著者
薄井 晴
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.218, 2020 (Released:2020-03-30)

1.既往研究の課題と研究目的 出生率は地方部で高く都市部で低いという傾向が,欧米諸国や日本で共通して確認されている.しかし,そのような分布パターンが生じる要因が解明される段階には至っていない(Kulu 2013). このように出生率の空間的分布パターンが立ち遅れている原因としては,市区町村別統計表を分析する際の作業量が膨大である点と出生率の地域差が生じる要因が多岐にわたる点が想定される.しかし,インターネット上での統計表公開が進み,とくに前者の障壁は克服可能なものになりつつある. 以上を踏まえ本研究では,全国的かつ通時的な統計分析を実施し,合計特殊出生率の地域差が生じる要因として有力な仮説を提示することを目的とする.2.研究方法 本研究ではまず,Kulu(2013)の枠組みに基づき,出生率の規定要因として想定される候補を提示する.そのうち,国勢調査を用いた指標化が可能であるものを取り上げ,合計特殊出生率との単相関分析を行う.分析対象地域は日本全国,分析対象年次は2000年以降とし,分析指標の数は最大157となった. なお,本研究では可変単位地区問題によって分析結果の解釈に混乱が生じることを避けるため,以下の手順を踏まえる.(1)都市雇用圏を用いて市区町村を「中心都市・郊外・都市雇用圏外」等に区分する.そして,その区分別に合計特殊出生率の構成比を検討することで,出生率分布により厳密な説明を加える.(2)相関係数を計算する際には,都道府県と市区町村の両方を分析単位として設定し,両者の結果を比較しながら分析する.3.都市雇用圏と合計特殊出生率の関係性(1)「大都市雇用圏に含まれる自治体」「小都市雇用圏に含まれる自治体」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.(2)「中心都市」「郊外」「都市雇用圏外」の順に,合計特殊出生率の高い自治体の割合が増していく傾向が確認された.ただし,2005年になるとこの傾向は小都市雇用圏を中心に変化する.(3)都市雇用圏を総人口で区分した結果,都市雇用圏内の総人口が増加するにつれて,合計特殊出生率の高い自治体の割合が減少していく傾向が確認された. 以上の結果より,出生率の地域差を分析する際に,都市圏構造を無視することはできない点が指摘される.4.合計特殊出生率と規定要因の候補との単相関分析結果 正の強い相関関係が確認された指標は,高齢人口割合の高さ,1世帯あたり人員の多さ,通勤時間や通勤距離の短さ,住宅の広さ,居住地移動の少なさに関するものであった.負の強い相関関係が確認された指標も,上の結果と概ね対応するものであった. 以上の結果より,独立転居によって親族から子育て世代への支援が減少している点,人口過密問題によって長い通勤時間や狭小な住宅が強いられている点が,とくに都市圏の中心都市・郊外における合計特殊出生率の低下に寄与していることが推測される.参考文献Kulu, H. 2013. Why Do Fertility Levels Vary between Urban and Rural Areas?. Regional Studies 47: 895-912.
著者
薄井 晴 吉沢 直 郭 慶玄 矢ケ崎 太洋 呉羽 正昭
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集
巻号頁・発行日
vol.2019, 2019

1. はじめに<br><br> モータリゼーションの進展,流通資本による大型小売店の郊外立地,少子高齢化などの影響を受け,地方都市の商店街は衰退している。こうした苦境を打開するため,地方商店街では地域資源を活かした観光振興が取り組まれ, 注目を集めている。例えば, アニメを活用した茨城県の大洗町商店街(小原,2018), 「昭和レトロな町」という地域イメージを創出した東京都の青梅商店街(設楽・菊地,2008)では, 商店街の顧客圏を定住人口から交流人口へと拡大し, 地域アイデンティティが再構築される様子が報告されている。 しかし, 商店街と観光に関する既往研究は, 商店街活性化を目指し新たに観光資源を創出した事例の分析に留まり, 古くから地域に根ざした観光資源と商店街の関係性について検討したものはみられない。<br><br> 以上を踏まえ本研究では,花見観光の目的地として著名な長野県伊那市高遠町のご城下通り商店街を対象に,花見観光の実態と商店街の商業機能の分析した上で, 伝統的な観光資源と商店街の関係性を明らかにする。<br><br> <br><br>2. 花見観光と商店街の変容<br><br> 約700年の歴史を持つ高遠城址公園は, 桜の名所として名高く,伊那市全体の観光施策において主要な観光資源として位置づけられている。しかし,開花期間中に高遠城址公園で開催される「さくら祭り」の入場者数は, 2000年ごろから減少傾向にある。また, さくら祭りは各年の開花状況によって集客数が異なるため, 不安定な観光資源となっていた。<br><br> ご城下通り商店街は, 古くより高遠城の城下町として発展し, 周辺地域の中心機能を担ってきた。しかし, 全国的な動向に同じく, 近年は空き店舗が増加しており衰退傾向にある。また, 空き店舗の増加は商店街の裏通りで顕著であった。一方,商業機能が比較的維持されているご城下商店街の表通りにおいても,今後の経営継続意向がない店舗が多く存在し, 特に近隣住民を主な顧客とする伝統的な店舗でその傾向が顕著であった。また, 全体の半数以上の店舗の主要顧客圏は高遠町内であり, 観光客の来店はほとんどない状況であった。<br><br> <br><br>3. 花見観光と商店街の関係性<br><br> 古くはさくら祭り期間中に商店街の店舗による高遠城址公園内での出店が積極的に行われていたが,樹木保護など環境保護の観点から出店数が大幅に減少した。その後,来訪者数の減少により収益が見込めないことや,労働力不足など商店経営上の理由により,さくら祭りへの出店をやめる店舗が増加した。またご城下通り商店街の店舗においても, 商店街に滞在しない観光客が増加したこと, お土産の購入量が減少したことにより, 観光収入は減少傾向にある。つまり, 花見観光と商店街の関係性は希薄化傾向にあるといえよう。<br><br> <br><br>4. おわりに<br> 伊那市全体において観光振興が目指されており, その中での花・歴史の主要な観光資源を持つ高遠町は, 観光振興において重要地区となっている。しかし,その高遠町の主要な商業集積であるご城下商店街は衰退傾向にあり, 花見観光と商店街の関係性も希薄化が進んでいた。今後, どのようにご城下通り商店街で収益構造を作り, 高遠町に利益を生み出すかが課題となっている。