- 著者
-
蔡 保全
高橋 啓一
- 出版者
- Japan Association for Quaternary Research
- 雑誌
- 第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
- 巻号頁・発行日
- vol.42, no.6, pp.427-439, 2003-12-01
- 被引用文献数
-
2
台湾,チベットを除く中国南部(99°~122°E,21°~32°)の後期旧石器時代(40,000~9,000年前)における文化と環境の関係について,従来の研究をまとめた.<br>石器などの文化遺物に基づいて,この時代の中国南部は5つの文化地域に分けることができる.それらは,雲南-貴州高原地域(Yunnan-Guizhou Plateau Region),西四川高原地域(West Sichuan Plateau Region),四川盆地-長江南部丘陵地域(Sichuan Basin-the Hilly Regions south of the Yangtze River),長江の中・下流平野部(The Plain of the Middle and Lower Reaches of the Yangtze River),五嶺南部地域(the Area south of Wuling)である.一方,この地域の中~後期更新世の地層からは,ステゴドン-パンダ動物群が発見されているが,それらもまた地域ごとに動物種の組み合わせが異なっている.動物群集の違いは,おもに温度や湿度,緯度や高度とも関係して起こっている.<br>この論文では,5つの文化地域で見られる道具の特色の違いが,動物相の違いとよく一致していることを紹介した.<br>例えば,西四川高原地域は高度が高く,中国南部の中ではやや高い緯度に位置する.ここでは,ステゴドン-パンダ動物群は見られず,中国北部の動物相と北部と南部の遷移的な動物相が見られる.発見された動物種は,比較的冷涼で乾燥した草原性のものが多く見られる.この地域で見られた2万年前ごろの富林文化(Fulin Culture)では,狩猟生活を中心としており,その道具には小さなスクレイパー,尖頭器,彫刻刀などを使い,チョッピングツールを欠いていた.<br>緯度的にも低く,高度も低い五嶺南部地域には,典型的なステゴドン-パンダ動物群が生息していた.亜熱帯南部の気候で,高い温度と湿度があった.35,000~26,000年以上前と18,000~9,000年前の2つの時代に分けられているが,人びとの生活は狩猟よりも採集生活が中心であったため,大形のチョッパーが重要であった.<br>先にあげた2つの地域の間にある雲南-貴州高原地域では,ステゴドン-パンダ動物群の要素が45%ほど見られたが,それはこの