著者
張 穎奇 河村 善也 蔡 保全
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.47, no.2, pp.81-92, 2008-04-01 (Released:2009-04-25)
参考文献数
25
被引用文献数
2 3

小長梁遺跡は前期更新世の人工遺物を出土する遺跡として重要であるが,その遺物包含層と同一層準から採取した大量の堆積物を細かい目の篩で水洗して,多くの小型哺乳類化石を得た.遺物包含層の年代は古地磁気測定により1.36 Maとされている.小型哺乳類は生層序の研究や古環境復元に重要であるが,この遺跡ではこれまで小型哺乳類化石はほとんど採集されてこなかった.今回は得られた化石をもとに,この遺跡の小型哺乳類の動物群の特徴を明らかにし,それを近隣の地域にあって古地磁気層序や放射年代が明確な4つの化石産地の動物群と比較した.それらにもとづいて,後期鮮新世とそれ以降の時期の地層における小型哺乳類の生層序と,それらの時期の小型哺乳類の動物相の変遷について論議した.変遷については,絶滅種が卓越する後期鮮新世から前期更新世にかけての中国北部の動物相が1.66 Maと1.36 Maの間に現生種(カヤネズミ)の出現により若干変化したあと,1.36 Maと0.6 Maの間には多くの絶滅種が見られなくなる一方で,現生種が数多く出現するという大きな変化があったと考えられる.さらに,この遺跡周辺の前期更新世の古環境については,温帯の気候で,湖の近くにまばらに灌木の生えた草原という環境が推定された.
著者
蔡 保全 高橋 啓一
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.427-439, 2003-12-01
被引用文献数
2

台湾,チベットを除く中国南部(99°~122°E,21°~32°)の後期旧石器時代(40,000~9,000年前)における文化と環境の関係について,従来の研究をまとめた.<br>石器などの文化遺物に基づいて,この時代の中国南部は5つの文化地域に分けることができる.それらは,雲南-貴州高原地域(Yunnan-Guizhou Plateau Region),西四川高原地域(West Sichuan Plateau Region),四川盆地-長江南部丘陵地域(Sichuan Basin-the Hilly Regions south of the Yangtze River),長江の中・下流平野部(The Plain of the Middle and Lower Reaches of the Yangtze River),五嶺南部地域(the Area south of Wuling)である.一方,この地域の中~後期更新世の地層からは,ステゴドン-パンダ動物群が発見されているが,それらもまた地域ごとに動物種の組み合わせが異なっている.動物群集の違いは,おもに温度や湿度,緯度や高度とも関係して起こっている.<br>この論文では,5つの文化地域で見られる道具の特色の違いが,動物相の違いとよく一致していることを紹介した.<br>例えば,西四川高原地域は高度が高く,中国南部の中ではやや高い緯度に位置する.ここでは,ステゴドン-パンダ動物群は見られず,中国北部の動物相と北部と南部の遷移的な動物相が見られる.発見された動物種は,比較的冷涼で乾燥した草原性のものが多く見られる.この地域で見られた2万年前ごろの富林文化(Fulin Culture)では,狩猟生活を中心としており,その道具には小さなスクレイパー,尖頭器,彫刻刀などを使い,チョッピングツールを欠いていた.<br>緯度的にも低く,高度も低い五嶺南部地域には,典型的なステゴドン-パンダ動物群が生息していた.亜熱帯南部の気候で,高い温度と湿度があった.35,000~26,000年以上前と18,000~9,000年前の2つの時代に分けられているが,人びとの生活は狩猟よりも採集生活が中心であったため,大形のチョッパーが重要であった.<br>先にあげた2つの地域の間にある雲南-貴州高原地域では,ステゴドン-パンダ動物群の要素が45%ほど見られたが,それはこの