著者
大内 誠 菊地 拓也 尾崎 千尋 関 喜一 岩谷 幸雄
出版者
視覚障害リハビリテーション協会
雑誌
視覚障害リハビリテーション研究発表大会プログラム・抄録集
巻号頁・発行日
vol.21, pp.95, 2012

<B>【研究の背景と目的】</B><BR> 白杖を持って歩道を歩いているとき、視覚障害者が最も危険を感じるのは、近づいてくる自転車であると言われている。事実、視覚障害者が自転車と衝突したり、接触して白杖を折られたりする事故が多発している。このような事故から自分自身を守るためには、自転車などの移動障害物がどの方向からどれくらいのスピードでこちらに近づいてくるのかを認識し、とっさに回避する能力を身につける必要があるが、そのような訓練手段はほとんど存在しない。そこで、私たちは、仮想聴覚ディスプレイの技術を応用し、移動物体の位置や移動方向を音像だけで表現するゲームを開発した。これを用いて訓練することにより、移動障害物の回避能力を安全に効率的に向上させることが本研究の目的である。<BR><BR><B>【開発ゲーム概要】</B><BR> プレーヤはWiiリモコンを搭載したヘッドホンを装着し、手にもWiiリモコンを持つ。プレーヤは向かってくる移動物体の音像を聞き分け、自動車(今回は自転車ではなく認識し易い自動車の音を用いた)ならば回避行動を取り、アイテムならば腕を振ってそれを取得する。アイテムを取得できると得点が加算され、自動車に当たると減点される。移動速度は自動車もアイテムも時速25キロメートルである。<BR><BR><B>【訓練効果の検証と結果】</B><BR> 訓練効果を検証するため22名の晴眼者に対して実験を行った。この内半数の11名に対して7日間~10日間の訓練を実施した。訓練は1日当たり3ゲーム(1ゲーム当たり60秒のプレイ時間)連続で行った。また、22名全員に対して訓練の初日と最終日に、転がってくるボールを目隠しした状態で回避する実験を行った。その結果、訓練を行ったグループの衝突回避猶予時間が有意に短縮され、移動障害物が近づいて来た際にとっさに回避行動に移れるようになったことが証明された。なお、訓練を行っていない残りの11名のグループでは衝突回避猶予時間に変化はなかった。以上の点から、本ゲームは移動障害物を認知回避する能力を向上させるために有効であることが明らかとなった。