- 著者
-
菊島 良介
高橋 克也
- 出版者
- 日本公衆衛生学会
- 雑誌
- 日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
- 巻号頁・発行日
- vol.67, no.4, pp.261-271, 2020-04-15 (Released:2020-05-08)
- 参考文献数
- 27
目的 本研究は食料品アクセス困難者(以下,アクセス困難者)の栄養および食品摂取にみられる特徴を把握することを目的とした。方法 食料品アクセス問題に関する調査項目が唯一調査票に含まれている平成23年国民健康・栄養調査と平成23年国民生活基礎調査の両個票データのデータリンケージを行い,分析に用いた。 65歳以上の高齢女性1,051人を対象に,アクセス困難者の栄養および食品摂取状況について計量経済学的手法を用いて把握した。分析の目的変数としてエネルギー産生栄養素の蛋白質,脂質,炭水化物の摂取熱量(kcal),17品目の食品群別摂取量(g/1,000 kcal)を用いた。目的変数の同時決定による内生性に対処した同時方程式モデルの一種であるSeemingly Unrelated Regressionsモデルを推計した。この推計により各栄養素摂取熱量や食品群別摂取量の多寡を規定する要因(変数)の影響の程度が係数として示され,各栄養素間や各食品群間の代替・補完関係が誤差項間の相関行列として表現された。結果 アクセス困難者の特徴として65歳以上女性において,食料品アクセスとエネルギー産生栄養素摂取量との関連をみた結果,炭水化物の摂取熱量(kcal)が有意に高く,脂質の摂取熱量(kcal)が有意に低いことが明らかになった。このことは食品群別摂取量(g/1,000 kcal)をみても穀類が高く,油脂類が低いことからも確認された。これらのことから,アクセス困難者は代替・補完関係を考慮しても炭水化物摂取に偏った食生活を送っている可能性が高いと推察された。結論 本研究により栄養摂取状況に関してアクセス困難者が炭水化物摂取に偏る局面もみられた。単純に価格や嗜好の問題ではなく食環境の要因として,すなわち食料品へのアクセスの制約によりアクセス困難者は炭水化物摂取へ偏った食生活を送っている可能性が高いと推察される。個人が直面する経済的状況の影響を考慮しても食環境は食生活を規定しており,フードチェーンを構成する各主体間や行政との連携・協力による買い物サービスの利用促進に向けた環境整備の必要性が示唆された。