著者
若松 昭彦
出版者
広島大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2005

本研究では,自閉性障害児・者を対象とした感情理解プログラム・パッケージの開発を目的として,そのベースとなる表情学習プログラムの実用化,音調や身振りによる感情表現や感情喚起状況の理解課題などの作成を目指してきた。それらの課題の中で,感情喚起状況の理解課題については,近年,発達障害児・者に対する社会的スキル学習の重要性が増してきていることから,課題内容を変更して,高校生や青年を想定し,教室場面等での望ましい言動と望ましくない言動をペアにして演劇部の学生に演じてもらい,動画による場面集を作成して,2事例に試行した。その結果,1)グループ活動での会話場面でも,相手の表情や視線などの様子を意識しようとする意欲が見られた。2)最初は雑談の内容が全く分からない様子であったが,何度も聞くことで,その概要の記述ができた。3)学習から日を経ない場合には,スキルを実際に使っている姿が見られた,等の対象者の変化が報告された。繰り返し視聴できるので,場面の状況や適切な行動のポイントなどを説明しやすい,人とのかかわり方だけではなく,表情を読む,視線や語調の違いに気づく,気持ちを知る,雑談の内容を理解する課題としても使用できるなどの利点があり,教材としての有用性が示唆された。しかしながら,日常場面への明らかな効果が見られたとは言えず,最適な学習内容・方法の検討や般化を促す支援方法の工夫などが,今後の課題として提起された。一方,音調の理解課題については,素材は収集したものの,作成の途上にある。また,表情学習プログラムについては,技術移転した企業との共同研究で,試作版を作成している段階である。その開発過程で,新たな特許申請の準備も進めており,今後,表情,音声,社会的スキルなどの学習課題を組み込んだ,発達障害児・者のための感情・社会的スキル学習プログラムの実用化を目指していく計画である。
著者
鏡原 崇史 若松 昭彦
出版者
心理科学研究会
雑誌
心理科学 (ISSN:03883299)
巻号頁・発行日
vol.40, no.2, pp.13-27, 2019 (Released:2020-02-10)
参考文献数
42
著者
若松 昭彦
出版者
日本特殊教育学会
雑誌
特殊教育学研究 (ISSN:03873374)
巻号頁・発行日
vol.27, no.3, pp.19-30, 1989-12-28
被引用文献数
4

自閉症の社会性障害のメカニズム解明の一端として,12歳から18歳までの年長自閉症児22名を対象に表情図及び表情写真の認知能力や基本的な表情の表出能力について実験的検討を行ったところ,自閉症児群には次のような結果が認められた。1)対照群であるMAをマッチングしたダウン症児群よりも基本的な表情の認知・表出能力が全般的に低かった。2)怒りの表情を喜びに分類するエラーが多く認められ,部分的な顔面特徴に基いて反応していることが示唆された。また,このエラーは自閉症的行動特徴を多く示す群に多発していた。3)"泣いた"顔の判断の好成績とは対照的に,"悲しみ"の表情の認知や同一感情カテゴリーに属するものとしての"悲しみ"と"泣く"の意味的関連性の理解などに問題を有する可能性が示された。4)視覚的手がかりによる表情模倣が困難な一群が認められた。5)表情認知・表出能力と言語能力及び社会生活能力の対応関係が示された。