著者
石井 豊 稲生 啓行 荒井 迅 寺尾 将彦 鍛冶 静雄
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的研究(萌芽)
巻号頁・発行日
2018-06-29

本研究の目的は、virtual reality 技術を用いて4次元空間を直感的に理解するための可視化方法や4次元対象物を自然に操作できるようにするためのデバイスを開発することにある。中でも、複素2次元力学系が生成するジュリア集合を可視化することでその幾何的性質を観察し更に数学的に有用な予想を引き出すことに、この研究の意義があった。また高次元空間におけるデータセットの「形」を理解するための雛形としても、本プロジェクトの重要性があると考えられる。今年度はコロナ禍の影響で国内・海外出張ができず、メールやslackなどでのやり取りを通して研究を進めた。前年度までに、4次元空間を可視化するための virtual reality デバイスである Polyvision を開発したため、今年度は、この Polyvision を用いた心理実験に向けた準備を進めた。具体的には、Polyvision を用いると被験者の4次元空間認識が向上するかを定量的に測定するための実験タスクをいくつか試験的にデザインし、その実装を行った。しかし通常の3次元空間では容易なはずのタスクが対応する4次元タスクになると急激に困難になるため、現在は(数学的な素養が必ずしもあるとは限らない)一般的な被験者が十分こなせるようなタスクを設定している途中段階にある。そのほかに特筆すべき実績としては、VRを用いた高次元認識に関する(主に数学的な立場からの)研究集会を分担者の稲生が開催し、好評を博すとともにその後の研究の進展に大きな刺激を与えた。
著者
石井 豊 荒井 迅
出版者
九州大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2013-04-01

本研究の目的は、2変数複素力学系に現れるジュリア集合などの重要な数学的オブジェクトを実3次元可視化技術を用いて表現し、そこから数学的に有用な予想を抽出したり、現在まで断片的にしか得られてこなかった(しかも表現が困難な)知見を理解可能な形でアーカイブ化することで、2変数の複素力学系における可視化と数学的理論との良好な関係を構築することにあった。本研究における具体的な成果としては、以下の3点が挙げられる。(1) 4次元から3次元への射影とレンダリングの非可換性。(2) 点集合として得られたジュリア集合の力学系的な補間法の確立。(3) 既存のジュリア集合の画像データを保存するシステムの構築。
著者
荒井 迅
出版者
ERATO湊離散構造処理系プロジェクト
巻号頁・発行日
2011-06

位相幾何学とは、空間をぐにゃぐにゃと連続変形しても不変な性質を研究する数学であり、様々な数学の分野で重要な道具となっている。近年、より現実的な問題に位相幾何学を応用するために、計算機を用いて位相不変量を計算するアルゴリズムの開発が活発になっており、本講演ではその中の一つである計算ホモロジー理論について、その基礎とセンサーネットワークの被覆問題への応用について解説する。センサーネットワークにおいては、大量のセンサー、例えば人間の存在を感知したり、温度を測定するセンサーがあちこちにばらまかれた状況を考える。このとき、センサーたちの感知領域が、正しく目的の領域を被覆しているか、すなわちどこかに見逃しがないか、という問題が重要になる。GPSなどを用いて各センサーの位置情報を求めれば計算幾何を用いることが出来るが、消費電力を小さくおさえるためには、なるべく少ない情報で解決したい。R.Ghristらの研究により、センサーネットワークから定義されるRis複体のホモロジーを計算すれば、この被覆問題を少ない情報で綺麗に記述できる事がわかったのだが、今度は「Rips複体のホモロジーをいかに小さいコストで計算するか」という問題が生じた。この問題に対し、林和則、平岡裕章両氏との共同研究で得られた、マイヤービートリス系列を用いて分散計算をするアプローチと、Ali Jadbabaieらが進めているネットワーク上のラプラシアンを用いたアプローチを紹介する。