は現物価格よりも小さく,期先価格の変動は最も小さかった.1990年から1995年10月11日迄,肉牛先物価格は現物価格に対して価格平準化機能を果たしていた.(5) 東京穀物商品取引所は,オーストラリア産グラスフェッド牛肉の,先物市場への上場を研究している.そこで,日本における牛肉先物取引の可能性を検討した.
著者
安部 直重 広岡 博之 高崎 宏寿 久保田 義正
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.73, no.4, pp.515-520, 2002-11-25
参考文献数
22
被引用文献数
3 2

東北, 関東および東海地方における8県, 422戸の酪農家で飼育されている1,535頭の乳用雌牛 (ホルスタイン種) を対象とした搾乳気質についてのアンケート調査結果を解析した. 調査内容は, 対象牛の搾乳気質, 産次, 牛群内での社会的優位度, 繋留時間, 繋留方法, 飼養規模, 種雄牛で, 各項目について酪農家の回答を求めた. 搾乳気質評価は, 1 : 非常におとなしい, 2 : おとなしい, 3 : やや神経質, 4 : 神経質, 5 : 非常に神経質, の5段階として飼育者自身に評価を依頼した. 気質評価1と2にランクされ, 搾乳作業に支障がないと思われたウシは全体の63%であったが, ランク3のやや神経質と評価されたウシは27%, ランク4および5に評価され搾乳作業にやや支障があると思われるウシは9%存在した. 全調査牛の平均搾乳気質評点は2.31であった. 搾乳気質を従属変数とし, その他の項目を独立変数として最小2乗分散分析を行った結果, 産次 (P<0.03), 社会的順位 (P<0.0001), および種雄牛 (P<0.0001) において有意な効果が示されたが, 繋留時間 (P<0.13) および繋留方法 (P<0.22) の効果は有意ではなく比較的小さかった. また酪農家の飼養規模と搾乳気質の間には関連性は認められなかった. 以上の結果より, 本試験における対象牛では, 特定種雄牛を父に持ち, 経産牛でしかも社会的に中庸で繋留時間が短くフリーストール下で飼養されたウシはおとなしく搾乳される傾向のあることが示唆された.
著者
佐藤 雅彦 中村 豊郎 沼田 正寛 桑原 京子 本間 清一 佐藤 朗好 藤巻 正生
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.274-282, 1995-03-25
参考文献数
9
被引用文献数
1 1

和牛がなぜおいしいかを解明する一助のために,銘柄牛とされる5種類の和牛の香気および呈味成分について検討した.理化学的分析の結果は以下のとおりである.<br>(1) 赤肉部の分析では,ペプチドの分子量分布,ヒスチジン関連ジペプチドおよび核酸関連物質に銘柄による顕著な差は認められなかった.全アミノ酸量およびグルタミンは飛騨牛で多く,松阪牛で少なかった.<br>(2) 脂質の分析では,いずれの銘柄牛もほとんどHPLCにおける保持時間(Rt)55分以降にピークが存在し,そのピークパターンは類似していた.脂質の融点は,神戸牛,米沢牛および松阪牛で低く,前沢牛および飛騨牛で高かった.<br>(3) 加熱香気分析では,加熱後の牛肉試料中の脂質含量に差はないが,回収された香気画分の量,香気画分中の窒素化合物において前沢牛が多く,香ばしいことが予想された.また,官能基別分類では,酸類,アルコール類,アルデヒド類,ケトン類に銘柄による相違が認められ,これらは脂質に由来する化合物の差が現れていると考えられた.
著者
賀来 康一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.10, pp.977-982, 1997-10-25
参考文献数
5
被引用文献数
10 2

鶏肉国内流通が国産ブロイラー正肉(もも肉とむね肉)価格(以下,価格)形成に及ぼす影響を検討した.'73年~'94年の,国内流通鶏肉に関し,流通形態別国産鶏肉と輸入鶏肉の内訳•総流通量•構成比率の変化を計算した.'88年~'94年の,価格の年間平均値と価格差を計算した.鶏肉輸入増が,価格へ及ぼす影響を検討した.(1)'87年~'94年の,国産鶏肉流通量減少の理由は,鶏肉輸入増である(P<0.01).(2)'73年~'94年に,国内流通に占める国産鶏肉屠体•中ぬき,解体品,輸入鶏肉の比率は,59.3,37.3,3.4%から8.9,59.7,31.4%へ変化した.(3)'88年から'94年に,もも肉価格は上昇,むね肉価格は下落し,価格差は拡大した.(4)価格差拡大の原因は,鶏肉輸入増(P<0.01),主に正肉の輸入増(P<0.01),タイと中国からの輸入増(P<0.05)であった.(5)鶏肉輸入増は,国産ブロイラーむね肉価格への影響が大きい.
著者
土肥 宏志 山田 明央 圓通 茂喜 福川 胎一郎
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.5, pp.474-480, 1997-05-25
被引用文献数
3

オーチャードグラス(Dactylis glomerata L. cv. Akimidori),ペレニアルグラス(Lolium perenne L., CV. Friend),トールフェスク(Festuca arundinacea Schreb. cv. Lubrette)トメドーフェスク(Festuca pratensis L. cv. Tolnosakae)のエーテル抽出物から,コールドとラップ法を用い揮発性の化学物質を捕集した.その揮発性物質について,ガスクロマトグラフとガスクロマトグラフー質量分析計を用い分析を行った.その結果,緑の葉の特有なにおいを示し,また,広く植物界に存在することが知られている,シス-3-ヘキセノール(青葉アルコール)とトランス-2-ヘキセナール(青葉アルデヒド)が調べたどの牧草においても多量に検出された.そこで,この青葉を示すにおい物質を乾草に3段階の異なる濃度(50μg,5mgと100mg)で添加し,ヤギの採食に及ぼす影響を調べた.シス-3-ヘキセノールを100mgと5mgを添加した乾草に対するヤギの採食は,無添加の乾草に対する採食に比べ有意に抑制され,50μgの添加では有意でにはないが採食が抑制された.しかし,トランス-2-ヘキセナールは,どの濃度においても採食に影響を示さなかった.これらの結果により,草食家畜の採食する牧草に念まれている,青葉特有のにおいを示すシス-3-ヘキセノールが,ヤギの採食行動を抑制する作用のあることが示唆された.
著者
市川 意子 市川 忠雄 溝本 朋子
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.9, pp.780-786, 1996-09-25
参考文献数
11
被引用文献数
2 2

限局した一地方で得られたウシ乳房炎から分離した黄色ブドウ球菌の毒素産生性パターンと,同じ地域の病院患者から得られた黄色ブドウ球菌が同じパターンをもっているかどうかを検討し,地域的に同じパターンの黄色ブドウ球菌がウシとヒトとの感染症に分布している可能性をみた.用いた黄色ブドウ球菌は,1990年10月から1993年9月までの間に千葉県館山市付近における132の酪農家のウシ乳房炎乳から分離した290株と,1992年11月から1993年3月の間に,病院患者から分離した131株である.その結果,1) ウシ乳房炎乳からの分離株では,コアグラーゼVI型が最も多く,毒素は57.9が産生していてエンテロトキシン(SEA~D)が51.7%,毒素性ショック症候群毒素-1(TSST-1)が31.7%を占めていた.エンテロトキシン産生株中でSECが47.3%と最も多かった.2) ヒト臨床分離株では,コアグラーゼはII型が最も多く,ウシ株に多かったVI型はなかった.毒素は73.3%が産生していてエンテロトキシンが68.7%,TSST-1が45.0%を占めていた.エンテロトキシン産生株中でSECが54.4%と最も多かった.3) コアグラーゼ型と毒素産生の組合せで最も多かった菌株は,ウシではVI型,SEC,TSST-1の組合せで全体の19.3%,ヒトではII型,SEC,TSST-1の組合せが全体の36.6%であった.4) 卵黄反応は,ウシ株およびヒト株でそれぞれ68.5%および96.2%の陽性割合であった.前者ではVI型,SEC,TSST-1株の97.8%が陰性であったのに対して,後者ではII型,SEC,TSST-1株の95.8%が陽性であった.5) 同じ地域におけるヒト臨床分離株とウシ乳房炎からの分離株との間に,毒素産生プロフィールの共通性は認められなかった.
著者
渡辺 伸也
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.1, 2010-02-25

体細胞クローン牛由来畜産物の安全性確認は,全国畜産場所長会の「畜産技術開発推進に関する提案」や地域の畜産推進会議の要望事項として,ここ数年来,独立行政法人農業・食品産業技術総合研究機構畜産草地研究所に寄せられてきた重要な要望事項のひとつであった.畜産草地研究所では,全国の関係機関の協力を得,体細胞クローン牛およびその後代牛の健全性や生産物性状の調査を進め,2008(平成20)年3月,「体細胞クローン牛・後代牛の健全性ならびに生産物性状に関する国内調査報告書」を取りまとめるなど,その要望に応えるよう務めてきた.<BR>食品安全委員会は,この国内調査報告書をはじめとした国内外の参考資料に基づく慎重な審査ならびにリスクコミュニケーションやパブリックコメントを実施し,新開発食品評価書「体細胞クローン技術を用いて産出された牛および豚ならびにそれらの後代に由来する食品」を公表した(2009(平成21)年6月25日).これを受けた農林水産省の通達(同年8月26日)の内容は,実質的に1999(平成11)年11月に出された体細胞クローン牛の出荷自粛要請の継続であった.<BR>このような情勢を受け,今回の問題別研究会では,「体細胞クローン技術の取り扱いと利用方向」というテーマを設定し,体細胞クローン牛豚およびその後代に関するリスク評価の経緯やその結果ならびにリスク管理機関(厚生労働省と農林水産省)の方針や考え方を担当官から参加者にわかりやすく説明していただくとともに,参加者の質問にも答えてもらうことにした.あわせて,現在の農林水産省の方針を踏まえた体細胞クローン技術の利用方向として,「クローン検定」と「医学・医療への利用」に関する研究について,参加者の認識を深めるため,関係する理論や実践に詳しい専門家より最新の研究情報を提供していただくことにした.<BR>担当官の説明に対し,参加者からは,「食品安全委員会の審査によって,体細胞クローン牛豚の安全性が確認されたにもかかわらす,農林水産省は,なぜ,これらの動物の規制を続けるのか」という声があがった.農林水産省の担当官からは,規制する根拠として,「低い生産効率など,商業生産に見合わない技術段階」と「国民理解の醸成不足」が提示された.これに対して,参加者からは,「どこまで生産効率を高めたら規制を解除できるのか,その基準を教えて欲しい(研究者)」,「消費者は皆よく知っている.規制を続けることがサイレント・マジョリティの声ではない(消費者)」などといった質問や意見がだされた.研究会で提起された論点の詳細については,「体細胞クローン家畜の生産効率向上へ向けた将来展望(12月15日)」の分もあわせて,「畜産草地研究所研究資料(10号 ; 予定)」に掲載し,今後の議論の参考に資したいと考えている.<BR>最後に,年末のご多忙な時期にもかかわらず,研究会の講師を務め,また,原稿の取りまとめにもご協力いただいた諸先生に感謝いたします.
著者
松石 昌典 加藤 綾子 石毛 教子 堀 剛久 石田 雄祐 金子 紗千 竹之中 優典 宮村 陽子 岩田 琢磨 沖谷 明紘
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.76, no.4, pp.423-430, 2005-11-25
被引用文献数
2 13

名古屋コーチン肉を特徴づけているおいしさの要因を明らかにするため,ブロイラーと合鴨肉を比較対象として,官能評価と遊離アミノ酸などの分析を行い,以下の結果を得た.名古屋コーチンとブロイラーの加熱もも肉の2点嗜好試験では,味は両者間で差はなかったが,香り,食感および総合評価で前者が有意に好ましいと判定された.両者の2点識別試験では,うま味の強さは両者間で差がなかったが,品種特異臭と推定される名古屋コーチン臭と硬さが名古屋コーチンが有意に上位にあると判定された.両鶏のもも肉から調製したスープの2点識別試験では,うま味の強度はブロイラーが強い傾向にあった.コク味はブロイラーが有意に強かった.両スープにおける遊離アミノ酸の総モル数はブロイラーが多い傾向にあり,グリシン,ヒドロキシプロリン,セリン,アスパラギン,β-アラニン,アラニンおよびプロリンはブロイラーが有意に多かった.その他のアミノ酸は有意差がなかったが,ブロイラーが多い傾向にあった.名古屋コーチン加熱もも肉と合鴨加熱むね肉の2点識別試験では,うま味強度は名古屋コーチンが大きい傾向にあった.合鴨臭と硬さは合鴨が有意に上位にあると判定された.重量比でブロイラーもも挽肉8に合鴨むね挽肉2を混合したパティは,名古屋コーチンもも挽肉パティとは香りを根拠にした3点識別試験で識別できなかった.以上の結果より,名古屋コーチンと合鴨を特徴づけているおいしさの要因は,味ではなく,両者の互いに類似した特有香と豊かな噛みごたえであり,ブロイラーはうま味とコク味の強いスープを与える特性を有していると結論された.
著者
前原 正明 村澤 七月 中橋 良信 日高 智 加藤 貴之 口田 圭吾
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.79, no.4, pp.507-513, 2008-11-25
被引用文献数
4 3

黒毛和種572頭のロース芯から得た脂肪交雑の脂肪酸組成をガスクロマトグラフィーにより分析した.ロース芯を画像解析した値と,各脂肪酸との関連性を調査した.モノ不飽和脂肪酸(MUFA)割合の平均値は57.0%(去勢 : 56.4%,メス : 58.3%),ロース芯脂肪割合の平均値は44.4%(去勢 : 45.6%,メス : 41.6%)であった.MUFA%は出荷月齢およびBFSナンバーと正の相関を示した(それぞれ0.27,0.25 : <I>P</I> < 0.01).BMSナンバーと有意な相関を示した脂肪酸はステアリン酸(-0.11 : <I>P</I> < 0.01)のみであった.MUFA%はあらさ指数(0.16)および最大あらさ指数(0.11)と正の,細かさ指数(-0.17)と負の相関係数を示した(<I>P</I> < 0.01)が,ロース脂肪割合(0.04)とはほぼ無関係であった.脂肪交雑の平均階調値はMUFA%と負(-0.38)の,パルミチン酸と正(0.43)の相関係数を示した(<I>P</I> < 0.01).
著者
小澤 壯行 平井 智絵 Lopez-Villalobos Nicolas 西谷 次郎
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.81, no.2, pp.199-205, 2010-05-25
参考文献数
22

近年,山羊飼養の見直しと飼養熱の高まりがわが国において着実に定着しつつある.しかし,山羊産品の商品化には隘路が多く消費者の受容性が高い産品が早期に求められている.そこでメキシコで広範に嗜好されている山羊ミルクジャムであるCajeta(カヘタ)を開発試作し,これと市販の牛ミルクジャムを用いて10代から60代の男女計394名に対して官能試験,市販価格の推定および製品栄養成分分析を実施することにより,当該製品の受容性を明らかにするとともにその将来性について考察を加えた.この結果,山羊ミルクジャムは色調では牛ミルクジャムと比べて評価が高いものの,かおり,味および総合的評価などでは有意に評価が劣った.しかし被験者の7割以上が山羊ミルクジャムの総合評価に対して「普通」以上の評価を下していることからも,今後,山羊臭の改善などを行うことにより,商品化および市場参入が十分可能であることが示唆された.
著者
紅 玉 駒木 望 島津 朋之 鈴木 啓一
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.84, no.3, pp.327-332, 2013-08-25
参考文献数
8
被引用文献数
5

酸素消費量(O<SUB>2</SUB>C)について高(H系)低(L系)方向への選抜を行った.第6世代までは代謝体重当酸素消費量(O<SUB>2</SUB>C/MBW)を選抜形質とした.体重(BW),O<SUB>2</SUB>CとO<SUB>2</SUB>C/MBWの遺伝率はH系,L系統とも0.5前後の中程度だった.BWとO<SUB>2</SUB>C/MBWの遺伝相関はH系で-0.177,L系で-0.345だった.そのため,相関反応として,H系のBWはL系より小さくなった.そこで,第7世代から9世代まではO<SUB>2</SUB>Cを選抜形質として選抜を継続した.第9世代ではH系とL系間にBWの有意差は認められず,O<SUB>2</SUB>CとO<SUB>2</SUB>C/MBWの表型値と推定育種価はH系がL系より有意に高かった.選抜第8と9世代の両系統のマウス合計160匹を用い,4から7週齢までの飼料要求率を比較した.L系はH系より飼料要求率は有意に低かった.以上の結果からO<SUB>2</SUB>Cを選抜指標とした高低方向への選抜が飼料利用性の異なるマウス系統の作出に有効であることが明らとなった.
著者
朝賀 一美 矢野 幸男 宮口 信子 中出 浩二 和田 佳子
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.1003-1009, 1996-11-25
参考文献数
13

牛肉の硬さを生肉の状態で測定する回転式センサーの開発を行った,本センサーは刃型プランジャーを装着した回転部と,針状の固定用プランジャーを装着した固定部からなり,結合組織の切断に伴って刃型プランジャーが受ける破断応力に基づく測定により,生肉の硬さを評価した,測定条件は回転角度180&deg;,回転速度0.80秒/&deg;とし,2cmタイプ刃型プランジャーを2本装着したものを,肉線維にほぼ平行に回転させたときに得られる最高トルク値をその肉の硬さとした.本センサーで測定した筋肉は国産ホルスタイン種去勢牛(8頭)から採取した腸腰筋,胸最長筋,半膜様筋,半腱様筋,腓腹筋および上腕筋で,各筋肉の硬さはそれぞれ13.42,14.90,21.90,19.70,29.70および33.50kgwと筋肉間で差異が認められた.また,本センサーをオーストラリア産アンガス種去勢牛(33頭)から採取した胸最長筋と半膜様筋に適用したところ,半膜様筋では,本センサーによる測定値と加熱後の官能検査値およびテンシプレッサーによる測定値との相関係数はそれぞれ0.64(P<0.01)および0.68(P<0,01)であった.また,胸最長筋も半膜様筋と同様の傾向を示した.以上のことから,本センサーを用いた結合組織の切断による測定は,生肉の硬さの測定に有用であることが明らかとなった.
著者
青山 真人 山崎 真 杉田 昭栄 楠瀬 良
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.72, no.8, pp.J256-J265, 2001-04-25
参考文献数
21
被引用文献数
2

馬術愛好家や職業として日頃ウマに接している人達はウマの表情からその情動をどの程度推察できるか,また,彼らはウマの顔のどの部位を手がかりとしてその情動を判断しているのかを調査した.調査は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況を推察し,さらに顔のどの部位を手がかりとしてその判断を下したかを答えるアンケート形式で行った.その結果,日頃ウマに接している人達143名の平均点は53.5点(全問正解の場合100点)であり,ウマに接する機会が少ない人達111名の平均点(39.4点)よりも有意に高かった.このことから,日頃ウマに接している人達は,ウマの顔の写真のみからその置かれている状況をある程度推察できるものと考えられた.ウマに接している人達が,状況を推察する際に手がかりとしてもっとも多く観察していたのは耳であり,さらに,高い正解率(55点以上)であったグループは正解率の低いグループ(55点未満)と比較して,耳を観察した回数が有意に多かった.これまでの文献から,耳はウマの感情がもっとも顕著に現れる部位とされているが,日頃ウマに接している人達は経験からそのことを知っていることが示された.しかしながら,異なる状況下であっても,ウマの耳の向きや角度が類似していたり,ほとんど同じである場合もあり,耳のみからでは正確な判断が難しい状況があることも示された.その場合には耳に注目すると同時に,他の部位やそのウマに関わっている他のウマの表情など,別の手がかりをあわせて指標とし,総合的に判断することが有効であると考えられた.
著者
小西 一之 堂地 修 岡田 真人 宮沢 彰 橋谷田 豊 後藤 裕司 小林 修司 今井 敬
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.68, no.11, pp.1075-1084, 1997-11-25
参考文献数
26
被引用文献数
4

持続性黄体ホルモン製剤であるCIDR-B(以下CIDR)を用いて発情周期を制御したウシのFSHによる過剰排卵処理について,Estradiol-17&beta; Valerate (EV)を投与したときの効果を黒毛和種未経産牛を用いて調べるとともに,短期間に実施した連続過剰排卵処理の影響を調べた.黒毛秘種未経産牛16頭を試験牛とし,無作為にEV投与区とEV非投与区(対照区)に分けた.試験牛には発情周期にかかわらずCIDRを膣内に装着し,その翌日にEV投与区にはゴマ油2mlに溶解したEV 5mgを,対照区にはゴマ油2mlを頸部筋肉内に注射した.これらの投与後5日目から過剰排卵処理を開始した.FSH計20AUを3日間の漸減法により筋肉内注射し,FSH投与開始後3日目にCIDRを除去するとともにクロプロステノール750&mu;gを筋肉内注射することにより発情を誘起した.人工授精を約12時間間隔で20行い,発情開始後7日目に非外科的に胚の回収を行った.以上の処理を1クールとし,EV投与区と対照区を交互に反転しながら4クール行った.採胚間隔は28日とした.なお,第3および第4クールは16頭のうち12頭で行った.第1および第2クールでは超音波断層装置によりCIDRの装着から除去まで1日おきに卵巣の動態を観察した.第4クールまでの12頭の過剰排卵処理成績について,EV投与と処理回数の2元配置により分散分析を待った.EV投与により回収卵数は有意に増加した(P<0.05).処理回数の影響はま黄体数でのみ有意であった(P<0.05).また,第1と第2クール分,第2と第3クール分,第3と第4クール分の連続する2クール分の成績をまとめた結果,いずれの場合も対照区の回収卵数が10あるいは8個未満のウシでは,反転させたEV投与区では採胚成績は有意に改善された.しかし,対照区の回収卵数が10あるいは8個以上のウシでは反転させたEV投与区での成績は対照区と差は認められなかった.第1および第2クールの卵巣の追跡では,過剰排卵処理開始時において,対照区に比べ,反転させたEV投与区の大卵胞(径82nm以上)数は有意に少なかった.以上より,CIDRを用いた過剰排卵処理ではEVを併用投与することにより,卵巣中の大卵胞数が抑制されるとともに,過剰排卵処理成績が改善されることが示唆された.
著者
水谷 茂章 中川 和治 礒野 禎三 毛利 信幸
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.3, pp.283-288, 1995-03-25
参考文献数
16
被引用文献数
2

ヘキサミン(1,3,5,7-テトラアザトリシクロ[3.3.1.1<sup>3</sup>,<sup>7</sup>)]デカン)の鞣皮性を研究するために,ヘキサミン溶液での温度と硫酸の添加量がpH並びに皮粉の熱変性温度(T<sub>D</sub>)に及ぼす影響,また,ヘキサミンがクロム鞣液のpH並びにクロムの沈澱形成に及ぼす影響について検討した.得られた結果は次の通りである.1) ヘキサミンの分解反応は比較的容易に始まるが,反応終了までには長時間を要した.しかし,皮粉が共存すると,その時間が短縮された.また,皮粉のT<sub>D</sub>の上昇は非常に遅かった.一方,溶液の温度が高いほど,硫酸の添加量が多いほどヘキサミンの分解反応が促進され,皮粉のT<sub>D</sub>の上昇は速くなった.2) クロム鞣剤は硫酸酸性下においてヘキサミンの分解反応を速めた.すなわち,ヘキサミンの分解反応が終了するまに要する時間は,クロム鞣剤が共存しない場合の1/2以下となり,また,溶液の温度が高いほど,硫酸の添加量が多いほど短縮された.3) ヘキサミンークロム鞣液では,かなり高いpHにおいてもクロムが沈澱しにくい.このことは,ヘキサミンの分解反応による生成物がクロム錯塩に対してマスキング効果を持つことが考えられる.
著者
木村 誠 鈴木 護 荒木 誠一
出版者
Japanese Society of Animal Science
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.66, no.9, pp.770-772, 1995-09-25
被引用文献数
2

The protective effect of the oral administration of fermented egg white powder (FEWP) on experimental <i>Escherichia coli</i> infection was investigated in immunosuppressant-treated mice. After intravenous infection with <i>E. coli</i> (3.1×10<sup>6</sup> CFU), cyclophosphamide reduced the survival rate from 100% to 25%. When FEWP was given once daily for 4 days before infection, the survival rate increased to 70%. Cortisone acetate also reduced the survival rate from 100% to 30%, but when FEWP was given once daily for 4 days before infection the survival rate increased to 65%. These results show that FEWP markedly enhanced resistance to <i>E. coli</i> infection in cyclophosphamide- and cortisone-treated mice one day after completing FEWP pretreatment.
著者
加世田 雄時朗 野澤 謙
出版者
公益社団法人 日本畜産学会
雑誌
日本畜産學會報 = The Japanese journal of zootechnical science (ISSN:1346907X)
巻号頁・発行日
vol.67, no.11, pp.996-1002, 1996-11-25
参考文献数
33

野生状態で生息している御崎馬に関する16年間の行動調査と父子判定の結果を基に,12頭の種雄馬とその51頭の娘を対象に,父娘交配の発生状況とその回避機構について分析した.12頭の種雄馬とその51頭の娘が共に繁殖可能であった176回の繁殖シーズンのうち,82回は両者が互いに異なった地域で過ごした.すなわち,雌子馬が繁殖前に生来地を離れて他の地域へ移出し,繁殖可能なシーズンに父親と異なった地域で過ごすことによって,父親との接触が物理的に回避され,その結果として父娘間の交配が回避された.種雄馬とその娘が同じ行動域で過ごした繁殖シーズンは94回であったが,両者が安定した配偶関係を持った事例は1例も観察されなかった.すなわち,本研究では,雌子馬が性成熟以前に生来群を離れるいわゆる分散によって,父親と娘の間の配偶関係の形成が回避された.父子関係が確定した124例うち2組の父と娘の間に2頭の子馬が生まれた.この2例とも娘は父親とは別の種雄馬の群で生まれ育って,性成熟後に父親とハーレム群を形成した.一方生来群を一度離れた雌子馬が,性成熟後に再び生来群に戻りその種雄馬(幼児期に一緒に過ごした種雄馬)と安定な配偶関係を持った例は1例もなかった.この結果は,野生馬や半野生馬で報告されている「幼児期に同じ群で過ごした経験によって,近親交配が回避されたり,性行動が減少する」という仮説を支持している.