著者
加部 勇 古賀 安夫 幸地 勇 宮内 博幸 蓑添 葵 桑田 大介 堤 いづみ 中川 雅文 田中 茂
出版者
公益社団法人 日本産業衛生学会
雑誌
産業衛生学雑誌 (ISSN:13410725)
巻号頁・発行日
vol.57, no.6, pp.306-313, 2015 (Released:2015-12-18)
参考文献数
24

目的:国内では一般の産業現場において耳音響放射検査 (OAEs) は普及しておらず,実際の騒音職場での使用報告がほとんどない.本調査は,国内製造業の事業場で,騒音に曝露する作業者を対象にOAEsと最小可聴閾値(HTs)との関連を検討した.対象と方法:金属製品製造業の2事業場において騒音職場の作業者(曝露群)34名(平均年齢40.6±9.4歳)と,非騒音曝露作業者(コントロール群)9名(49.0±14.3歳)を調査対象とした.対象者毎に作業環境測定(ENM)と,騒音個人曝露測定(PNM)を同時期に実施した.騒音曝露による聴覚影響の評価指標として,作業開始前後の0.5 kHz,1 kHz,2 kHz,4 kHzと8 kHzのHTsおよび2 kHz,3 kHzと4 kHzの歪成分耳音響放射検査 (DPOAEs) を行った.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の曝露群と非曝露群の比較,作業前後の比較,NIHL有無の比較は,Student’s t検定を用いた.HTs,OAEs,ENMとPNMの結果の関連についてPearson相関係数を求めた.結果:ENMおよびPNMは,騒音曝露群がA測定(LAeq)84.5±4.1 dB (A),B測定(LAMAX)89.5±6.3 dB (A),時間加重平均(LTWA)83.4±4.7 dB (A),一秒率(LAE)153.1±15.7 dB (A),コントロール群がLAeq53.2±2.6 dB(A),LAMAX56.4±2.4 dB (A),LTWA67.8±5.6 dB (A),LAE119.5±5.6 dB (A)となり,騒音曝露レベルは曝露群が有意に高かった.作業前後のHTs,OAEsは,両群とも差は無かった.両群とも騒音曝露レベルのLAeq,LAMAX,LTWA,LAEとその影響指標であるHTs,OAEsに相関がみられなかったが,HTsとOAEsとの間には相関をみとめた.NIHLをみとめた群は,NIHLのない群に比べて,HTsおよびOAEsが有意に低下していた.結論:作業前後のHTsと OAEsの相関をみとめた.今後,日本の産業現場でも騒音性難聴のスクリーニング検査や騒音曝露作業者の聴力管理としてOAEが用いられることが期待される.