- 著者
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落合 優
- 出版者
- 公益社団法人 日本油化学会
- 雑誌
- オレオサイエンス (ISSN:13458949)
- 巻号頁・発行日
- vol.22, no.4, pp.155-164, 2022 (Released:2022-04-07)
- 参考文献数
- 20
食用昆虫は持続可能な食糧資源として推奨されているが,その栄養的および機能学的特徴については十分には解明されていない。食用昆虫は代替タンパク質資源であると考えられる場合が多いが,食用昆虫の中には脂質を多く含むものも存在し,さらに脂質の構造的特徴は昆虫の種や昆虫の飼料および成長段階によって異なると考えられる。加工食品への食用昆虫や昆虫油脂の利用を考えると,食用昆虫原料を質的および量的に評価することが重要である。著者は,食用昆虫を重要な脂質資源であると考え,世界に約2000種類存在する食用昆虫の中でも代表的な食用昆虫であり,国内でも加工粉末が市販されるトノサマバッタ(成虫),カイコ(蛹)および数種類のコオロギ(成虫)の油脂の特徴について検討してきた。本稿では,食用昆虫の油脂の量および質に関する栄養学的な分析知見を示し,著者らの先行研究で得られている食用昆虫の油脂に期待される生理作用について紹介する。食用昆虫油脂の質に関して,我々はトノサマバッタおよびカイコにはn-3系脂質であるα-リノレン酸,コオロギにはn-6系脂質であるリノール酸が結合した中性脂肪およびリン脂質が豊富に含まれることを示した。さらに,リン脂質の中ではホスファチジルコリンが主要なリン脂質種であるが,その他のリン脂質種も含有されていることを示した。昆虫油脂に期待される栄養生理作用について,食用トノサマバッタ粉末をラットに給餌したところ,肝臓における脂質代謝が改善されることを示した。これらの研究より,食用昆虫は機能性に優れる多価不飽和脂肪酸やリン脂質を含む油脂源であることが示唆された。昆虫を食糧油脂源や機能性油脂源として利用することによって,国連が推奨する持続可能な開発目標(SDGs)に対する貢献も大いに期待される。