著者
薄井 和夫 DAWSON John
出版者
埼玉大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2007

本研究は、英国最大手の家電小売企業ディクソンズ社(現在DSGI社)が、(1) わが国カメラの英国への輸入とわが国チノン社との提携によって成長の端緒をつかみ、(2) 競合企業カリーズの買収を機に総合家電小売として成長を遂げる一方で、アメリカ市場参入の失敗による深刻な危機を経験し、(3) これを克服して現在の地位を確立するまでの発展の軌跡を解明し、「漸次的イノベーション」[=画期的な革新とは異なる部分改良型の革新]を同時並行的に継続することの重要性を明らかにした。同時に、わが国独自の系列家電チェーンの端緒を築いた戦前の展開を解明し、独立系企業の近年の展開によって欧米の家電小売業と直接比較研究を行ないうる条件が成熟してきたことを示した。
著者
薄井 和夫
出版者
マーケティング史学会
雑誌
マーケティング史研究 (ISSN:24368342)
巻号頁・発行日
vol.2, no.1, pp.3-23, 2023-03-31 (Released:2023-03-31)
参考文献数
112

本稿は,1900年代に成立する日本の商業学を準備した要素として,19世紀末における高等商業教育運動とその教育論,海外の商業史と商業経済学の翻訳書,わが国執筆者による商業史と商業経済学の内容を分析する。高等商業教育論は,実用教育への要請と学術研究を志向する議論とがあったが,後者が前者を排斥する傾向があった。だが,経営学も商業学も成立していなかったこの時期において,実用教育を排斥する学術研究の中味は漠然としたもので,またその「商業教育」は「商業」の枠を超えて経営者教育全般を意味していた。翻訳書では,まずイギリスの執筆者たちの商業史が翻訳された。それは世界貿易史であり,貿易を担う人材へ基礎知識を提供すると同時に,自由貿易こそが国を富ませるという社会経済的主張の裏付けであった。一方,商業経済学は,1890年代にドイツ歴史学派の影響が現れる中でドイツ人の商業経済学が翻訳され,20世紀初頭のわが国の議論に一定の影響を及ぼした。日本人執筆者たちによる著作では,1890年代に日本商業史が外国貿易史および国内商業史として成立した。一方,商業経済学は玉石混交であったが,「純粋の商業」と「補助商業」の区別や,商業経営論の萌芽などが確認でき,1900年代における商業学の成立を準備していた。