著者
中嶋 紀覚 仲田 誠 杉尾 周平 佐野 大介 鈴鴨 知佳 伊藤 潤哉 猪股 智夫 柏崎 直巳
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第100回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.20099, 2007 (Released:2007-10-17)

【目的】げっ歯類において,ホノルル法を用いた体細胞核移植によってクローン個体を作製するためには,核注入後1時間以内に早期染色体凝集(PCC)を起こし,2つ以上の偽前核を形成することが必要である。我々はラットの生体から卵管遊離した時間を起点として, 75分以内に核移植完了し,かつ卵子を除核前までMG132で処理することで,2前核形成を効率的に誘起できることを報告した(第54回実験動物学会)。本研究ではさらなる胚発生率の向上を目的として,MG132で一定時間処理したラット排卵卵子について最適な活性化処理時期を検討した。【方法】過剰排卵処置をした3-5週齢のWistar系雌ラットから排卵卵子を採取し,0.1% hyaluronidase および7 µM MG132添加 R1ECM-Hepes中で卵丘細胞を除去した。その後,核移植完了までの時間(75分)および核注入後の培養時間(60分)を想定して卵子を7 µM MG132添加R1ECMで135分間培養した。培養後,R1ECMでさらに培養を行い,直後,0.5,1.0,1.5時間後に3 µM ionomycin + 2 mM 6-DMAPで活性化を誘起し,発生能を調べた。また,同時間MG132無添加R1ECMにて培養し,活性化処理したものを対照区とした。【結果】前核形成率および2細胞期率は,対照区に比べて全てのMG132添加区で高い値を示し,特にMG132添加培養後,無添加培地で1.5時間培養した区が最も高い値を示した。また,MG132添加培養し,直後および0.5 時間無添加培養した後に活性化処置を施した区では,胚盤胞形成が認められなかったのに対し,1.0 時間以上培養した区では胚盤胞の形成が認められた。以上のことから,排卵卵子をMG132で一定時間処理し,その後,無添加培地で1.0時間以上培養した卵子を活性化処理することにより,多くの卵子が高い発生能を有することが明らかとなった。今後は核移植を行い,ラット再構築胚の発生能を検討する予定である。
著者
森 裕子 遠藤 伸 伊藤 亨子 柏崎 直巳 二宮 博義 猪股 智夫
出版者
麻布大学
雑誌
麻布大学雑誌 (ISSN:13465880)
巻号頁・発行日
vol.13, pp.125-127, 2006

本研究は,ビオチン欠乏がラット海馬へ及ぼす影響について,Timm染色法を用いて海馬組織を組織計測するとともに,DNAマイクロアレイ法を用いて海馬組織における遺伝子発現を検証した。組織学的観察では,歯状回,CA1,CA3の各エリアにおいてBD群の方がBS群より神経細胞が小さい傾向を示し,ビオチン欠乏により海馬神経細胞の代謝活性が低下していることが示唆された。また,Hilus,Lucidum領域のシナプス密度は,背側海馬(頭側)では両群の間に差は認められなかったが,腹側海馬(尾側)ではBD群の方がBS群より有意に増加しており,ヒト側頭葉てんかんに見られる所見に類似することが示唆された。さらに海馬組織の遺伝子発現については,BD群では細胞間や細胞内情報伝達に関わる複数の遺伝子(アセチルコリン作動性受容体,AMPA型受容体,神経軸策伸張に関わる関連遺伝子)が抑制されており,ビオチンが遺伝子発現にも重要な働きを示すものと推察された。ビオチンは脳機能の維持,特に記憶・学習に関与している可能性がある。
著者
中井 美智子 菊地 和弘 柏崎 直巳 ソムファイ タマス 小沢 学 前泊 直樹 野口 純子 金子 浩之
出版者
公益社団法人 日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第99回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.58, 2006 (Released:2006-10-24)

近年、雄性配偶子の新たな保存・増殖法として、ヌードマウス等の免疫不全実験動物への精巣組織の異種移植が注目されている。しかし、移植精巣片から得られた精子を用いた卵細胞質内精子注入 (ICSI)法による胚盤胞作出の成功はアカゲザルで報告されているだけである (Honaramooz et al., Biol Reprod 2004)。そこで本研究では、ヌードマウスへの精巣組織異種間移植により作製したブタ精子の胚発生能の検討を目的として、ブタ精巣組織片移植によるブタ精子作製および移植片由来精子を用いて作出したICSI卵の発生能を調べた。【材料と方法】ブタの精巣は、精細管内に前精祖細胞を多く含んだ状態である6-10日齢の新生子雄ブタから採取し、1.5×1.5×1.5 mmに細切した。この精巣片をおよそ20個ずつ5-8週齢の去勢ヌードマウスの背中の皮下に移植した。移植した精巣片は、移植後125-260日に回収した。そして、回収した移植片をPBS中で細切し数回の遠心分離後、形態的に、より成熟していると判断された精子をICSIに供した。ICSI 1時間後に電気刺激処理を施し、6日間の体外培養後の胚盤胞への発生率および胚盤胞細胞数を調べた。【結果】精巣組織片を65匹のヌードマウスに移植したところ、精子は40匹(61.5%)から得られた。精子には細胞質滴は残存するものの、その頭部は成熟した精子と形態的には同様であった。中には良好な運動性を有するものも確認された。これらの精子を用いて作製したICSI卵の胚盤胞への発生率は24.9±7.1% (63/253)であり、平均胚盤胞細胞数は41.9±3.9個であった。【結論】ブタ精巣組織片由来精子のICSIにより、胚盤胞への発生能を有している胚の作出が可能であることが示唆された。すなわち、ブタ精巣組織片をヌードマウスに移植することにより雄性配偶子の保存・増殖が可能であることが示唆された。
著者
中井 美智子 ソムファイ タマス 伊藤 潤哉 谷原 史倫 野口 純子 金子 浩之 永井 卓 柏崎 直巳 菊地 和弘
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集
巻号頁・発行日
vol.105, 2012

【背景】ブタを含む家畜ICSI卵では,受精卵や胚の作出効率が低いことが問題となっている。これは,通常の受精時に生じるとされる一過性の卵細胞質内Ca<sup>2+</sup>濃度([Ca<sup>2+</sup>]i)上昇の反復変動パターンがICSI卵では再現できないことに起因する可能性が考えられてきた。しかし,実際のブタICSI卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンは明らかにされていない。本研究では,ブタICSI卵とIVF卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンの比較および受精に及ぼす影響を調べた。【方法】ブタ体外成熟卵と凍結融解精巣上体精子を実験に供した。IVFでは単精子(IVF-mono)と多精子(IVF-poly)侵入卵,ICSIでは電気刺激処理(ICSI-acti),無処理(ICSI-nonacti)卵を作成した。実験1:IVF-mono,ICSI-acti,ICSI-nonacti区卵をCa<sup>2+</sup>指示薬であるFura2に37&deg;C,15分間感作させた後,レシオイメージングシステム(浜松ホトニクス)を用いて測定を4時間行い[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンを比較した。実験2:IVF‐mono,ICSI‐actiおよびICSI-nonacti区での正常受精率(2極体+2前核/精子侵入卵)を調べた。【結果】実験1:IVF-mono区における[Ca<sup>2+</sup>]i変動は少なく,ICSI-actiおよびICSI-nonacti区でも同様なパターンが観察された。実験2:正常受精率は,ICSI-acti区(67.3 &plusmn; 9.3%)とICSI-nonacti区(48.8 &plusmn; 13.7%)の間に有意差はなく,両区ともにIVF-mono区(100%)より有意に低かった(P < 0.05, ANOVA/Tukey)。【考察】IVF-mono卵で生じる[Ca<sup>2+</sup>]i変動は予想外に低頻度であり,電気刺激の有無にかかわらずICSI卵における[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターンと同様であることが明らかとなった。また,ICSI卵における正常受精率はIVF卵に比べ低いため,その要因が[Ca<sup>2+</sup>]i変動パターン自体の違いではないことが示唆された。
著者
佐藤 英明 佐々田 比呂志 柏崎 直巳 梅津 元昭 星 宏良 舘 鄰 松本 浩道
出版者
東北大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
1998

1)トランスジェニックブタ作出の基礎技術、すなわち卵成熟・体外受精・受精卵の体外発生、核移植、胚凍結、胚移植などの技術を確立した。特に体外で作出した脱出胚盤胞がフィーダー細胞に接着して増殖し、胚由来細胞のコロニーを形成することを明らかにした。作製した胚由来細胞は凍結保存している。また、ブタ体外成熟卵子から核を除く顕微操作法を確立した。2)ブタ卵母細胞において減数分裂の再開始においてmitogen-activated protein kinase(MAPK)が減数分裂再開始誘起シグナルを細胞質から核に移行させる仲介作用をもつことを明らかにした。3)ヒアルロン酸の体外生産ブタ胚の発生への影響は卵の成熟・受精における条件によりその影響が異なることを明らかにした。4)脱出胚盤胞から作成したブタ胚由来細胞は長期間体外で維持することが可能で、除核未受精卵への核移植により脱出胚盤胞期胚まで発生した。5)緑色蛍光タンパク質(GFP)をコードする遺伝子を含むベクターを作成し、報告者が開発した胚由来細胞に導入し、導入細胞を選別する方法を開発した。GFP導入細胞は現在、凍結保存している。6)GFP発現胚由来細胞を除核成熟卵子に導入し、融合させ、活性化させる条件を明らかにした。現在、脱出胚盤胞期胚まで発生させることに成功している。
著者
柏崎 直巳 伊藤 潤哉
出版者
麻布大学
雑誌
挑戦的萌芽研究
巻号頁・発行日
2010

哺乳類生殖細胞の超低温保存は,実験動物・家畜における効率的な遺伝資源の保存やヒト生殖補助医療技術として重要である.さらに,未受精卵の状態で効率よく超低温保存することが出来れば,体外受精あるいは卵細胞質内精子注入法に用いる際,雄の遺伝的背景が選択可能になることから,極めて重要な技術になると考えられる.しかし,初期胚と比較して未受精卵の超低温保存は,加温後の卵の発生能は著しく低下してしまうことが知られている.本研究では,新規凍害保護物質であるカルボキシル基導入ポリリジン(COOH-PLL)を用いて,マウス未受精卵の超低温保存の改良を試みた.ガラス化保存した加温後の卵は,生存率においては高い値(90%以上)を示し,体外受精後の前核形成率においては, 20%(v/v) ethylene glycolおよび10%(w/v) COOH-PLL(E20P10区)で高い割合(約70%)を示した. 2細胞期率においてもE20P10区は高い割合(約70%)を示した.以上の結果から,マウス未受精卵の超低温保存においてもCOOH-PLLは凍害保護物質として有効であることが初めて明らかにされた.