著者
若本 祐一
出版者
公益社団法人 日本顕微鏡学会
雑誌
顕微鏡 (ISSN:13490958)
巻号頁・発行日
vol.50, no.2, pp.86-91, 2015-08-30 (Released:2019-09-03)
参考文献数
21

クローン細胞集団内で観察される様々な表現型のばらつきは,多くの場合,置かれた環境での増殖能や死亡率といった個々の細胞の「適応度」と相関を持つ.このとき,注目する表現型の統計的性質を集団計測から正確に見積もることは原理的に不可能となる.細胞状態変化の本来の性質と,さらにそれらの状態と適応度との相関により決定される集団の性質を同時に理解するには,1細胞レベルの動態計測が必須となる.近年このような計測を実現するマイクロ流体デバイスが開発されつつある.本稿ではまず,細胞表現型の集団内多様性が細胞の適応度差と関係する例として「パーシスタンス現象」に着目し,その1細胞解析で得られた知見を紹介する.さらに,遺伝子発現量などの表現型が適応度と相関をもつとき,集団計測で得られる統計量が細胞の性質とずれることを簡単なモデルをもとに議論し,そのような差が,実際の長期1細胞動態計測で確認されつつあることを述べる.