著者
寺島 侑希 山形 梨里子 末吉 亮 石上 雄一郎 小川 敦裕 沼田 賢治 溝辺 倫子 本間 洋輔 高橋 仁 井上 哲也 舩越 拓
出版者
日本救急医学会関東地方会
雑誌
日本救急医学会関東地方会雑誌 (ISSN:0287301X)
巻号頁・発行日
vol.41, no.3, pp.366-368, 2020-06-30 (Released:2020-06-30)
参考文献数
6

【背景】精巣は白膜に保護されているが強い外力が加わると大腿や恥骨に挟まれ破裂し, 外科的修復を要することがある。【症例】特に既往のない24歳男性。 400ccバイクで走行中に, 60km/時で軽自動車と正面衝突し当院救急搬送となった。来院時は意識清明, バイタルサインは心拍数 71回/分, 血圧 119/79 mmHg, 呼吸数 25回/分, 体温 37.0℃, SpO2 98% (室内気) だった。primary surveyでは明らかな異常を認めなかったが, secondary surveyで会陰部に陰囊の腫脹・疼痛があり右精巣が陰囊から体表に脱出していた。体幹部造影CT検査では軽度の左陰囊内への造影剤の血管外漏出以外に明らかな異常はなかった。治療方針決定のため精巣超音波検査を行うと, 左精巣が腫脹 (35×28×26 mm) しており, 陰囊内部のエコーは低エコーから高エコー域が混在, ドプラエコーで内部血流は不明瞭であり左精巣破裂が疑われた。緊急手術の方針とし, 右精巣は精巣固定術を施行, 左精巣に関しては損傷が大きく機能温存は不可能であり精巣摘出術を施行した。術後は創部感染や合併症等なく経過し, 入院7日目に退院となった。退院後の精査では右精巣機能の温存が確認できた。【結語】精巣損傷を認めた際は, 見た目に損傷が大きい側だけでなく反対側の評価も怠らないことが早期の治療加入, 精巣機能温存につながるため重要である。
著者
本間 洋輔 望月 俊明 大谷 典生 青木 光広 草川 功 石松 伸一
出版者
一般社団法人 日本救急医学会
雑誌
日本救急医学会雑誌 (ISSN:0915924X)
巻号頁・発行日
vol.23, no.6, pp.273-277, 2012-06-15 (Released:2012-08-11)
参考文献数
13

Zolpidem(マイスリー®)の過量服用による急性薬物中毒の母体から出生した児が急性薬物中毒よる無呼吸状態であった1例を経験したので報告する。症例は35歳の女性。公園内で意識障害の状態で倒れていたところを発見される。周囲に薬包が散乱していたため,急性薬物中毒疑いにて当院へ搬送された。来院時意識レベルJCS200。腹部膨満を認め,腹部エコーにて子宮内に心拍を伴う胎児を認めた。その時点で妊娠37週であること,出産の徴候が認められたためパニックとなり行方不明となっていたことが発覚した。産婦人科診察にて分娩の進行が確認されたが,意識障害が遷延していたため,緊急帝王切開を施行することとなった。出産児は男児,体重2,572gでapgar scoreは1分後4点,5分後4点であった。児は自発呼吸を認めず気管挿管下の人工呼吸管理を要した。日齢1には自発呼吸認めたため抜管,その後は薬物離脱症状や合併症を認めることなく日齢22に退院となった。母親(本人)は入院2日目に意識レベルが回復し,とくに合併症なく経過した。精神科診察にてうつの診断となり,自殺企図を伴ううつの治療目的に転院となった。後日,分娩当日の母・児の血液よりZolpidemが異常高値で検出され,母児の意識障害の原因としてZolpidem中毒の診断が確定した。うつによる薬物過量服用はよくみられるが,妊婦が薬物を過量服用し,そのまま分娩を迎える例は稀である。Zolpidemは妊婦に比較的安全とされているが,本報告のように過量服用の場合には胎児に影響がでることがある。そして母体で中毒症状が出現している場合は,児ではそれ以上の中毒症状がでる場合があると想定するべきであり,妊婦の薬物過量服用の場合は常に胎児への影響について考えるべきである。また妊娠可能な年齢の女性の意識障害で詳細不明な場合,常に妊娠の合併について考えるべきである。