著者
菊谷 達弥 椙山 泰生 澤邉 紀生
出版者
京都大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2006

日本、米国シリコンバレー、英国ロンドン近辺の幾つかの企業について、共同開発、技術提携、技術情報会社の役割などを聞取り調査した結果、オープンイノベーションの問題を、取引コストの視点から分析することが有効であることがわかった。取引コストはさらに「取引相手を探索するコスト」と、「企業内部での調整コスト」の2つに分けられる。この視点の有効性を大規模サンプルで検証するために、日本の上場製造企業を対象に質問票を実施した。本社研究開発部門については「技術提供」と「技術獲得」、事業部については「技術獲得」を調査した。その結果、以下のことが判明した。(1)まず、取引相手を探索する部門の存在は、これらすべての取引を促し、この意味で探索コストを共通に減らすのに有効である。これに対し、調整コストのあり方は、取引や企業組織のタイプによって異なる。(2)本社研究開発部門の、外部への技術提供の決定には、事業部門との調整が必要であり、事業部の数が多くなるほど、外部への提供は抑制される。これと整合的に、事業部の権限が強い分権型マネジメント・コントロールであるほど、外部への提供は減少する。ただし、部門間で技術情報を共有する仕組みがあれば、この調整コストは減少し、外部提供が促される。逆に、中央の研究開発部門の権限が強い場合は、テクノロジー・プッシュ型の外部提供が行われる。(3)次に、本社研究開発部門の技術獲得は、事業部が多くなるほど促進される。そしてマネジメント・コントロール・システムが、事業部の権限が強い分権型であるほど、こうした本社部門による技術獲得は増大し、事業部からの要請に基づくニーズ・プル型の技術獲得が行われる。(4)これは事業部における技術獲得に影響し、分権型システムであるほど、事業部自らが技術獲得を行う必要性を減少させる。こうした調査の実施は他には皆無といってよい。また、分析結果についても、技術取引を取引コストの視点から捉え、さらに取引コストを構成する内部調整コストを、マネジメント・コントロールと関連させて分析した点で重要である。