著者
谷原 史倫 菊地 和弘 中井 美智子 野口 純子 金子 浩之 鈴木 千恵 吉岡 耕治 永井 卓
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.162, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】ブタ凍結精液作製時の凍結用希釈液には耐凍剤としてグリセリンのほか,卵黄が20%程度含まれる。卵黄にはホスファチジルコリン(レシチン)が含まれ,精子の先体や細胞膜の安定に重要な役割を果たすと考えられている。ブタ精子は個体ごとあるいはロットごとに耐凍性の差が大きく,さらに卵黄のロット差による凍結用希釈液の品質の違いも融解後の精子性状に影響を及ぼしていると考えられている。本研究では,卵黄の代わりとして市販のレシチン(大豆由来)を用い,品質の担保された凍結用希釈液を作製し,凍結・融解後の精子の体外受精・発生能について検討した。【方法】デュロック種(D)2頭,ランドレース種(L)2頭,大ヨークシャー種(W)1頭から射出精子を採取し,NSF液(Kikuchi et al., 1998,対照区)ならびに卵黄のかわりに5%(w/v)大豆レシチン(Sigma)を添加した液(実験区)で精子を希釈し,0.25 mLストローにて凍結した。37℃温湯で融解し,モデナ液で洗浄・前培養後6時間体外受精を行った。既報により10時間ならびに6日間体外培養を行い固定・染色後に受精ならびに発生状況を調べた。【結果】精子侵入率は,D2頭ならびにL1頭で差がなかったものの,L1頭ならびにW1頭では実験区で有意に低かった(P<0.05)。精子侵入率に差があった2頭中,W1頭では胚盤胞率も有意に(P<0.05)低くなったが,胚盤胞の細胞数には差がなかった。このことから,大豆由来レシチンを添加した凍結用希釈液でもブタ精子の凍結が可能なこと,また,受精後は移植可能な胚に発生することが明らかなった。しかし,卵黄添加に比べて受精率・発生率が下がることもあるため,さらなる手法の改良が望まれる。(農水受託研究「実用技術開発事業」の支援を受けた。)
著者
中井 美智子 菊地 和弘 柏崎 直巳 ソムファイ タマス 小沢 学 前泊 直樹 野口 純子 金子 浩之
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第99回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.58, 2006 (Released:2006-10-24)

近年、雄性配偶子の新たな保存・増殖法として、ヌードマウス等の免疫不全実験動物への精巣組織の異種移植が注目されている。しかし、移植精巣片から得られた精子を用いた卵細胞質内精子注入 (ICSI)法による胚盤胞作出の成功はアカゲザルで報告されているだけである (Honaramooz et al., Biol Reprod 2004)。そこで本研究では、ヌードマウスへの精巣組織異種間移植により作製したブタ精子の胚発生能の検討を目的として、ブタ精巣組織片移植によるブタ精子作製および移植片由来精子を用いて作出したICSI卵の発生能を調べた。【材料と方法】ブタの精巣は、精細管内に前精祖細胞を多く含んだ状態である6-10日齢の新生子雄ブタから採取し、1.5×1.5×1.5 mmに細切した。この精巣片をおよそ20個ずつ5-8週齢の去勢ヌードマウスの背中の皮下に移植した。移植した精巣片は、移植後125-260日に回収した。そして、回収した移植片をPBS中で細切し数回の遠心分離後、形態的に、より成熟していると判断された精子をICSIに供した。ICSI 1時間後に電気刺激処理を施し、6日間の体外培養後の胚盤胞への発生率および胚盤胞細胞数を調べた。【結果】精巣組織片を65匹のヌードマウスに移植したところ、精子は40匹(61.5%)から得られた。精子には細胞質滴は残存するものの、その頭部は成熟した精子と形態的には同様であった。中には良好な運動性を有するものも確認された。これらの精子を用いて作製したICSI卵の胚盤胞への発生率は24.9±7.1% (63/253)であり、平均胚盤胞細胞数は41.9±3.9個であった。【結論】ブタ精巣組織片由来精子のICSIにより、胚盤胞への発生能を有している胚の作出が可能であることが示唆された。すなわち、ブタ精巣組織片をヌードマウスに移植することにより雄性配偶子の保存・増殖が可能であることが示唆された。
著者
中井 美智子 ソムファイ タマス 伊藤 潤哉 谷原 史倫 野口 純子 金子 浩之 永井 卓 柏崎 直巳 菊地 和弘
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.105, 2012

【背景】ブタを含む家畜ICSI卵では,受精卵や胚の作出効率が低いことが問題となっている。これは,通常の受精時に生じるとされる一過性の卵細胞質内Ca<sup>2+</sup>濃度([Ca<sup>2+</sup>]i)上昇の反復変動パターンがICSI卵では再現できないことに起因する可能性が考えられてきた。しかし,実際のブタICSI卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンは明らかにされていない。本研究では,ブタICSI卵とIVF卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンの比較および受精に及ぼす影響を調べた。【方法】ブタ体外成熟卵と凍結融解精巣上体精子を実験に供した。IVFでは単精子(IVF-mono)と多精子(IVF-poly)侵入卵,ICSIでは電気刺激処理(ICSI-acti),無処理(ICSI-nonacti)卵を作成した。実験1:IVF-mono,ICSI-acti,ICSI-nonacti区卵をCa<sup>2+</sup>指示薬であるFura2に37&deg;C,15分間感作させた後,レシオイメージングシステム(浜松ホトニクス)を用いて測定を4時間行い[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンを比較した。実験2:IVF‐mono,ICSI‐actiおよびICSI-nonacti区での正常受精率(2極体+2前核/精子侵入卵)を調べた。【結果】実験1:IVF-mono区における[Ca<sup>2+</sup>]i変動は少なく,ICSI-actiおよびICSI-nonacti区でも同様なパターンが観察された。実験2:正常受精率は,ICSI-acti区(67.3 &plusmn; 9.3%)とICSI-nonacti区(48.8 &plusmn; 13.7%)の間に有意差はなく,両区ともにIVF-mono区(100%)より有意に低かった(P < 0.05, ANOVA/Tukey)。【考察】IVF-mono卵で生じる[Ca<sup>2+</sup>]i変動は予想外に低頻度であり,電気刺激の有無にかかわらずICSI卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンと同様であることが明らかとなった。また,ICSI卵における正常受精率はIVF卵に比べ低いため,その要因が[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターン自体の違いではないことが示唆された。