著者
本間 洋輔 望月 俊明 大谷 典生 青木 光広 草川 功 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.273-277, 2012-06-15 (Released:2012-08-11)
参考文献数
13

Zolpidem(マイスリー®)の過量服用による急性薬物中毒の母体から出生した児が急性薬物中毒よる無呼吸状態であった1例を経験したので報告する。症例は35歳の女性。公園内で意識障害の状態で倒れていたところを発見される。周囲に薬包が散乱していたため,急性薬物中毒疑いにて当院へ搬送された。来院時意識レベルJCS200。腹部膨満を認め,腹部エコーにて子宮内に心拍を伴う胎児を認めた。その時点で妊娠37週であること,出産の徴候が認められたためパニックとなり行方不明となっていたことが発覚した。産婦人科診察にて分娩の進行が確認されたが,意識障害が遷延していたため,緊急帝王切開を施行することとなった。出産児は男児,体重2,572gでapgar scoreは1分後4点,5分後4点であった。児は自発呼吸を認めず気管挿管下の人工呼吸管理を要した。日齢1には自発呼吸認めたため抜管,その後は薬物離脱症状や合併症を認めることなく日齢22に退院となった。母親(本人)は入院2日目に意識レベルが回復し,とくに合併症なく経過した。精神科診察にてうつの診断となり,自殺企図を伴ううつの治療目的に転院となった。後日,分娩当日の母・児の血液よりZolpidemが異常高値で検出され,母児の意識障害の原因としてZolpidem中毒の診断が確定した。うつによる薬物過量服用はよくみられるが,妊婦が薬物を過量服用し,そのまま分娩を迎える例は稀である。Zolpidemは妊婦に比較的安全とされているが,本報告のように過量服用の場合には胎児に影響がでることがある。そして母体で中毒症状が出現している場合は,児ではそれ以上の中毒症状がでる場合があると想定するべきであり,妊婦の薬物過量服用の場合は常に胎児への影響について考えるべきである。また妊娠可能な年齢の女性の意識障害で詳細不明な場合,常に妊娠の合併について考えるべきである。