著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
吉田 英嗣 須貝 俊彦 大森 博雄
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.49, no.2, pp.55-67, 2010-04-01
被引用文献数
1 8

火山麓に分布する流れ山は,大規模山体崩壊が過去に発生した証拠として,また,岩屑なだれのメカニズムを推察するうえで,重要な研究対象とされてきた.本研究では,流れ山地形がなお崩壊や岩屑なだれに関して地形学的に重要な情報を提供してくれるものと捉え,岩屑なだれの流下方向における流れ山の分布様式を検討し,流れ山地形に新たな地形学的意義を与えることを試みた.研究対象は,日本における4つの岩屑なだれが形成した流れ山であり,これら岩屑なだれは山麓に拡散した典型例とみなされる.空中写真判読により抽出した流れ山の数は,尻別火山の172,有珠火山の262,岩木火山の200,那須火山の643であり,GISを用いて流れ山の形態データを取得した.<BR>いずれの事例も,流れ山地形は山麓の下部斜面から平地にかけて緩やかな斜面として存在する.そして,流れ山のサイズは下流方向に減少する傾向が認められる.この減少傾向は,流れ山のサイズと給源からの距離との回帰分析によれば,指数関数で近似しうる.まず,回帰関数は,距離ゼロ(給源)における流れ山のサイズが崩壊の体積に規定されていることを示している.すなわち,崩壊の規模に応じて,崩壊部に発生する初期段階での割れ目の大きさが決まるらしい.他方,流れ山のサイズの減少割合は,等価摩擦係数の逆数で示されるような岩屑なだれの流動性に規定されていると考えられる.換言すれば,流動性の小さい岩屑なだれでは流れ山が急速に縮小するのに対し,大きい岩屑なだれでは緩やかである.以上の検討により,流れ山のサイズと給源からの距離との関係は,火山体ならびに岩屑なだれの流動特性を反映していることが明らかとなった.
著者
首藤 伸夫
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.46, no.6, pp.509-516, 2007-12-01
参考文献数
16
被引用文献数
3 8

津波によって過去に生じた地形変化例を,原因となる津波の大きさや流速の判明するものを重視して取りまとめた.観察された現象の裏づけをしようとする流体力学的な説明の試みを紹介し,その課題を明らかにする.<BR>砂州・トンボロ・砂嘴の切断は,津波によるだけでなく,開口後の潮汐の影響をも考慮する必要がある.水路での水深変化の最大値は約10mにも及んでいるが,これを再現する数値計算では,約5mとほぼ半分に止まっている.最大の問題は流速の再現性にある.堤防破壊条件を取りまとめると,流体力学的に見てもほぼ首肯しうる結果となっている.<BR>陸上での堆積厚のほぼ上限値を実例により示した.陸上での堆積作用に関しては,流体力学的解析に必要な諸関係式が整っていない.その手始めとして,堆積物運搬距離と津波諸元との間に満たされるべき関係を示した.
著者
坂井 正人
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.51, no.4, pp.231-237, 2012-08-01
参考文献数
24
被引用文献数
1

ナスカの地上絵が,何のために制作されたのかという疑問に対して,説得力のある答えは得られていない.しかし,豊作を祈願するために制作されたという説が最も有力である.本研究では,地上絵の考古学的研究に対する将来の布石として,ペルー南部海岸ナスカ台地付近の農民たちが,気象現象に関する独自の認識や知識を持っていることを明らかにする.今回の調査によって,以下の4つの認識・知識を持っていることが明らかになった.(1)ナスカ台地周辺で農耕に利用している水は,ペルー南部高地に降る雨に由来する.(2)ペルー南部高地に雨が降るのは,「海の霧」が海岸から山に移動して,「山の霧」とぶつかった結果である.(3)雨期にもかかわらずペルー南部高地に雨が降らないのは,「海の霧」が山に移動しなかったからである.(4)海水を壷に入れて,海岸から山地まで持っていけば,山に雨を降らせることができる.
著者
公文 富士夫 河合 小百合 井内 美郎
出版者
日本第四紀学会
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.1, pp.13-26, 2003-02-01
参考文献数
45
被引用文献数
8 24

1988年に野尻湖湖底から採取されたオールコア試料の上部について,30~50年間隔の精度で有機炭素(TOC)・全窒素(TN)の測定と花粉分析を行った.<br>4点の<sup>14</sup>C年代測定,鬼界アカホヤ(K-Ah)および姶良Tn(AT)の指標火山灰年代に基づいて推定した堆積年代と,TOC・TNおよび花粉の分析結果に基づくと,遅くとも<sup>14</sup>C年代で1.4~1.5万年前より前には落葉広葉樹花粉の増加で示されるような温暖化が始まり,以後,「寒の戻り」を伴いながら約1万年前まで温暖化が進行した.約1.3万年(較正年代1.5万年前)前後には,「寒の戻り」を示す亜寒帯針葉樹花粉の明瞭な増加が認められる.約1,2万年前(較正年代1.4万年前)には,広葉樹花粉の急増と針葉樹花粉の激減があり,同時に全有機炭素・窒素量の激増も認められ,短期間のうちに急激に温暖化が進行したと推定される.なお,<sup>14</sup>C年代で約1.45万年前にも微弱な広葉樹花粉の減少が認められる.<br>これらの気候変動のパターンは,北大西洋地域の気候イベント(新旧ドリアス期など)とよく似ているが,本稿における編年に基づけば,北大西洋地域よりもそれぞれ2,000~3,000年ほど古いようにみえる.較正年代で約1.3万年前と9千年前においても,軽微な気候変動が認められ,そのうちの後者はボレアル期に対比できる.
著者
北村 晃寿 坂口 佳孝
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.43, no.1, pp.63-68, 2004-02-01
被引用文献数
2

函館湾で採取した堆積物コア試料から,小球状ガラス物質(直径0.5~2.0mm)と石炭粒子を含む級化層理の発達した細礫~砂層を見つけた.函館湾周辺には石炭層が露出していないことと,形態的特徴から小球状ガラス物質は熔融した物質が急冷固結したものと推定されることから,我々は小球状ガラス物質と石炭粒子を1945年の函館空襲による大型船舶の被弾・大破炎上時に放出されたものと考えた.そして級化層は,それらが1954年の洞爺丸台風時の暴浪によって再移動と淘汰を受け,類似した水理特性を持つほかの砂粒子とともに再堆積したものと解釈した.このストーム堆積物は,函館湾の堆積物から過去数百年間の気候・環境変動を解読するために重要な年代マーカーとなりうる.
著者
蔡 保全 高橋 啓一
出版者
Japan Association for Quaternary Research
雑誌
第四紀研究 = The Quaternary research (ISSN:04182642)
巻号頁・発行日
vol.42, no.6, pp.427-439, 2003-12-01
被引用文献数
2

台湾,チベットを除く中国南部(99°~122°E,21°~32°)の後期旧石器時代(40,000~9,000年前)における文化と環境の関係について,従来の研究をまとめた.<br>石器などの文化遺物に基づいて,この時代の中国南部は5つの文化地域に分けることができる.それらは,雲南-貴州高原地域(Yunnan-Guizhou Plateau Region),西四川高原地域(West Sichuan Plateau Region),四川盆地-長江南部丘陵地域(Sichuan Basin-the Hilly Regions south of the Yangtze River),長江の中・下流平野部(The Plain of the Middle and Lower Reaches of the Yangtze River),五嶺南部地域(the Area south of Wuling)である.一方,この地域の中~後期更新世の地層からは,ステゴドン-パンダ動物群が発見されているが,それらもまた地域ごとに動物種の組み合わせが異なっている.動物群集の違いは,おもに温度や湿度,緯度や高度とも関係して起こっている.<br>この論文では,5つの文化地域で見られる道具の特色の違いが,動物相の違いとよく一致していることを紹介した.<br>例えば,西四川高原地域は高度が高く,中国南部の中ではやや高い緯度に位置する.ここでは,ステゴドン-パンダ動物群は見られず,中国北部の動物相と北部と南部の遷移的な動物相が見られる.発見された動物種は,比較的冷涼で乾燥した草原性のものが多く見られる.この地域で見られた2万年前ごろの富林文化(Fulin Culture)では,狩猟生活を中心としており,その道具には小さなスクレイパー,尖頭器,彫刻刀などを使い,チョッピングツールを欠いていた.<br>緯度的にも低く,高度も低い五嶺南部地域には,典型的なステゴドン-パンダ動物群が生息していた.亜熱帯南部の気候で,高い温度と湿度があった.35,000~26,000年以上前と18,000~9,000年前の2つの時代に分けられているが,人びとの生活は狩猟よりも採集生活が中心であったため,大形のチョッパーが重要であった.<br>先にあげた2つの地域の間にある雲南-貴州高原地域では,ステゴドン-パンダ動物群の要素が45%ほど見られたが,それはこの