著者
茂里 康 島本 啓子
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.127, no.4, pp.279-287, 2006 (Released:2006-06-01)
参考文献数
73
被引用文献数
2 2

GABA(gamma-aminobutyric acid)は中枢神経系に高濃度存在する抑制性の神経伝達物質として,高次神経機能に密接に関与している.シナプス間隙に放出されたGABAはイオンチャネル型GABAA受容体,GTP結合タンパク質共役型GABAB受容体を活性化し,GABAA受容体自身のCl-チャネルの開口,GABAB受容体を介したプレシナプスの膜電位依存性Ca2+チャネルの開口阻害やポストシナプスの内向き整流性のK+チャネルの開口を通じて抑制性の神経伝達を行う.一方グリシンはGABAと同様に抑制性の神経伝達物質であり,ストリキニーネ感受性のグリシン受容体に結合することにより受容体の内部のCl-チャネルが開口し,抑制性の神経伝達を行う.さらにグリシンは,興奮性のグルタミン酸作動性ニューロンに神経伝達修飾物質として作用する.本作用はNMDA型グルタミン酸受容体のグリシン結合部位にグリシンが結合し,グルタミン酸の結合を増強,アンタゴニストの結合を阻害,さらにNMDA受容体の脱感作を防ぐことにより発揮される.これらGABAおよびグリシンの再取り込みを行い,シナプス間隙での神経伝達物質の濃度維持,近傍シナプスへの神経伝達物質の流出阻止,生合成系への再補充,神経伝達機構の終了等の役割を果たしているのが,GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターである.GABAトランスポーターは4つのサブタイプ(GAT-1,BGT-1,GAT-2,GAT-3),グリシントランスポーターは2つのサブタイプ(GLYT1,GLYT2)がこれまでに知られている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはいずれも12個の膜貫通部位を持つNa+/Cl-依存性トランスポーターであり,互いにそれぞれのファミリー間で約40%程度のホモロジーがある.両トランスポーターは基質1分子あたり2~3分子のNa+の流入,1~2分子のCl-の透過を起こす.またこれらとは別にLi+やK+を透過可能な陽イオン性およびCl-による陰イオン性のリーク電流の存在も報告されている.GABAトランスポーターおよびグリシントランスポーターはうつ病,睡眠障害,筋肉痙縮,痛み,てんかん等の神経疾患と深く関わっていることが知られている.特にGABAトランスポーターの阻害薬は抗痙攣薬として治療に用いられ,GLYT1の阻害薬は向知性薬の候補,GLYT2の阻害薬は筋肉弛緩薬,痙性やてんかん時の筋肉収縮を抑制する治療薬になる可能性が示唆されている.
著者
茂里 康 上垣 浩一 絹見 朋也 稲垣 英利
出版者
和歌山県立医科大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2018-04-01

研究計画が採択された直後の2018年の5月に、産総研から和歌山県立医科大学に異動した。その頃はモリアオガエルの産卵期であり、泡巣の採取時期であったが好機を逃したため、開始が数か月遅れた。しかし、2019年の春から初夏にかけての泡巣及び成体メスの採取時期は、順調に実験が進展した。その結果、泡巣の生体分子の精製・LC-MSによる解析。均一精製を行ったタンパク質分子のエドマン分解によるN末端配列解析の実施。泡巣を精製せずに、還元アルキル化・プロテアーゼによる切断・プロテオーム解析を行った。同時に並行して、モリアオガエル成体メスの輸卵管(産卵前後)及びコントロール組織として皮膚の発現遺伝子の次世代シーケンサーによるRNA-Seq解析を行なった。LC-MS・エドマン分析・プロテオーム解析・次世代シーケンサーのデータをマッチングする事により、約40種類の泡巣のタンパク質成分の分子同定ができた。血球系や酸化ストレスに関与するタンパク質分子が単離できている。またミトコンドリアのDNA配列は、生物の分子進化を考える上で、重要な遺伝子情報である。次世代シーケンサーを用いて、これまで未報告であったモリアオガエルのミトコンドリアDNA配列の解読を行った。現在アノテーションを実施し、全長の配列解読を継続実施している。また台湾には、泡巣を産生するアオガエル科は少なくとも5種類、R. arvalis, R. aurantiventris, R. moltrechti, R. prasinatus, R. taipeianus、が生息している。その内4種類は台湾の法律により保護されているが、台北市立動物園・両生爬虫類館で飼育・保護されている。台北市立動物園の研究者とメール等で共同研究の実施に合意した。またプロテオーム解析に関しても、長庚大学(台湾・桃園市)の研究者と共同研究に合意している。春には台北市立動物園・長庚大学を訪問予定であったが、新型コロナの一件で訪問を延期している。