著者
菅井 裕子 北野 信彦 山内 章
出版者
(財)元興寺文化財研究所
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1996

新岩絵具は鉛ガラスを主体し、戦後の日本画制作に多用されてきている顔料の一つである。その変色について以下の通り調査した。1.変色した日本画作品の調査新岩絵具を用いて描かれ、約20年経過した日本画の画面に、変色した部分が観察された。制作後、どの時点で変色が起こったのかは不明である。群青色あるいは緑色の部分の表面が黒銀灰色に変化していた。下地は朱である。これらの箇所をX線回折により分析したところ、変色部分には硫化鉛(PbS)が生成している可能性があることを確認した。硫黄が導入された原因としては、(1)外部からのガス等によるもの、(2)朱下地によるもの、(3)その他、が考えられる。調査結果を受けて、朱の下地と新岩絵具との相互作用を加熱した条件で調べたところ、黒っぽい変色がみられた。室温化でこれらの反応が起こるのか追跡する必要がある。2.現代日本画の現地調査制作された当時の色調を示す客観的な判断材料がなかったため、明らかな新岩絵具の変色を確認する事はできなかった。3.新岩絵具の変色・回復試験変色試験に用いた新岩絵具は最も粒子の細かい「白」で、色目は緑青・黄土・水浅黄・桃色・銀鼠の5色である。試料は主に絵具を和紙上に膠を用いて塗布した試料(礬水引きの有無、胡粉下地の有無の区別あり)を使用した。1)高湿度下、二酸化硫黄10ppm、20時間:色変化の傾向は、黄土・銀鼠は黄変、水浅黄などはやや白化するなど、絵具の色により異なっていた。生成した物質が異なるためか、着色剤の状態が変化したためとみられる。2)高湿度下、硫化水素10ppm、20時間試験に用いた5色いずれも褐色化した。鉛及びその他の金属元素が硫化したことが考えられれる。3)高湿度下、ホルムアルデヒド25ppm、20時間この条件ではほとんど変化がなかった。長期の試験が必要である。上記の3条件のうち、1)では、胡粉下地・礬水引きのある試料、2)では胡粉下地あり、礬水引きなしの試料の変色程度がやや少なかった。次に3)については、今回の条件下では変色がみられなかったが、長時間暴露による影響が懸念される。パネルに使用されることのある合板の接着剤からホルムアルデヒドが発生する恐れがあり、影響の確認が必要である。一方、二酸化硫黄で変色した試料の回復がオゾンにより可能かを調べたが、部分的に元の色に近づくものの、ムラができてしまい、完全な回復には至らなかった。